それからしばらく、俺は幸いにして平穏無事な日々を過ごしていた。例の女の子たちからのお誘いは今のところとくになく、元嫁・亜也子からの連絡も途絶えたままだ。まあ余計なことに気を回さずに済んで、俺的には結果オーライである。
むしろ最近は株式会社針棒組の営業部長としての仕事がやけに増え、俺は
「でも、本業が忙しいというのは、まことに結構なことではないですか、リュージさま」
「そりゃそうだが――」
そう言いかけて、俺は思わず言葉を止めた。
そもそも、俺たちの「本業」ってのは
「まあいいや。なあエルミヤさん、次の現場はどこだったっけ?」
さらに数日たったとある昼下がり、俺の相棒である若頭補佐にして経理部長・
「なんだって、
「ああ。奴らまた、ヤバい
俺たちは、針棒組のそばにある古い馴染みの
「泥縄組といえばよ、刺客に送り込まれた若いモンを
「おう、そんなこともあったな。なんだか、ずいぶん遠い昔のことのように思えるが」
ウチの
「さすがに奴らも、あれからしばらくは鳴りを潜めていたんだがな。あの後お前さん、
「んー。そりゃ、昔なじみのカラミでちょっとな」
その言葉で、俺はあの夜の首都高バトルを思い出していた。
「逝鳴金融は、泥縄組とズブズブでつながってた。余罪だらけの
「そうだったのか」
「さらに、お嬢だ」
「お嬢がどうかしたのか?」
伍道は、コーヒーカップを啜りながら話を続けた。
「シンガポールから帰国したあの日、
「たしかに、そんなことも……おい、まさかあの男も泥縄組の関係者だったってのか?」
小虎がブチのめした、関西弁で
「うむ。なんでも泥縄組長の古い
「ってことは……」
「泥縄組は、いまや八方塞がりだ。組長の
「ああ。それと、お嬢だな」
「そうですね! 私たちで、しっかりと
俺と伍道の話に、隣に座っていたエルミヤさんが拳を固めてポーズを見せた。その姿を見て、伍道は半ば呆れたような声を上げた。
「……なあ、エルミヤさんよ。アンタはべつに、こういう話にゃ同席しなくてもいいんだぜ?」
「いいえ、お構いなく。なんといっても私、リュージさまの
そう言いながら、両手で抱えたクリームソーダのストローを啜りあげるエルミヤさん。その表情は、真剣そのものだ。
「ほう。それはなんとも頼もしいこった。じゃあ、くれぐれもお嬢のことは任せたぜ、竜司。俺は組員たちに、キッチリ注意喚起しとくからよ」
席を立った伍道は、手にした伝票をひらひらさせながら
(お、すまねえな)
(いいってことよ)
俺と伍道は、言葉を発することなく目だけで会話した。つまり俺たちは、そういう間柄だ。
(リュージさま、ミックスサンド食べてもいいですか?)
メニューから顔を上げたエルミヤさんが、目だけで訴えかけてきた。
続く