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番外編 ほろ苦いプリン

「どうして桃瀬と仲良くなれたんだ?」


 疑問に思ったことを仕事が終わって、自宅に帰ってから出会い頭で訊ねてみる。するとバツが悪そうな表情を浮かべ、口をパクパクした太郎。何だっていうんだ、いったい……。


「言えないのか?」

「そんなことないんだ。ただ何ていうか、勉強を見てもらっているうちに、自然と打ち解けた……みたいな」


 キョロキョロと目を泳がせながら言う。アヤシイ――もしかして何か物で買収されたとか? 例えば太郎の好きな、涼一くんオススメのプリンだったりして。


 本の出版記念で涼一くんの好物のプリンをお祝いに貰ったのはいいけど、桃瀬と一緒でも食べきれない量だとかで、俺のところに持ってきたことがあった。


 それをふたりで食べたとき――。


「うんめぇ!! 今まで食べたプリンの中で最高ランクの美味さだよ、このプリンっ」


 そんなことを言ったので、恐るおそる食べてみたのだが。


「甘い……」


 やはりプリンはプリンなのである、ゆえに甘いワケで。


 しかめっ面をしながら、舌の上でその甘さを堪能していると。


「うわー、このカラメル絶妙!! ちょびっとだけほろ苦い感じが、プリンの甘さを引き立ててるっ」


 くーっとスプーンを握りしめ、感動してる太郎を呆れた顔で見つめつつ、褒めたたえたカラメルをすくって口に運んでみた。


「これは――」


 舌の上に乗っていた甘ったるいモノが瞬く間に消え失せ、じわりとほろ苦さが沁み込んでくる。太郎が指摘したとおりの、丁度いいほろ苦さ。


 ――これは美味い!


 プリン本体を避けながらカラメルだけすくい取り、それだけをすべてなくして、太郎の目の前に置いてやった。


「それ、やるよ」

「マジで? ラッキー」

「その代わり、お前が手にしてるのを俺によこせ」


 言いながら手を伸ばすと、不思議そうな顔して首を傾げる。


「もしかしてタケシ先生ってば、俺と間接チューがしたいとか?」


 その言葉に、ガックリとうな垂れてみせた。


「このバカ犬っ! そんなの望んでないってば。俺は甘いのが苦手だから、底にあるカラメルしか食べられないんだよ」

「そのクセ、顔が赤くなってるんだよなぁ。見苦しいウソ、ついちゃって」

「ウソじゃない! いい加減にプリンよこせよ」


 イライラしてるからきっと赤くなってるんだ、そうに違いない。


 不機嫌丸出しの俺の目の前に、静かに置かれたプリン。


「なーんか俺たちって、このプリンみたい」

「どこがだよ?」


 置かれたプリンを手にして、カラメルを掬うべくスプーンを入れた。


「カラメルがタケシ先生で、プリンが俺。そんな感じじゃね?」


 なかなか面白いことを言ってくれたな。確かに太郎のムダに甘いところなんて、ソックリかもしれない。


「一度に二度美味しい俺たちの恋は、プリンのように甘くほろ苦いのである、まる」

「何、解釈つけてんだ。さっさと食べろよ」

「はーぃ、あり難く戴きます」


 そんなやり取りをした、いわくつきのプリンで桃瀬が太郎と仲良くなるのに、うまいこと買収したとしたら――。


「……いいや。あのときは具合の悪い涼一くんを背負ってきたんだから、プリンなんて持っていなかったはず」


 じゃあどうしていきなりふたりが、仲良くなったというのだろう?


「俺がムチばかり振ってるから、桃瀬がアメで餌付けした……だけどアメひとつで簡単に、太郎は手懐けられないって」

「何、ひとりでブツブツ言ってんだよ、タケシ先生」

「お前がどうして桃瀬と仲良くなったのか、推察してんだ。どうせ俺が聞いても、頑固なお前のことだ、教えてくれないだろう?」


 両腕を組んで見上げると、太郎はうーんと唸ってから――。


「教えてあげてもいいけど、ひとつ条件があります」

「何だよ?」

「向こう3ヶ月間、俺の誘いを断らないこと!」


 嬉しそうに告げた言葉に思いっきりしかめっ面をして、振りかぶり殴ってやった。


「あだっ!!」

「お前の誘いを全部受けてたら、体が壊れちまう。もう知らん!」

「え~っ、知りたくないの?」


 知りたいさ。すっごく、知りたいけど――。


「バカ犬の行動からいろいろ推理して導き出すのも、悪くないと思ったんだ」


 これからはずっと、一緒にいるワケなんだし。


「……その内、イヤでもバレるだろうな。タケシ先生と一緒に、過ごしていくんだから」


 突然抱きしめたと思ったら、右目尻にちゅっと音の鳴るキスをした太郎。


「っ…こらっ! いきなり、じゃれつくなっ」

「夕飯の前に、デザート食べていい?」


 頬を摺り寄せて、耳元でアヤシク聞いてきた言葉に何を意味するのか、すぐに理解してしまった。


「俺はデザートじゃないよ、甘くないんだから」

「俺にとっては、美味しいデザートだし。だってタケシ先生は、カラメルだもんね」


 腰を抱き寄せられ、強引にキスをしてくる。


「んんっ…やめ……」

「絶対に止めない。桃瀬と俺のことヤキモチ妬いてふてくされたタケシ先生に、俺がどんだけ想ってるか、徹底的に教えてあげたいから」

「なっ」

「お互い心も身も裸になって、絡めあえたらいいなぁ」


 まったく、何、言ってんだか。


「相変わらず、胸焼けがすることを言いやがって。カラメルと絡めるを掛けたんだろうけど、全然響かなかったぞ」

「とか何とか言いつつも、顔が赤いままだよ、タケシ先生」


 いそいそと俺のネクタイを嬉しそうな表情を浮かべ外していく太郎を、仕方ないなと思いながら見上げてやる。


 ほろ苦いことばかり言ってしまっているけれど、俺から甘い言葉を吐いたら、どんな反応してくれるんだろうか? ――ってダメだ。つけ上がるのが目に浮かぶ、やめておこう!


 気になることは多々あったがそれは置いておいて、太郎がくれる甘さに身をゆだねることにした。


 めでたし めでたし(・∀・)

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