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第41話 ユニオン⑤

 ゾンというプレイヤーはヨシナリの見立て通り大したことはなかった。

 戦い方は弾幕を張ってのごり押し。 シンプルではあるがそれだけなので、技量という点では同ランク帯でも低いと言わざるを得ない。 それでもここまで上がってこれたのは相応に時間をかけて装備を揃えてきたからだ。 


 反面、努力などを面倒と考える傾向にあったので、時間はかかるが精神的な負荷の少ない行動を取る。

 その結果がマルチミッションで弾をばら撒くだけのプレイスタイルだった。

 できない事は他人に押し付け、簡単な事だけでポイントを稼ぐ。 あまり褒められた行動ではないが、目立った問題は起こっていないので大丈夫と判断したようだ。


 そんな経緯もあって出来上がった彼の機体が重装甲、高火力に特化させる事だった。

 彼は一方的に敵を屠る事が大好きで、負ける事は大嫌い。 そんな性格を象徴しているかのような機体はとにかく打たれ強く、並の攻撃は容易く跳ね返す。 仮に勝てなかったとしても今回のような集団戦であるなら粘っていたら味方が助けに来る。 つまりここで敵を釘付けにしておけば勝手に勝ちが転がり込んでくると彼は考えていた。


 突撃銃と追加購入したロングマガジンは長時間の弾幕を維持する事を可能としていたが無限ではない。

 ガキリと金属音と共に弾が切れて弾幕が途切れる。 敵が引っ込んだままならこのまま交換作業。

 飛び出そうとするなら予備の突撃銃で弾幕を張る。 彼の行動バリエーションは少ないが、それ故に分かり易く無駄を削ぎ落せともいえるだろう。 


 ――問題はそれが通用する相手ならだ。


 敵機は隠れていた岩陰から何かを放り投げて来た。

 手榴弾グレネード。 何の問題もないとゾンは頭部に搭載されているギミックを起動。

 バイザーが降りる。 これは閃光手榴弾からセンサーを守る為の仕掛けだ。


 視界が塞がれるのは厄介なのでそれに対する防御手段。 空中で炸裂した手榴弾は閃光を撒き散らすが若干、視界が光で埋め尽くされたがセンサー類に不具合はない。 


 ――クズが読めてんだよ。


 そんな見下した考えで更に弾幕を張ろうと――不意に敵機が岩陰から飛び出した。

 想定以上の馬鹿だったようだ。 恐らく相手はこちらが見えていないのだろうと判断したのだろう。 ゾンは内心でほくそ笑み、その希望を打ち砕くべく突撃銃を向けようとして違和感に気が付いた。


 『ほい』


 相手のそんな声が聞こえたと同時に天地が逆転。 

 ゾンの機体の片足が大きく跳ね上がり、バランスを取れずに転倒した。

 何がと原因を探ると片足にワイヤーのようなものが巻き付いているのが見える。


 恐らく閃光手榴弾で視界を塞いだ瞬間にワイヤーを巻き付け、物陰から飛び出す勢いを利用して引っ張ったのだ。 


 「く、くそ。 このクズが舐めやがって……」


 起き上がろうとするが、彼の機体は装甲を盛りに盛った状態なので機体のバランスがあまり良くなかった。 その為、一度完全に転倒してしまうとスムーズに起き上がれないのだ。


 『俺も経験あるよ。 機体が重いから一回、引っ繰り返ると中々起き上がれないんだよなぁ』


 いつの間にか敵機は彼の目の前におり、両手の突撃銃と腰にマウントされた二挺の短機関銃の合計四つの銃口が向けられていた。


 「ちょ、待て! 待てって!」


 ゾンの願いは虚しく四つの銃口からフルオートで放たれた銃弾の雨は至近距離だった事もあり彼の機体の頑丈な装甲を容易く突破し、機体に致命的な損傷を与える。

 上半身が文字通りハチの巣のような有様になったゾンの機体はそのまま沈黙。 


 画面には撃破されましたの文字。 悔しさと敗北を認められないプライドが罵詈雑言となって吐き出されるが、既に敗北しゲームから切り離された彼の声は誰にも届かなかった。



 「ふいー、楽な相手で良かったぜ」


 マルメルは念の為にと撃破した機体のコックピット部分を最後に踏み潰してそう呟いた。

 彼も以前は似たようなスタイルだったのでこの手の戦い方の強みと弱みはよく理解していたが、早々に切り替えたのはヨシナリのアドバイスがあったからだ。


 そもそも初期のソルジャータイプは対弾性能に優れている訳ではないので足を止めての撃ち合いにはあまり向いていない。 どうしてもやりたいなら重装甲と高火力のパンツァータイプでないと低ランク帯までしか通用しないだろう。 二足歩行で重装甲の機体は普通に移動する分にはその重量もあって安定しているが、それ故に完全に体勢を崩されると脆い。 


 盛った重さが邪魔をして体勢を立て直す事が難しいのだ。 

 ヨシナリとふわわと行った模擬戦の結果を思い出してマルメルは遠い目をする。 

 ヨシナリには狙撃銃で執拗に頭部を撃ち抜かれてセンサー類を潰された後、何も見えなくなった状態で嬲り殺しにされ、ふわわに至っては足の関節にダガーを突き立てられたり、目の前のゾンのように射出式のワイヤーアンカーで引っ繰り返されて動けなくされてから切り刻まれた。


 半端に硬かったせいでどちらにも嬲り殺しにされる結果になったのは彼にとっても苦い思い出だ。

 だが、一つ学びを得た。 半端な重装甲では転倒時の立て直しが難しく、起き上がる頃には終わってしまうと。 少なくともソルジャータイプを使っている間は機動力と火力を両立できる機体構成を意識し、自分自身を高める事を意識した方が良い。


 それを実行した事で少しは強くなったような――気がする。

 気がするのは目の前に転がっている敵機の残骸を見れば成果として存在するが――

 不意にセンサーに反応。 敵機の接近に振り返ると強敵かと思われていた敵機がボロボロになった状態でそこに居た。


 両腕は肘から先がなくなっており、頭部にはダガーが突き立ってバチバチと火花を飛ばしている。 

 それでもセンサー類は辛うじて生きているのかやや覚束ない足取りで飛び出してきたのだ。


 ――あーあ、可哀想に。


 マルメルは反射的に持っていた突撃銃を向けたが、獲物を横取りすると怒られそうなのですぐに下ろした。 ボロボロの敵機はゾンに助けを求めに来たらしくマルメルの足元に転がっている残骸を見て硬直。

 それが最後だった。 金属音。 敵機がゆるゆるとした動作で振り返ると足にワイヤーアンカーが突き刺さっていた。 次の瞬間、何かを巻き取る音がして敵機が森の中へと引きずり込まれるように消えていく。 姿が見えなくなった後、ぐしゃりと何かを潰す音が聞こえて静かになった。


 『あ、そっちも終わってたんだ。 おつかれ~』


 そしてふわわの機体がひょっこりと姿を現した。

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