マルメルは咄嗟にエネルギーフィールドを展開しつつ回避。
距離が近いので貫通すると判断しての回避行動だ。 ヨシナリの放ったエネルギー弾はマルメルのフィールドに阻まれ、僅かな時間停止。 その一瞬とも言える時間でマルメルは射線から逃れる。
「マルメル君やるなぁ。 若干のズレはあったけどタイミングは合ってるね」
明らかに死角から飛び出したヨシナリの一撃を無傷で凌いでいる。
ヨシナリは加速して別の路地からまた一撃。 移動して更に一撃。
「うわ、えげつねぇ……」
ホーコートは思わずといった様子で呟く。 それもそのはずでヨシナリは広い道路を通りつつ、マルメルを射線に捉えられる路地に差し掛かったと同時に発射。 マルメルは捉えきれずに一方的に防いでいる状態だ。
「……無闇に撃ち返さない辺り冷静」
「ですねぇ。 お義兄さんも上手に地形を活かしているのでこの状況を引っ繰り返すのはちょっと難しいかもしれませんね」
「ウチにもそう見えるけど、マルメル君は何かを狙ってるなぁ」
マルメルは攻撃を防ぎつつ移動。 射線を切る意味もあるが、何処かへ誘導しているような作為を感じる。 ふわわはウインドウを操作して戦場を俯瞰。 これと言って気になる地形はない。
マルメルの傾向的に何処かのタイミングでの一発を狙っているはずだ。
怪しいのは肩に追加で積んだ散弾砲だ。 銃ではなく砲。
巨大な銃口からかなりの威力がある事が窺える。 加えて銃床部分が斬り落とされているので完全に搭載武器――要は肩に積んだまま運用する事を前提で装備しているようだ。
「銃床を落としてるから可動範囲はかなり広い。 あれ? もしかして――」
グロウモスは何かに気が付いたのかブツブツと何かを呟く。
俯瞰になった戦場の映像を見て何かに気が付いたように小さく声を上げた。
「何か気付かれましたか? グロウモスさん」
「多分、マルメルは大きい交差点に向かってると思う」
グロウモスは拡大された地図の一点を指し、ここだと思うと呟く。
「何で交差点?」
「……ヨシナリが攻撃し易いから」
どういう事だとふわわが聞き返そうとしている間にマルメルの機体が交差点へと到着。
グロウモスの指さした場所だ。 辿り着くまでにヨシナリの攻撃に晒され、少なくない損傷を受けているが、戦闘に支障が出るレベルではない辺りは流石だった。
マルメルは交差点の中央で停止し、両腕のハンドレールキャノンを展開。
ヨシナリはビルを縫うように飛ぶ。 下手に近寄らないのはマルメルの火力を警戒しての事だろう。
だが、マルメルが明らかに勝負に出ているのはヨシナリも悟っているはずだ。
つまり、ヨシナリも次で仕留めに行く。
交差点の真ん中なのでマルメルに当てたいのなら道路まで飛び出す必要がある。
ヨシナリは慎重に仕掛け所を見極めているのか迂闊に仕掛けるような真似はしなかった。
だからと言っていつまでも動き回っている訳にも行かない。
全員がその時が来るのをじっと見守る。 そしてヨシナリが意を決したのか動きが変わった。
死角となる位置――ではなくマルメルから見て右側に出るようにビルの隙間から飛び出す。
エネルギーの充填を済ませたアシンメトリーの銃口が輝きを放っている。
同時にマルメルも動いていた。 ヨシナリの方を一切見ずに左右にハンドレールキャノンを構え、散弾砲の片方が180°動き、前後に銃口を向ける。
――発射。
『マジかよ!?』
ヨシナリが思わず叫ぶ声が聞こえた。 ヨシナリのエネルギー弾がアウグストのバックパックを射抜き、マルメルの放った弾体がホロスコープの両足を纏めて消し飛ばす。
「はは、凄い凄い! 何処から来るか分からへんから四方全部に攻撃したんか! 確かにこれやったら簡単には躱せへんな!」
「いや、そんな簡単な物じゃないです。 見ないで――所謂、ノールックで当ててますよ」
本来ならコックピット部分を狙った狙撃だったのだが、マルメルの想定外の反撃に咄嗟に回避をした結果狙いが逸れてしまったのだ。 ヨシナリはスラスターとエネルギーウイングを噴かして体勢を立て直すが、マルメルはその間に背の壊れたバックパックと強化装甲をパージして余計な荷物をすべて捨て、アノマリーを構えて即座に連射しながら突っ込んで行く。
ヨシナリはアシンメトリーでは間に合わないと判断し、アトルムとクルックスを構えてバースト射撃。 マルメルはエネルギーフィールドを展開しながら機体を左右に振って回避しつつ肉薄する。
ヨシナリはメインのブースターである両足を失っているので逃げ切れないと判断したのだろう。
近くのビルの陰に入ると同時に急上昇。 上から仕掛けるつもりだ。
本来ならマルメルは真上からの攻撃に対してあまり強くなかったが、強化装甲をパージしている状態なので腕の可動域が広がっているのっで死角が減っている。 加えて、ヨシナリが勝負に出ると読んで、既に銃口は上に向いていた。 更に連射、アノマリーに刺さっているダブルドラムマガジンは簡単に弾切れを起こさない。
ヨシナリも躱しきれないと判断したのかアシンメトリーをパージして腕を盾にするように構える。
そんな事で防げるのかと思ったが、装甲の隙間からエーテルが噴き出し、盾を形成。
「あー、あんな使い方もできるんかぁ」
「噂のベリアルさんの装備ですね。 汎用性凄いなぁ……」
弾を防ぎながらヨシナリは応射しつつマルメルに向けて突っ込んで行く。
マルメルは押し切るつもりなのか動かずに連射しながらエネルギーフィールドを展開。
同時にアノマリーの弾が切れたので即座にリロードと同時に腰の短機関銃がヨシナリの方へと向く。
バックパックを捨てているので弾は限られているが、リロードの時間を稼ぐ事ぐらいは可能だろう。
恐らくマルメルはヨシナリがフィールドを突破して来ると睨んでいたのだろうが、一点だけ見落としている事があった。 エーテルの盾が銃弾に耐え切れず砕け散るが、既に最後の攻撃態勢に入っている。
大剣を変形させたハンマーを振りかぶっており、それをエネルギーフィールドに叩きつけた。
可変式大剣――イラの別形態であるスペルビアはエネルギーフィールドの破壊機能がある。
それにより、マルメルの展開したフィールドを一撃で粉砕した。 ヨシナリの攻撃はそれで終わらず、残った推進装置の全てを使用して機体を回転。 そのまま追撃へと繋げた。