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第537話 第二次防衛戦⑲

 ――これは大丈夫そうか?


 明らかに勝てる流れだった。 

 戦闘経験があった事も要因だろうが、それ以上に目の前のウツボ型の動きは以前に比べてかなり悪い。

 最大の強みであったドローンを介しての反射兵器を用いた全方位への殲滅攻撃は凄まじかったのだが、今回の相手は闇雲にばら撒くだけで明らかに狙っていない。


 その為、味方の被害が驚くほどに少なかったのだ。 

 ――とはいってもカカラ達が懐に飛び込んでドローンを潰しながら本体にダメージを与えていた事も大きいが。


 ヨシナリが視ている先でウツボ型の機能が停止しようとしていた。

 落ちるのははっきりしているが最後の問題である中身が何なのかだが、そこも杞憂だったようだ。

 現れたのは侵攻戦でも見かけた頭部が三つある機体だった。


 飛び出してきたタイミングで待っていましたとばかりにグロウモスが高出力のレーザーを撃ち込み、マルメル達が畳みかけるように銃撃。 歪曲フィールドで防ごうとしていたが、あの時とは攻撃の密度が違いすぎる。 数十機の一斉攻撃に耐えられる訳がなかった。


 碌に活躍をしないまま穴だらけになって大破。 一先ずはこの場は決着となった。


 「お、ヨシナリー! お前も無事だったか! そっちも片付いたのか?」

 「あぁ、あのカラフルな連中は全部仕留めた。 結構、手強かったな」


 話しながら着艦。 内部に入ってハンガーを使用する。

 リミッターを外した事で機体にダメージが蓄積しているので早めの修理が必要だったからだ。

 ヨシナリはコックピット内でふうと力を抜く。


 「うっす、お疲れー」

 「うっす」


 向かいのハンガーに機体を預けたのはマルメルだ。


 「戦況どうよ?」

 「あんまりよくはないな」


 話しながら通信やセンサーを用いての戦場の確認。 

 『思金神』が積極的に情報を垂れ流しているだけあって戦況の把握は容易だった。

 まずは地上部分。 イソギンチャクの巨大レーザーで焼き払われたのでほぼ更地と化し、設備に関しては完全に使い物にならなくなった。 


 その為、地上での戦闘は継続が困難となり、戦場は施設一層へと移行している。


 ――というか地上を守ってた連中があれで軒並み消し飛ばされたんだよなぁ……。


 何かあると警戒してゲート近くに居たプレイヤー達は避難が間に合いはしたが、そうでなかった者達は一人残らず消し飛んだ。 

 地上が制圧される事は早い段階で読めていたが、流石にこれだけの数のイソギンチャクを繰り出してくるとは思わなかった。 


 ただ、大手を中心に内部に戦力を残しているユニオンは多く、一層で防衛戦を繰り広げてはいたが、無限湧きのエネミーに敵の戦艦降下は終わらない。

 それだけならまだいいのだが、畳みかけてくるのがこのゲームの運営だ。


 敵性トルーパーにバリエーションが追加されていた。 

 あの侵攻戦の時に出て来た推定三人乗りの機体が追加されたのだ。 

 雑魚に混じって突っ込んで来るので割と洒落にならない事になっている。


 特に例のサイコキネシスは特定の項目に特化したセンサーシステムがないと観測できないからだ。

 通信ではしつこく頭が胴体に二つ埋まっている機体に気を付けろと警告されていた。

 次にそのイソギンチャクに関してだが、駆除は割と順調に進んでいる。


 今の段階でもう三分の一近くが沈んでいるようだ。 初見時に出て来た奴より明らかに弱い。

 恐らくは使い手の問題だろう。 


 「俺もそう思う。 ドローンを使った反射兵器も前に出た奴はしっかり狙って来てたから防御しないとまず直撃をもらうけど、今回の奴は雑にばら撒いているって感じだったな」

 「イソギンチャクの時点で技量差はモロに出てたからなぁ」


 命中精度が比べ物にならない。 

 性能自体は据え置きなので大砲を撃つ分には何の問題もないが、近寄られるとそれが顕著だ。

 恐らくはそれを補う為の護衛だったのだろう。 


 「中でドンパチやってるんだろ? どんな感じなんだ?」

 「さっきも言ったがあんまりよくはない。 ――あの基地ってな、大きな入口が五か所もあるんだ。 本来なら落とされたら防衛ラインを組み替えながら柔軟に対応って感じの予定だったんだけど一度に全部こじ開けられちまったものだから一斉に雪崩れ込まれたんだよ」


 消し飛んだのはプレイヤー達だけでなくエネミーもだったので、追加が湧くまで少し猶予はあったが状態を万全にするのは難しい。 

 結局、碌に準備もできないまま敵の侵入を許したという訳だ。 


 「主戦場は一層ではあるけど、もう一部は二層まで入り込まれてるってさ」

 「うへ、時間まで保つのか?」

 「それに関しては正直怪しいと思ってる」


 時計を確認すると開始から五時間半の経過を示していた。  

 これでようやく折り返し地点だ。 当初の予定では可能であれば六時間以上は外を保たせるといった話だったのだが、破綻している以上は厳しいと言わざるを得ない。


 理由としては単純で、外よりも中の方が守り難いからだ。

 一層、二層はまだ宇宙港などがある事もあって充分な広さがあるが、三層から下に入られると敵の侵攻速度が大幅に上がる。 上手に地形を活かせるのなら良かったのだが、特に三層は変に頑丈な壁や施設の所為でバリケードなどの敷設があまり進まなかったのだ。


 加えて変に入り組んだ構造に人間向けの細かな通路や無数の小部屋。

 邪魔で仕方がなかった。 そして四層まで降りられるともう秒読みだ。

 五層が心臓なら四層は血管や神経といえる。 


 要はエネルギーなどを施設内部に供給ゆる役割を担っているので、破壊されると機能自体が麻痺するのだ。 防衛設備もそうだが、メンテナンス施設が使い物にならなくなる。

 そこまで来られると後は第五層に引き籠っての籠城戦だ。 


 ここまで押し込まれた状態では長持ちする訳もなく、ヨシナリの見立てでは十数分といった所だろう。

 それを伸ばす為にタカミムスビが詰めているのだろうが、彼がいくら強くても個の力では限界がある。


 ――それに――


 「何か怪しいんだよなぁ……」

 「何が?」

 「いや、敵もそうだけどまさかとは思うが、この展開を読んでたのかなって思ってさ」


 首を傾げるマルメルに苦笑しながら思考は敵と味方の行動の裏を探っていた。

 まずは敵。 ヨシナリは基本的に運営の傾向からこの守るべき施設すら信用していなかった。

 つまりこの施設は味方ではなく、状況次第では足を引っ張る潜在的な敵と定義していたのだ。

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