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第34話 ランク戦 I Ⅱ③

 マルメルの機体が背面に取り付けられたスラスターを全開にして敵機に突っ込んでいく。


 「マルメル君がんばれー!」


 その様子を見ながらふわわが聞こえていない応援をしていた。

 彼女のランク戦が一段落したので交替でマルメルが入ったのだ。

 マルメルの機体もしっかりと強化が施されている。 元々、ふわわと同様に機動性を重視していたが、彼には隔絶した近接スキルはないので堅実な構成にする事にしたのだ。


 機動力と装甲の強化を両立させるべく、外付けの追加装甲と補助スラスターを導入。

 火力に関しても腰にマウントされた短機関銃はそのままだが、追加装甲内に弾丸を格納して自動で給弾する機構を組み込んだ。 少しでも軽くするべく、短機関銃は小口径弾を採用した。


 メインで扱う突撃銃も取り回しを優先してグリップや引き金の後ろに主要機構が集中したブルパップ方式のタイプに変更。 これは外付けのパーツで銃身を伸ばせるので状況によっては伸ばした状態で持ち込んで射程を広くする事も可能だ。 マルメルの場合はふわわのように躱せる訳ではないので、少々の被弾は許容して殴り合う事を想定している。


 「あそこまでやるんだったらもうヨシナリ君みたいに遠くから削った方がいいんじゃない?」

 「そうしたい所ではあったんだけど、マルメルは離れすぎると当てられないから安定して当てるにはあの短い銃身の突撃銃が届く範囲になるんですよ」


 元々、中~近距離が得意なレンジなので、中距離から逸脱するような武器はあまり好ましくない。

 マルメルの真価は中距離での撃ち合いで発揮される。 

 その為、現状で彼の力を最大限に活かす事の出来るビルドはあれ以外はあり得なかった。


 相手も重装甲と大口径の突撃銃を装備しており、正面から撃ち合う構えだ。

 両者の銃が火を噴き、火線が交錯する。 マルメルは器用に躱し、敵機は機動力を捨てた重装甲故にまともに被弾するが、盛りに盛った追加装甲に阻まれてあまり効果があるように見えない。


 「あんまり効いてないね」

 「この辺はバランスを取る関係で犠牲になった部分ですね。 あの銃で抜きたいなら同じ場所を集中して弾丸を叩き込むしかない」

 「特訓の時もそうだったけど、結構当たる場所ばらけてるから難しいんじゃないかな?」

 「そこはある程度想定しているから一応、手は打ってあります」


 大丈夫かなと首を傾げるふわわにヨシナリはそう言って頷いた。

 威力を犠牲にしている以上、防御に振った機体相手だと分が悪い。

 それを解消する為の武器は積んでいる。 マルメルは腰にマウントされた二挺の短機関銃と手に持った突撃銃の計三つの銃口から弾丸をばら撒き、空いた手にマウントされている盾を構えながら距離を詰める。


 「ブレードか何か?」

 「一応、持ってはいるけど最後の手段ですね」


 ふわわは距離を詰めている点から近接武器かと予想したがヨシナリはやんわりと否定。

 では距離を詰めてマルメルは何をしようとしているのか?

 答えはヨシナリ達が見ている先で示された。 マルメルは近接武器を使用するにはやや遠い間合いで腕の追加装甲に収納されていた缶のようなものを取り出すとボタンを押して起動。


 軽い動作で放り投げる。 同時にマルメルは頭部を盾で庇い、缶が炸裂。

 凄まじい光を周囲にまき散らした。 


 「うわ、光る奴かぁ。 ウチあれやられると嫌だな」

 「まともに喰らうと数秒は視界がホワイトアウトするから、その間は完全に隙だらけになります」


 閃光手榴弾。 トルーパーのセンサー類を麻痺させる強烈な光を放つ武器だ。

 使い捨てな上、何個も持ち込めないので気軽に使えない代物だが、動きが遅い相手にはそれなりに刺さる。 それを証明するように視界が完全に死んでいるであろう敵機は突撃銃を振り回すように碌に狙いを付けずに撃ちまくっていた。


 明らかにマルメルの機体を見失っている。 その隙に接近し、コックピットに銃口を押し当ててフルオート射撃。 流石にほぼゼロ距離からの射撃は防ぎきれなかったようで、抵抗するように最初は弾いていたが屈するように装甲を貫通し、力なく崩れ落ちた。


 決着が着いた事を確認したマルメルは勝利の雄叫びを上げ、腕を天に突きあげている。



 「おー、すごーい! いい感じじゃない?」

 「うん。 俺もそう思います。 相性が悪いのはさっきみたいな重装甲タイプだから、対策取っといてよかった」

 「でも狙撃とかも厳しいんじゃない?」

 「いや、ふわわさん、自分の機体の極端さ見せつけといてそれ言う?」

 「あはは~。 でもウチより動きが鈍いんだから危なくない?」

 「確かに危ないけど、一応こっちも対策は取ってるから、ある程度はどうにかなるはず」


 これに関してはヨシナリ自身も有用な話だった。

 対スナイパー用の訓練も行ったので余程の格上でもない限りは大丈夫の筈と思っている。


 「そうなん? だったらその対策取る所みたいな~」

 「何戦かするつもりみたいだから運が良ければ当たるかもですね」


 そんな話をしている間にマルメルが次の相手とマッチアップしたので戦闘が始まった。

 今回の相手はマルメルと似たようなビルドで、短機関銃を二挺持ちだ。

 互いの戦い方が同じなので、早々に距離を詰めての撃ち合いとなった。


 「あ、上手い。 武器の微妙な差を上手に使ってるね」


 ふわわの言う通り、マルメルの突撃銃は銃身が短いとは言え、短機関銃よりも射程が長い。

 その為、同じ距離で被弾しても受けるダメージに差が出るのだ。

 時間経過でその差は顕著となり、敵機は早々に気が付いて距離を詰めようとするが、マルメルは巧みに距離を取ってそれをさせない。 こうして見ると彼は間合いの取り方が非常に上手い。


 付かず離れずを見事に体現し、そのまま敵機を沈めた。

 ふわわのような派手さはないが、堅実に戦い勝利を積み重ねる姿はヨシナリからすれば好ましい。

 武器の使用率は突撃銃、短機関銃はトップクラスに多いので、中距離戦での立ち回りで相手を上回ればマルメルは勝利を積み重ねる事ができるだろう。


 その証拠に危ない部分こそあったが、二戦、三戦と勝利を重ねていく。


 「おー! また勝った。 ――ところで今までスナイパーとは当たらなかったから、どんな対策をしていたのか気になるんだけど?」


 そろそろ引き上げそうな雰囲気だったのでヨシナリは端的に応えた。


 「電子妨害手榴弾チャフグレネードですよ。 それで相手のセンサー類を機能しなくしてから接近。 割とギャンブルだけど、上手く行けばそのまま押し切れる」


 出来たら勝てるができなければ負ける可能性が非常に高い手ではあったが。

 今の予算ではこれ以上は難しかった。

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