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第409話 模擬戦『星座盤』③

 高度を取った後、突撃銃を連射。 シニフィエはビルの隙間に入って躱す。 


 「闇雲にばら撒いても当たらねぇだろ」

 「そやねぇ。 でも、一応は考えてるみたいやなー」

 「うん。 突撃銃に榴弾砲が付いてる」


 突撃銃で当て易い回避先に誘導してグレネードで範囲攻撃。 

 一応は考えているようだが、狙いが雑なのでシニフィエは無傷。

 ふわわもそうだが、シニフィエ相手に手癖で仕掛けても通用せずに終わるのはこれまでの経験で痛いほどに学習しているはずだ。 何かを狙っているのかそれともこれ以上は出てこないのか――


 ヨシナリはホーコートの動きを注視していたが、そこでおや?と小さく目を見開く。



 ――今回こそは勝つ。


 ホーコートはこの戦いの為に可能限りの準備を行って来た。

 前回のイベント戦。 Sランクとの戦いで沈んだのは自分だけ。

 自分よりもランクの低いシニフィエですら活躍したというのに。 


 不甲斐ない。 彼の胸中には自分の力のなさによる怒りが渦を巻く。

 だから、ホーコートは自分なりに強くなる為に模索をしてきたつもりだ。

 ヨシナリは言った。 自分の強みを活かせと。


 ホーコートは自分の強みを完全にではないが理解はしていた。

 右旋回からのアタックと上への縦の動き。 この二つに限っては上位のプレイヤー相手にも通用すると言われていたが、バリエーションが非常に少ないのでランク戦では通用するが『星座盤』のメンバーには誰一人として通用しない。 寧ろ、読み易いので使って来るのを待っている節さえあった。


 実際、右旋回を使った瞬間に負けるパターンが非常に多い。

 ヨシナリ、グロウモス相手だと特に致命的で動いた瞬間に撃ち抜かれる。

 マルメル相手でも似たような物で、旋回モーションに入った瞬間にハチの巣だ。


 ふわわ、シニフィエだと先回りされて刈り取られるので下手に使うとそこで終わる。

 確かにシニフィエはランクが下でこのゲームでの経験値としてはホーコートの方が上ではあるが、戦闘のセンスに関しては彼女の方が圧倒的に上。 少なくとも実力という点では彼女の方が上だと認めざるを得ない。


 ――自覚しろ。 俺はこのユニオンで一番弱い。


 弱いからこそ必死に相手の隙を窺い、勝機を探し当てるのだ。 

 シニフィエは基本的にリアルスキルである格闘戦を主体としているので、飛び道具はほとんど使わない。 以前は使っていたがしっくり来ないのか投擲武器に偏るようになった。


 その為、安全に攻撃するだけなら中~遠距離を維持しておけば負けはしない。

 ただ、回避スキルも高いので負けないだけで勝てないのだ。 その為、勝つ為には危険を冒す必要がある。 そしてシニフィエはホーコートがその選択をしないと思っているはずだ。


 ――そこを突く。


 まずは遠距離から削り、相手に肉薄させる展開に持って行く。

 ホーコートがシニフィエに負けるパターンは射程外から撃ちまくって残弾が心許なくなった所で徐々に距離を詰め、途切れたタイミングでシニフィエが踏み込み、それに対応しきれずに敗北といった流れだ。


 下手にダラダラやっても集中力が落ちてミスに繋がるので、早めに決めに行く。

 最後の榴弾を撃ち込んだと同時にエネルギーウイングを噴かして急降下。

 回避した方向に向けて突撃銃を連射。 シニフィエはビルの陰に入る。


 上手い具合にホーコートの視界から消えた。 恐らくは追いかけて角を曲がった瞬間に来る。

 間違いない。 そこをカウンターで一撃だ。

 腰のエネルギーブレードに手をかけつつ加速。 角を曲がると同時にブレードを抜いて一閃。


 居るはずだ――そう考えたがブレードは空を切っていた。

 シニフィエの姿はなく、代わりにビルの角に手裏剣が刺さっており、ちょうどホーコートの視線の高さと同じ位置にある。 何だと訝しむ間もなく手裏剣が閃光を撒き散らして爆発。


 センサーシステムが光によってホワイトアウト。 完全に麻痺してしまった。

 これは不味いと距離を取ろうとしたが、機体に何かが絡みつく。


 「奇襲を意識したのは悪くありませんが読みが浅すぎですね」


 シニフィエの声が聞こえ、次の瞬間には天地が逆さになり、後頭部が地面に叩きつけられた。 

 立て直す間もなくコックピット部分に衝撃が走って撃破。 試合終了となった。



 「……えげつねぇ……」


 マルメルがぽつりと呟く。 ヨシナリも全く同じ感想だった。

 ホーコートは明らかに仕掛ける機を窺っており、それを敏感に感じ取ったシニフィエはわざと誘いに乗ったのだ。 不用意に突っ込むホーコートを見て何かあると判断した彼女は角を曲がり、ビルの陰に入ると同時に手裏剣をビルに突き刺す。


 時間差で爆発するようにセットしてだろう。 

 それに気付かなかったホーコートはそのまま突っ込みブレードを一閃。

 恐らくは角で待ち伏せていると読んでの動きだろう。 だが、シニフィエはそこにはおらず、カウンターは空振り。 そして手裏剣が爆発し、閃光を撒き散らす。


 この時点でホーコートのカメラが死んだ。 

 視界ゼロの状態は不味いと判断して下がろうとしたが、爆発と同時にシニフィエはホーコートの機体に飛びつき、両足でその頭部を挟む。 そのままブースターを噴かして挟んだ頭部を地面に叩きつけた。 所謂、フランケンシュタイナーという技だ。


 飛びついた勢いにブースターによる推進力を合わせて地面に叩きつけられたホーコートの機体は後頭部から地面に突っ込み、頭部と背面のパーツが砕ける。 エネルギーウイングも破壊された事で完全に身動きが取れなくなったホーコートに持っていたロッドでコックピット部分を一突き。


 それで終了だった。 完全に対応力の差が勝敗を分けたと言っていい。

 ホーコートは角に待ち伏せしている可能性しか考慮せずにそれに賭けて負けたが、シニフィエは引っかからなかった場合も視野に入れており、あの手裏剣のトラップが空振りだったとしても別の手を打っていただろう。 ビルに登る、距離を取る、追撃をかける。


 彼女の位置からはいくつもの選択肢があった。 


 ――まぁ、動きを読もうとしただけでも成長か。


 ホーコートに関しては気長に育てるつもりだったので何か考えて戦っている事が見えただけでも収穫だった。 二人が戻って来たのを確認してヨシナリはメンバーを振り返り――


 「じゃあ次は俺達の番ですね。 やりますか」


 ――そう言った。

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