次はヨシナリ、マルメル戦だ。
「なぁ、肩の散弾砲はあの展開を意識して付けたのか?」
機体の構成を見てヨシナリはふっと疑問を口にする。
「あぁ、機動力じゃ勝負にならないからな。 この地形だと速さで引っかき回されるのは目に見えてたし、シックスセンスあるから闇雲に撃ってもどうせ当たらないから使いどころを見極める必要があった」
映像の中ではヨシナリとマルメルが銃撃戦を繰り広げる。 躱すヨシナリに防ぐマルメル。
互いを知っているからこそ、攻防が噛み合っていた。 序盤は結構な数の撃ち合いを繰り返しているにも関わらず両者ともに無傷。
「改めて見るとお義兄さんもそうですけど、マルメルさんも凄いですね。 防御のタイミングに無駄がない」
「割とタイミングはバラつかせたつもりなんだけどな」
ヨシナリは自分のプレイを見てうーんと首を傾げる。
闇雲に撃っている訳ではなく、マルメルの動きを意識して当てられるタイミングを狙っていたつもりだったのだが明らかに動きを読んだ上で防がれていた。
「詳しく説明しろって言われても上手く言えないけど、ヨシナリだったらこの辺で仕掛けてくるだろうなーって感じのタイミングで防いでた」
「マジかよ」
――それであの精度の防御なのか。
マルメルを相手にする時はもっと考えないと通用しなさそうだな。
何だかんだと一番、模擬戦してる相手なので誰でも真似できる訳ではないのかもしれないが、こうもあっさり防がれるのは少し悔しかった。 そしてこの試合、最大の見せ場とも呼べる場面へと移行。
ヨシナリがビルの隙間を縫うような飛行で攪乱しつつ削っていると大きな交差点に出た所でマルメルが披露した四方への攻撃だ。 これは手放しに素晴らしいと思える動きだった。
前後に散弾砲、左右にハンドレールキャノン。 どれもかなり高い精度の射撃だった。
「これはやられたな。 正直、勘で狙って来るかと思ってたから驚いたぞ」
元々、命中精度に優れた武器ではないハンドレールキャノンをノールックで当ててくるのは完全に想定外だった。
「これほんとに凄いなぁ。 練習したん?」
「えぇまぁ、前に侵攻戦でヨシナリが敵トルーパーが落としたドローンを仕留めるのに使った動きを参考にトレーニングルームで必死に的当てしてました」
散弾砲は狙いを付ける必要がないので左右に意識を集中すればいい。
今回の技を披露するに当たってマルメルの費やした時間はかなりの物だった。
特にハンドレールキャノンはチャージから発射までタイムラグがあるのでそれも計算に入れて撃たなければならないからだ。 片方だけでも大変だが、今後絶対に必要になるスキルだと思ったので発射のタイミングと軌道を体で覚えるまで撃ちまくった。
片手でそこそこ当たるようになれば今度は両手。 二か所同時に当てるのは相当に難しかったが、感覚を掴むと割と何とかなったというのが、今に至ったマルメルの感想だった。
「――まぁ、本当なら仕留めるつもりだったんで、まだまだ練習が必要っすね」
マルメルとしては当たっただけでも割と上出来だと思っているので、自己採点としては70点ぐらいの射撃だった。 マイナス30点なのはヨシナリの機体から機動力は奪ったが戦闘能力をあまり削げなかった点にある。 もう少し足よりも上に当たっていたのなら胴体部分にもダメージが入ったはずだ。
結局、足を捥ぎ取るだけに終わったのが良くなかった。 ハンドレールキャノンはエネルギーの消費が大きいので二発同時に使用する事はマルメルとしても大きなリスクだ。
要は戦果とリスクが余り釣り合わなかった。 結果、ヨシナリは立て直して突っ込んで来たのだから、上出来ではあったがもっと行けただろうと思ってしまうのだ。
反省点としてはもう一点。 当てた事に少し浮かれてしまい、大剣の能力を失念していた事だ。
エネルギーフィールドで防いでしまったのは大きなロスで、機動で回避すれば勝てたかもしれない。
それだけギリギリの勝負だった。 結果としては相打ちのドロー。
負けるよりはマシではあるが充分に勝ち目があった勝負だったので悔しさが残る。
「いい勝負だったな。 次は俺が勝たせて貰うぜ」
「へ、俺も負けねぇからな!」
ヨシナリの差し出した拳にマルメルは軽く拳をぶつける。
映像は切り替わり次の試合へ。 ふわわとグロウモス戦だ。
これに関しては最初から分かり易い試合展開となった。 グロウモスが高出力のレーザー砲で街ごとふわわを焼き払おうとしたのは発想としては素晴らしい。
スコーピオン・アンタレスに強化パーツを山ほど付けて徹底的に火力を向上させたのがあれだ。
「あの作戦は最初から?」
「え、えっと、普通に撃っても躱されるのが目に見えていたから躱されてもダメージが入る攻撃をい、意識した感じ、かな? ど、ドローンは細かく操っている余裕がないから上空で待機させて観測役だけに集中させた。 で、でも、スコーピオン・アンタレスの拡張パーツ――大口径レーザー用のジェネレーターや使い捨て用のバッテリーとかが嵩張るし重量もかなり上がるからし、集団戦とかでは躱せなくなるからび、微妙かな? つ、使ってると荷物は軽くなるからとにかく撃って身軽になる事と躱させる事を念頭に置いてう、撃った感じ」
「な、なるほど」
つっかえながらも早口でまくし立てるグロウモスに若干引きながらもヨシナリは続きを促す。
「あ、あんまり知られてないけど、市街地とか廃都市ステージは電気が来てるから外付けのエネルギーが切れたらそこから引っ張れば全然撃てるから後は逃げ回りながら相手が力尽きるか、こっちが追い付かれるかの勝負。 ふ、ふわわさんの機体はエネルギーウイング装備だから推進系は割とデリケート。 だ、だから上手くそっちにダメージが入ればいいと思ってたんだけど……」
――結局、追いつかれてしまったと。
「ふわわさんは何かあります?」
「んー。 単純に鬼ごっこに勝ったって感じかな。 ウチはとにかく追いつかなって思ってそれだけやったからなぁ……。 でも、逃げるのは上手くなってたね。 転移刃を使わんかったら追いつかれへんかったわ! 多分やけど、後二発か三発撃たれてたらあちこちあかんようになってたかもなぁ」
余裕があるように見えたが、ふわわのダメージも割と深刻だったようだ。
ふわわの認識としては辛勝だったとの事。 結果こそ敗北だったが、ヨシナリはグロウモスの戦い方はかなり良くなっていたと思っていた。 削る発想もそうだが、ドローンを利用して観測手にするやり方も面白い。 単純に練度が足りなかっただけで練習次第では充分に勝ち目のある内容だったからだ。