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第595話 来訪者討伐戦②

 「いや、モタシラさんの方が強いんですから叩きのめして力尽くで追い出したらどうです?」


 ふわわが殺気という訳の分からない何かを察知するのだ。

 逆に出して圧をかけるぐらいはやってのけるだろうと思っていたので話の内容自体は驚きに値しない。

 だが、彼女より明らかに強いモタシラがここまで怯える理由がよく分からなかった。


 「明らかに前よりも強くなっている。 訳が分からない。 前に見た時は凶暴な獣ぐらいの認識だったが、今は得体の知れない化け物にしか見えないんだ」


 確かに化け物みたいに強い人だが、生身ならシニフィエの言う乳と尻が立派な美人なのではないのか?

 話を聞いただけではモタシラの恐怖が理解できない。

 ただ、居ない間に何をしていたのかを知れたのは一応は収穫だった。


 「そういえばガチ目の修行に出るとか何とか言って姿を消してましたね」


 終わった結果、山から下りて来たのか、まだ修行中でその一環としてモタシラの道場に現れたのだろうか? どちらかはよく分からないが、困った事になっているのは確かなようだ。


 「――話は分かりましたが、具体的に俺は何をすればいいんですか?」


 正直、リアルの話なので直接出向いて引き取れとか言われても困ると考えていたのだが――


 「そうではない。 いや、それでいなくなってくれるなら問題はないのだが、俺はあの女に条件を出した。 ICpwで勝負して俺が勝ったら素直に帰る。 負ければ好きにしろと」

 「はぁ、折角来ているんですから生身でやればよいのでは?」


 モタシラは身を震わせて首を横に振る。 


 「む、無理だ。 下手をすると殺されかねない」

 「……あ、あー、ゲームならどれだけ酷い事になっても命までは取られないと?」


 ヨシナリは半笑いだ。 

 冗談だろうと思いたかったが故の反応だったのだが、モタシラは真顔で頷く。

 それを見てヨシナリも段々と怖くなってきた。 少なくともモタシラは命を取られかねないと判断しているのだ。 尋常じゃない。


 「あの人に何が起こったんだ?」


 負けたショックで修行に励んだ結果、相手が怯えて碌に絡みもないヨシナリに縋りに来る。

 一体、何がどうなればこんな状況になるのだろうか? さっぱり分からない。

 取り敢えず後でシニフィエに連絡を取ってみようと脳内のやっておくリストにガリガリと書き込む。


 「えっと? 俺に立ち合いをしろと?」

 「いや、俺はもう一つ条件を出した。 以前の戦いは集団戦だった事もあり、仕切り直しという事で二対二での勝負にした」 

 「……まさかとは思いますが、俺にパートナーをやれと?」

 「頼む! 君しか頼れないんだ! 助けると思って!」


 モタシラは必死だった。 

 ウインドウを可視化して金額を表示し、この額のPを払うとまで言っている。

 数字を見てヨシナリは目を見開く。 結構な額だったからだ。


 おいおい、どんだけ必死なんだよという思考もあったが、それ以上にモタシラ程の男がここまで怯える状況に関わりたくないという拒否反応で反射的に嫌だと言いたい気持ちをぐっと堪える。


 「『烏合衆』のお仲間には頼れないんですか? アドルファスさんやカカラさん、近接なら平八郎さん辺りなら不足はないと思いますが?」

 「アドルファスとカカラは都合が付かず、平八郎は個人のトラブルをこちらに持ってくるなと断られてしまったんだ」


 この様子だと他のメンバーにも断れたと見ていい。 

 二対二という事なら相手の相棒はシニフィエだろう。 

 早々に落とせば二対一に持って行けるか? 


 いくらふわわが化け物じみた強さだろうとモタシラと二人でかかれば仕留められるはずだ。

 悩む。 勝っても負けても報酬は支払うとの言っているからだ。

 正直、傍から見れば損のない美味しい話だ。 先々の事を考えるとPはいくらあっても足りない。


 ――かといってここでモタシラに付くのはふわわにとって不義理ではないか?


 そんな思考が脳裏を過ぎるが、何となくこのまま放置するのもよろしくないとも思ってしまっていた。


 「……分かりました。 引き受ける方向で考えます。 その前に彼女の妹に話を通しておきたいのですが構いませんか?」

 「ああ! 構わない! た、助かった!」


 モタシラは何度もありがとうありがとうと感謝を繰り返す。


 「引き受けるからには当然、勝つつもりで行きます。 二対二という事ですので俺とモタシラさんで戦い方の擦り合わせを行いましょう。 今のふわわさんがどんな状態なのかは不明ですが、戦闘スタイルは大きく変わっていないはずなので対策を練りつつ連携を高めていきましょう」

 「分かった。 よろしく頼む。 それで報酬は――」


 即座に金を払おうとするモタシラを手で制し、終わってからでいいですとだけ言ってその日は解散となった。



 ――そして翌日。


 「シニフィエ――ふわわさんの妹に話は通しておきました。 向こうも乗り気のようなので頑張っていきましょう」


 送ったメッセージに対して返事はすぐだった。 

 一縷の望みをかけて別人だといいなと思ったが本人だった。

 あれからふわわは父親と剣の修行に励んでいたのだが、父親が体調を崩したらしく他所の道場を紹介してそこに送ったらしい。


 この時点で嫌な予感しかしなかった。 父親は本当に体調を崩したのだろうか? 

 ヨシナリは手に負えなくなって放り出したのではないのだろうかと疑っていた。

 仮に本当だとしたらなんて無責任な話なんだと思うが、それだけふわわが仕上がっているという事なのかもしれない。


 その後、次々と近隣の道場を渡って修練を重ね、モタシラの所まで行きついたようだ。


 ――次々と道場を渡ったのか。 追い出されたの間違いではなく?


 モタシラが随分と怯えているという話をしたのだが、シニフィエは不自然なほどに何も言わない。


 ――怖いよ。


 最後に対戦の話をしたが、二対二の話は了解しており、手加減しませんよと返事が来てやり取りは終わった。


 「対戦は三日後。 その間にきっちりと仕上げていきます」

 「分かった。 正直、個人戦は得意とするところだが、連携に関しては勝手が分からない部分も多い。 学ばせて貰う」


 モタシラはよろしくお願いしますと小さく頭を下げた。 

 ヨシナリも慌ててこちらこそお願いしますと頭を下げ返す。 


 「まずは軽く手合わせから始めましょう」

 「分かった」


 ヨシナリとモタシラはそのままトレーニングルームへと移動。

 互いに機体を用意して対峙。 モタシラと戦うのはイベント戦以来だ。 

 あの時から自分も成長したようにモタシラも成長しているはずだ。


 まずはそこを見極める所から始めよう。

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