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第523話 第二次防衛戦⑤

 イベントが開始されたと同時に四方からエネミーの群れが押し寄せて来た。

 どれも見覚えのある個体ばかりで今回のイベントに合わせて強化されているという訳でもなさそうだ。

 マルメルは基地の中央付近にある背の高い建物の屋上から戦場をぐるりを見回す。


 足の速いエネミーが基地の防衛圏内に入ったと同時にプレイヤー達がせっせと設置していたセントリーガンや基地に備わっていた防衛装置が次々と起動して砲弾や銃弾、ミサイルを吐き出す。

 正直、肝心な時に動かなくなるぐらいのサプライズがありそうだと疑っていたのだが、問題なく稼働しているようだ。


 グロウモスは射程内のエネミーを無言で狙撃し始めた。

 一応、ある程度の数は弾幕を掻い潜って基地に到達しようとしていたのだが、プレイヤー達が待ってましたと迎撃する事もあって基地はほぼ無傷だ。


 正直、退屈な時間だった。 

 ヨシナリとはしばらく別行動だった事もあって少し不安だったが、この様子だと大丈夫そうだ。

 ――とはいってもここの運営は何をしてくるか分からない以上は油断はできない。


 大丈夫だと思ってはいたが、この優勢が逆に不安を煽るのだ。


 ――結局、落ち着かないんだよなぁ……。


 そんな微妙な時間を過ごしていると不意に周囲が慌ただしくなった。

 どうやら中に敵が侵入して暴れていると言うではないか。

 マルメルはマジかよと思いながら、ヨシナリに通信を繋ぐと入られたのは事実のようだ。


 どうやら敵と交戦中のようで声にあまり余裕がなかった。

 聞けば中に居るのは通常のエネミーではなく、テロリストが運用する粗製トルーパーという特殊機体らしい。 ヨシナリは手強い相手と当たったらしくやや早口だ。


 一通り、情報を交換した後、余裕がないからと通信は切られた。

 あそこまで余裕がないという事はかなり手強い相手と見ていい。

 一瞬、基地内に戻ろうかと思ったが、ヨシナリは大丈夫と言っていたのでその判断を信じよう。


 それに基地内で変化があった以上、地上にも何かが起こるのは目に見えている。


 「ってかどうやって中に入ったんだよ」


 まさかとは思うが地中を進んで横穴を掘ったとかか?

 防備が妙に厚い事は気になってはいたが、こうもあっさり突破されている所を見るとなんだかなと思ってしまう。 


 マルメルは何の気なしに空を見上げる。 広がる星空と異様に目立つ惑星ユーピテル。

 そして――


 「ん? なんだありゃ?」


 星に混ざって妙に光っている何かが動いていたのだ。

 センサーシステムは範囲外なので届かないが、カメラを最大望遠にして目を凝らす。

 最初は何か近づいて来てるなぁと思っていたが、輪郭がはっきりしていくにつれてその正体が明らかになった。 


 鋭角的なフォルム。 

 最初はミサイルか何かだと思ったが、サイズと途中で艦載機・・・らしきものが飛び出した時点ではっきりした。 戦艦だ。


 百メートルクラスの戦艦が艦載機を吐き出しながら真っすぐにこちらに突っ込んで来る。

 最初、ミサイルと勘違いしたのには理由があった。 何故なら飛んできている数が百や二百で利かない凄まじい数だったからだ。


 しかも戦艦は減速する様子がない。 

 気付いたプレイヤー達が空に向かって攻撃を開始したが、全部落とせるとは思えなかった。


 「いや、これは無理だろ!」


 マルメルは早々にやられない事を選択。

 近くに居たグロウモスの機体を掴んで近くのゲートへと飛び込む。 


 「え!? 何!? 何!?」

 「落とすのは無理だ! 巻き込まれない位置まで下がるぞ!」


 いきなりの事に慌てるグロウモスにマルメルが捲し立てるようにそう言って基地内部へ。

 僅かな間を経て基地が衝撃で縦に揺れる。 当然ながら一度ではなく、連続して衝撃と轟音が響く。

 止んだと同時にあちこちから銃声と爆発音。 空中で発艦した機体が攻撃を加えているのだろう。


 衝撃波止んだ所でマルメルは動きを止めて振り返る。 


 「は、放して」

 「あぁ、悪い」


 マルメルが手を離すとグロウモスは着地。 機体と装備をチェックしている。

 気が緩んだタイミングでの奇襲は中々に効果的で味方にはかなりの動揺が広がっていた。

 それはマルメルも例外ではなく、思わずヨシナリへと連絡。 どうやらまだ敵機と交戦中のようで直ぐに切られたが、少し後に折り返してきた。


 『悪い。 手強い相手でな、あんまり余裕がなかった』


 聞けば機体にダメージがかなり入っているようで一度、ハンガーに預けて修理をするとの事。

 マルメルは少し迷ったが、地上に戻らずに合流の為にハンガーへと移動。

 その間に地上で起こった詳細をヨシナリに伝える。


 『――話を纏めると敵が戦艦に乗って特攻をかけて来たと』

 「まぁ、そんな感じだな」

 『港がある時点で警戒はするべきだったかもしれないな』


 言われてみればその通りだった。 船がないのに港があるのは妙な話だ。


 『多分、接舷用の第二陣が間を置かずに来るだろうな。 俺だったら火力極振りの重装備の機体満載で港に入れる。 敵の機種は確認できたか?』

 「いや、戦艦が突っ込んで来るのが見えた時点で避難したから見えてない」

 『いい判断だ。 この様子だと基地の防衛システムもかなりやられてるだろうから、エネミーの処理にも支障が出るだろうし、戦闘はそうかからずに内部に移ると思う』


 それに備えろとヨシナリは付け足した。 話している間にハンガーに到着。

 宇宙港と隣接しているだけあって、かなりの防備を固めている。 

 地上の事を知ってヨシナリと同じ結論に至ったプレイヤー達が生産設備を使って罠やセントリーガンを設置している横を通って指示された場所へ向かうと見慣れたホロスコープが整備を受けていた。


 ダメージが大きいようであちこちに損傷が目立つ。

 その足元にはヨシナリのアバターが居たのでマルメルは小さく手を上げる。


 「よ、お疲れ。 施設をぐるっと回るだけのつもりだったのに奇襲を受けるんだから参ったぜ」


 ヨシナリはやや疲れた様子だったので厄介な戦いであった事が窺える。


 「詳しく聞いてなかったけどそんなに厄介だったのか?」


 リベリオンフレーム。

 基本的な構造はエンジェルフレームと変わらないが、出力の関係で光学兵器を搭載せずにノーマルのエンジンと推進装置で賄っているのでデッドコピーという認識でいいようだ。

 しかし、基礎がエンジェルフレームだけあって乗り手によっては侮れない戦闘能力を発揮する。

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