動画を古い順に並べると、ざっと百以上の投稿が並んだ。
大食いをやってみたり、モーニングルーティンをやってみたり。独身男の何の特徴もない朝の様子など、誰も興味がないと思うのだが……。たしかに初期の頃は迷走していたようだ。
半年前の投稿に、都内某所のトンネルを探検する動画があった。
「これか? 大樹が言ってた心霊スポットに行った動画っていうのは」
「たぶんそうだ」
東京のベッドタウンの外れにある古いトンネルだ。あまり使われていないのだろう、すっかり廃墟化している。照明も暗く、それっぽい雰囲気を醸し出しているが、本物の心霊スポットではないようだ。その証拠に、壁には派手な色の落書きが溢れており、若者たちがたくさん訪れているのが見て取れる。
『ヤバいです。なんか声みたいなのが聞こえる……』
金田が実況しながらトンネルを進んでゆく。
この動画だけ、コメントの数が三桁を越している。読んでゆくと、ある箇所に幽霊の声が入っていると騒がれていた。該当の箇所を確かめてみたが、猫の鳴き声にしか聞こえなかった。
「これのどこに幽霊が映っているっていうんだよ」
ミズキもすっかりつまらなそうにしている。
この動画をきっかけに、金田のチャンネルはオカルト系に舵を切り始めた。
手始めに寺社仏閣に入り、併設の霊園でカメラを回している。真っ暗な時間帯に撮影しているようだが、許可は取っているのだろうか。
その他にも、怪談を朗読してみたり、ひとりかくれんぼをしてみたり、「事故物件に宿泊!」なんてタイトルのものもあった。
動画は危なっかしいながらも、コメント数、視聴回数を順調に伸ばしている。
次第に呪物を部屋に飾るようになり、収益化が安定したのだろうか、少し広い部屋への引っ越しを果たしている。約三か月前の動画だ。
大樹が言っていた通り、築浅の、綺麗な部屋だった。リビングの他にも部屋があるようで、撮影用の背景には、それらしい雰囲気で数個の呪物が飾られている。
部屋は綺麗になり、チャンネルも順調だと言うのに、新居に移ってから投稿頻度ががくりと減っている。それまで週に一度の頻度で投稿していたのに、月に一度のペースになっていた。
しかも本人の顔色がひどく悪い。頬がこけ、髭も剃っていない。半年前のトンネル探索の動画とは、別人のように見えた。
「なんか、ずいぶんと痩せてないか?」
「痩せたっていうか、死相が出てるよ、この男」
ミズキがきっぱりと断言する。
首を吊る理由――。
借金苦、人間関係の悩み、過度なストレス……。
まず借金苦はないだろう。チャンネルが順調に伸びているし、そのおかげか、以前よりも広い部屋に移り住んでいる。
人間関係の悩みも、はっきりとは言えないが、ないような気がする。アンチコメントが少なくないとは言え、そんなものを気にするようなキャラクターには思えない。それに、一般的な会社勤めではないから、そもそも接する人間が少なかっただろう。
持病か、突然の
橘は大樹に電話をかけた。
『病気? いえ、金田に持病はありませんでした。司法解剖の結果でも、特に病気の報告はありませんでした』
「そうですか。金田くんが人間関係に悩んでいたという話は、聞いたことがありますか?」
『さぁ、どうでしょう。しばらく連絡を取っていなかったもので』
「……そうですよね。ところで、金田くんの部屋を実際に見てみたいのですが、入ることはできますか?」
『管理会社さんに訊いてみます。部屋に忘れ物をしたと言えば入れてもらえるかもしれません』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
何度も動画をさらっているうちに「事故物件に宿泊!」という動画に目が留まった。視聴回数は他より少なく、何事も起こらなかったようで、コメント欄もいまひとつ盛り上がっていない。
事故物件――。
残る金田の自死の理由は、あの部屋の可能性もある。