5階のコボルトリーダーは、正直拍子抜けだった。
違うの。溜め斬りの威力を落とす練習をしようと思っただけなの……。
それが半分くらいの力で攻撃したところ、あっさりと吹き飛んで跡形もなくなってしまって……。
「ごめんなさい……。なんか盛り上がりどころを作れず……」
ドローンカメラに向かって謝罪会見をする羽目に。
どうしてこうなった……。
“コボルトリーダー弱すぎわろたw”
“相手が悪すぎたねwww”
“練習台にすらならないw”
“もっと強い敵連れてこーい! ワクワクすっぞ”
“サイヤ人かw”
“ライトさんの顔www”
ハッとしてライトお姉ちゃんのほうを見る。
まぎれもなくあきれ顔だった。
「お姉ちゃんごめん……」
「アクア様……強くなりすぎましたね。もう大剣は一区切りにして、次の武器にいきましょうか」
「はい……」
“大剣卒業早いw”
“この調子でいけば1週間も経ったらやることなくなりそうw”
“次は何にする?”
“武器の基礎講座としてめっちゃ参考になるからな”
“違う期待が膨らんでるww”
“アクア様の上達ぶりが異常すぎてそこは参考にならんなw”
「次は盾が良さそうですね」
「盾、ですか?」
意外な選択だと思った。
遠距離攻撃系の武器か、攻撃魔法を予想していた。
なんでだろう。
「アクア様はこれまでの速さに加え、圧倒的なパワーを手に入れました」
「はい」
「次に必要なのは何か。そう、絶対的な防御です」
なるほど、言っていることはわかる。
でも。
「わたし、これがあるので防御は足りていると思ってて」
アクアグローブとミスリルグローブを見せる。
そう、アクアグローブで魔法攻撃を吸収し、ミスリルグローブで物理攻撃を吸収できる。
「それはあくまで双剣を使う時の簡易的な盾にすぎません」
まあ、たしかにそうだ。
アクアグローブは大魔法の吸収ができることは確認しているけれど、ミスリルグローブがどこまで実戦に耐えられるのかは検証できていない。
「同じ素材でも体を隠せるほどの大盾を持てる。これに勝る安心感はありませんよ。何よりパーティー戦になった時に自分以外の誰かを守ることができます」
自分以外の誰か。
大規模討伐になった時、わたしだけが助かっても仕方がない。討伐に参加する人全員と生きて帰る。そしてもえきゅん☆を奪還しなければいけない。
「ですが、盾はお姉ちゃんも持っていないので、調達するところからですね。明日は配信をお休みして、心当たりをあたって盾の調達をしようと思います」
「え、あ、はい! じゃあ明日は配信をお休みします。みんなそういうわけだから!」
“了解”
“またあさって会いましょう”
“盾を持ったアクア様にお会いできるのを楽しみに! ¥2000”
“今日は終わりかな?”
“ものたりなさはあるけど、世界随一の威力を見ただけで満足 ¥3000”
“盛り上がり所なー”
“苦戦するところも見てみたいw”
“ぜいたくな悩みw”
「盛り上がりが足りませんでしたか。そうですね……。お姉ちゃんに良いアイディアがあります」
ライトお姉ちゃんがそう言うと、デスサイズを装備し始めた。
「お姉ちゃん?」
いやな予感。
「模擬戦ですよ」
「模擬戦……ですか」
「寸止め1本勝負。アクア様は何をしてもいいです。お姉ちゃんはデスサイズだけで戦います。大きな武器を振り回す相手にどう立ち向かうか、実戦形式で学びましょう」
“おお!いいじゃんいいじゃん!”
“こういうのが見たかった!”
“お姉ちゃん最高!”
“ゴリラ対死神 ファイッ”
“覚えたての大剣がどこまで通用するか⁉”
“コボルトリーダーくん前座扱いw”
“どれくらいやれるかな。1分持つか?”
“さすがにもう少し健闘するんじゃね?”
どこまでやれるか、か。
ライトお姉ちゃんは世界No.1と言われてる。
まだまだ敵わないのはわかってる。でも、いつかは上回らないといけない相手だ。
通用しなくても、攻略の糸口くらいは見つけたい。
やはり双剣主体で、崩せたら大剣の溜め攻撃がいいのかな。でもそれだと見え見えかもしれない。
あえて近距離戦に持ち込んで大剣で勝負を挑む。
デスサイズで近距離の敵と戦うのは厳しいはず。昨日見せてもらった戦い方も、中距離以上の間合いを持って、間接攻撃が主体だった。
いける、かな?