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Love too late:恋するキモチ4

「ピーマンのビタミンよりも、カボチャの方が効果的だから。一緒にβーカロチンやポリフェノールが、いい感じで摂取できるんだよ。免疫力をアップして、再発防止に備えなきゃならないんだからね」


 やがて焼かれていった野菜たちが、俺の皿の上にどんどんうず高く積まれていく。


(どうしよう、こんなに食えないよ。シイタケは一口、ピーマンは半身が限界だ)


「あの太郎くん、早く食べたほうが美味しいと思うよ」


 なかなか手をつけない俺に焦れたのか、小田桐さんが声をかけてきた。


「俺、野菜キライ。食べられない……」


 隠しきれないと観念して事実を言うと、タケシ先生と桃瀬がピキーンと固まる。


「おまえ、一緒に暮らしてたとき、普通に食べていただろう?」

「や……その実は――コッソリ残してた」


 俺の言葉を聞いて、相当ショックだったのだろう。ガックリと肩を落としたタケシ先生。


「焼肉のタレは万能なんだ、絶対に食える! というか食わせるんだ周防!!」


 桃瀬は鼻息荒くしていきなり言い放ち、タレの入った容器をタケシ先生に手渡す。


「太郎、おまえは目をつぶって口を開けていろ。大好きな周防が直接、食わせてくれるから」


 大好きなタケシ先生でも、食べさせられるのは、キライな野菜なのに。


「え、でも……」

「口に入れられる物は、全部肉だと思えばいい。しかも周防が、わざわざ食べさせてくれるんだぞ。超レアものだ。普通なら、絶対にあり得ないんだからな」


 普通ならあり得ないことは、重々理解してるけど、野菜は野菜であって、肉だとは到底思えない。噛んだときの質感が、全然違うからな。


 ウッと思いながら、隣にいるタケシ先生を見ると、焼けている野菜にしっかりとタレを滲みこませるべく、お皿の中で用意して、食べさせる気が満々だった。



「太郎くん、みんなが君を思ってしていることだからね。いい機会だから、野菜の好き嫌い、なくしてみたら?」


 小田桐さんにまで最終宣告され、涙を浮かべながら、タケシ先生に箸を運んでもらって食べさせてもらった。


 泣きながら食べたけど、ラッキーな収穫もあった。


 俺に野菜を食べさせつつも、桃瀬のヤツがタケシ先生に、ビールをどんどん呑ませ続け、例の質問を投げかけてくれたんだ。


「あ~? 太郎のどこが好きかって? そうだな、変なウソをつかないトコ」


 いい感じにでき上がったタケシ先生は、赤い顔をしながら、ハッキリと言ってくれたけど。小田桐さんみたく、全部が好きって言ってくれるまで、あとどれくらいかかるのかな。


 いつまでも野菜を口に突っ込まれ、少々不機嫌になってる俺を見て、カラカラと可笑しそうに嘲笑う。何が、そんなに可笑しいのやら――。


「きちんと食べることができて、偉かったな。今度は肉を食べさせてやるよ」


 タケシ先生は上機嫌に言って、カルビの肉に箸を伸ばした。


「――そんな肉よりもタケシ先生のソーセージが、俺としては食いたいんだけど」


 しれっとして言い放つと、桃瀬が飲み物を派手にぶーっと吹き出し、小田桐さんは手に持っていた小皿をガシャンと落とした。タケシ先生は肉を摘んだ箸を、カタカタと振るわせる。


「……す、周防そろそろお開きにしようか。太郎もすげぇこと言ってるしさ」

「でもまだ肉が、こんなに残って――」

「にっ、肉よりも太郎くんの体のこと、考えなくちゃいけないと思います! 退院したばかりで、きっと疲れちゃってるよね? それにキライな野菜をあんなにたくさん食べたんだし、ついでに周防さんを食べたいみたいだし……」


 言ってから、やっちゃったという顔をして、桃瀬を見上げた小田桐さんが、何気に可愛かった。機転の利くこの人だからこそ、鈍感な桃瀬と上手くいってるんだろうな。


 仲睦まじくしてるふたりに呆れながら、タケシ先生は静かにテーブルに箸を置く。


 ふたりが気を遣ってくれたお蔭で、早々とお開きになり、店の前で解散になった。

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