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第416話 模擬戦『星座盤』⓾

 ビルを次々と貫通して減衰こそしたがトルーパーを一機消し飛ばすには充分な威力だ。


 「うわ、すっげぇな。 でもふわわさん相手に当てるの無理じゃね?」


 ヨシナリはふむと考える。 マルメルの言う通りだった。 

 グロウモスもその程度の事は承知の上だろう。


 フォーカスするとスコーピオン・アンタレスが冷却の為の排熱を行い。 外付けであろう増幅器に刺さっていたバッテリーのような物が外れる。 グロウモスは慣れた動作でバッテリーを交換すると即座に変形して移動を開始。 四つ足形態の走破能力は非常に速く、ふわわでも簡単に捉える事は難しい。


 追うふわわの動きを意識してグロウモスは一気に引き離す。

 これはドローンを使用しているからこその挙動だ。 充分に距離を取った所で変形しながらスコーピオン・アンタレスを構える。 エネルギーが充填、銃口に光が灯った。


 発射まで数秒を要するが威力に関しては突出している。

 発射。 ビルを次々と貫通してふわわへとレーザーが飛んでいく。

 当然ながらふわわは回避。 グロウモスは撃った後、即座に変形して移動。 位置を変える。 


 ――狙いは何だ?


 当てに行っているのは分かるが、当たらない事は理解しているはずだ。

 にもかかわらずグロウモスの動きには焦りは見えない。 躱される事も想定内といった様子だ。


 「もしかして躱させてます?」


 シニフィエが小さく呟く。 言う通りだと思った。

 明らかに躱される事を意識している。 見ている間にまた発射。 当然のように回避。

 アレを撃つには相当量のエネルギーが必要だ。 自前のジェネレーターだけでも賄えなくなるが逃げる事が出来なくなるので外付けのバッテリーを使い捨てている。


 ――撃つ事でどこかに追い込んでいる? 


 位置取りに関しては距離を取る事を念頭に置いている事は明らかだったので、そういった意図ではない事は明らかだ。 なら、何なんだとふわわの機体にフォーカス。


 「――ん?」

 「あれ? 何かおかしくね?」


 ヨシナリは違和感に眉を顰め、マルメルも気が付いたのかそう呟いた。 

 明らかにふわわの機体は明らかに動きが鈍っている。 何かしたのかと注視すると――


 「うわ、だからあんな大砲を使ったのか」


 ――ふわわの機体表面が熱で爛れていた。


 ビルを纏めて貫通できるレベルの高出力のレーザーだ。 

 躱したとしても余熱だけでも機体にダメージを与えられる。 

 明らかにふわわの動きが鈍っている所から推進系が痛めつけられている事は明らか。


 グロウモスは最初から当てるつもりではなく、ふわわの足を捥ぎ取る事だけを考えていたのだ。

 いくら彼女が銃弾を切り払う超人的な反応を誇っていたとしても機体がまともに動かないなら話は別だ。 基本的にトルーパーは全環境に対応しているので熱にもある程度は強い。


 だが、エネルギーウイングなどの推進装置は剥き出しな分、他よりも多少ではあるが脆弱だ。

 要はふわわが動けなくなるまで遠距離から削り続けるつもりなのだろう。

 その過程で当たれば良し、そうでないなら機体のダメージを蓄積させる。


 戦い方に大きな変化はないが、その根底にある物は大きな変化を果たしていた。

 少なくとも相手を絶対に仕留めてやろうといった勝利への渇望、執念と言い換えてもいい物が見え隠れしている。 実際、ふわわ相手には驚くほどに有効な手だ。


 彼女の得意レンジは転移刃や野太刀を含めても中距離まで。 

 遠距離に対応した武装はヨシナリの視た限りは積んでいる様子はない。

 つまり彼女の武器を知っているならどの距離を維持すれば安全なのかが分かるのだ。


 加えてキマイラパンテラに乗り換えたグロウモスの移動力は大きく上がっているので距離を取るのも容易である。 ただ、どれだけバッテリーを持ち込んでいるのかで攻撃回数が変わってくるのだが、弾が切れた時が彼女の腕の見せ所なのかもしれない。 それとも手持ちの残弾で仕留められる見込みがあるのだろうか? ふわわも何の手立てもなく逃げ回っている訳ではなさそうだ。


 わざとビルを撃たせて障害物を減らす事に意識を置いている。 

 グロウモスに対して間合いを詰められないのは彼女が素早い事もあるが、この市街地という地形を上手に使ってるからだ。 障害物がなくなれば逃げる事は難しくなる。


 「これは我慢比べになるのか?」


 ヨシナリはそう呟いたが、ぼんやりとだが違うと思っていた。

 ふわわもふわわで何かを狙っている。 それ以前に彼女もグロウモスと戦う事は分かっていたはずだ。 


 ――にもかかわらずこの状況を想定していなかった?


 考え難い。 本当にこの状況は想定外なのだろうか?

 どちらにせよこの先で答えは出る。 そろそろグロウモスが弾切れだ。

 追加で撃ちたいなら自前のジェネレーターからエネルギーを引っ張る必要がある。


 それをやると機動に悪影響が出るのでふわわ相手には命取りになるのだが――グロウモスの取った行動はヨシナリの想定の外だった。 彼女は道路脇にある街路灯を引っこ抜くとスコーピオン・アンタレスの外付けパーツからケーブルのような物を引っ張り、抜いた場所に突き刺す。


 「あぁ、そう来たか」


 市街地なのでどこかしらからエネルギー供給があってしかるべきだ。

 特に街路灯などは分かり易い。 チャージが即座に完了して発射。


 「うわ、マジかよ。 あんな事できたんだな」

 「あぁ、市街地だからこそ使える手だな」


 盲点だった。 エネルギーが足りないならステージから調達する。

 確かに合理的だが、ケーブルを接続する関係でどこでも使える訳ではない。

 だからバッテリーが尽きた時まで使わなかった。 ついでに街路灯を引き抜く作業にかかる時間の浪費を抑える意味もあったはずだ。 今になって使ったのはふわわの動きが鈍っていると判断しての事だろう。


 「こりゃ、追いつめられるまでとことん削る戦法だな」

 「えげつねぇな。 俺、真似できねぇよ」


 実際、かなりの忍耐が必要な作業ではあるので根気は必要だ。

 ヨシナリはじっと見ているとふわわの動きが変わった事に内心でおやと小さく目を見開く。

 足を止めたのだ。 その間にグロウモスは位置を変え、街路灯を引き抜いてケーブル接続――と同時にふわわが動いた。 エネルギーウイングを噴かして急上昇。


 視線の先にはグロウモス。 

 どうやって見つけたんだといった疑問はあったが、ややあってこれまでの攻撃の傾向でどの辺りに移動したのかを読んだのかと納得した。

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