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甘い!? おしおきの巻(太郎目線)

 俺の付き合ってる恋人は今まで付き合ってきた人と違いすぎて、どうしていいか分からなくなるときが多々ある。互いのことを想い合いすぎて、すれ違うこともしょっちゅう。


「タケシ先生、スキ――」


 自宅下にある病院で、みんなが帰っても仕事をしてるタケシ先生の背後に近づき、ぎゅっと抱きしめてあげた。


「こらっ、まだ仕事中だぞ!」


 強い口調で怒鳴られても、何のその。右側の跳ねた襟足の髪の毛を可愛いと思いながら、首筋に鼻を近づけてくんくんする。いつも嗅いでる甘い香りに一安心した。


 以前、未亡人のギャルママに抱きつかれたことがあって以来、キレイで格好いいタケシ先生が心配で心配で。これが俺の日課になっていた。


「おい……鼻息がくすぐったい」


 眉根をうんと寄せて振り向いたその顔に向かって、一気に距離を詰めてキスをする。


「っ…んんっ――」


 回転椅子を上手く動かして体を自分の方に向けさせると、手際よくネクタイを外してやる。


 タケシ先生の白衣姿に発情しちゃう俺って、ナース姿に発情する男と同じだと思った。なぁんか色気がじわぁって漂っているんだ、誘われてるとしか思えない!


 そのまま腰を抱き寄せて立ち上がらせ、傍にある診察用のベッドに静かに横たえさせた。


 潤んだ瞳に、チラリと見える鎖骨が色っぽいの何の。心の中で戴きますと呟いたとき――


「太郎、テストはどうだった?」


 モノ欲しそうな顔をしながら現実に引き戻すようなことを言われて、思わず固まる。


「どうだったって、何とか大丈夫だと思う……」

「明日もテストがあるだろ。レジュメの読み込みの出来で変わってくるんだ。それまではお預けだ」

 ・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・


 その顔でそんなこと言うの、反則だ――


 かくて目の前にあるエサという名のタケシ先生に、まったく手を出すことが出来ずに現在に至る。





***


 テストは午前中で終わったので、さっさと帰り支度をして、途中コンビニに寄り昼飯を調達。食べながらタケシ先生の自宅に向かう。


「ちょうど、お昼食べてる頃だな。俺の到着があと10分くらいだから、リビングでくつろいでる時間だろう」


 うきうきしながら、足取りも軽く急いで向かう俺。タイミングも予想したとおり、タケシ先生はフローリングの床に座り込んで、テレビを見ていた。仕事でずっと椅子に座る体勢でいるから、あえて床に座り込んでくつろいでいるんだって。


 床に座って伸ばしている太ももに、すかさず頭を乗せて勝手に膝枕。ニッコリ微笑むと、つられるように微笑んできたと思った瞬間――


「ちょっ、マジで勘弁してほしいんだけどっ!」


 俺の弱点である眉毛のちょっと上あたりをしつこいくらい突いて弄りまくって、嫌がらせをしてきた。


「それはこっちのセリフだ。ストレス発散させろ!」


 ――嬉しそうな顔が見られるから、あえて逃げずにいる。そこんトコ分かって、イジワルするのかな、ホント翻弄されっぱなしだ。


「なぁ、これってタケシ先生の休憩になんの?」


 わざわざじたばたする俺を押さえつけ、力技を駆使してさ。


「せっかく買ってやったウサギの着ぐるみ、ダメにした罪は大きいんだよ」

「……だって、さ。ここんトコ忙しそうにして、話しかけても忙しいばっか言って、冷たかったじゃん」


 どうしても構ってほしかった俺はウサギの着ぐるみを着て、タケシ先生を犯人に仕立てるべく、偽装殺人事件を起こした。


 昨日だって華麗にHを断って、いろんなヤル気が一気にそがれたんだぞ! 普通ならあの状態までいったら、ヤルことヤルってば。


「お前さ、あんなことして、俺が構うと思うのか!? しっかり検視しちゃったんだぞ……村上さんが夕飯置きに来てあの姿を見たら、絶対に卒倒するから止めてくれよ」

「分かったよ。その代わり、少しは俺のこと考えろよな」


 今まで付き合った人とは違いすぎて、何を考えてるのか分からないタケシ先生。どうして俺に、3着も着ぐるみを買ったのか――可愛い姿を見たかったから、なぁんてことじゃないよな!?


 掴めそうで掴みきれない恋心にイライラして、不機嫌を示す突き出た唇に強引にキスをされた。唐突な行動に目を白黒していると、口の中に何かつるっと滑り込ませてくる。


「…んっ!?」


 ――甘いオレンジの味……


「しょうがないからご褒美だ、受け取っておけ」

「甘い――」

「さっき患者の女のコから貰ったキャンディ、オレンジ味だから平気かと思ったんだけど、思いのほか甘くてな。それ舐めて待ってろ」


 タケシ先生はよいしょと掛け声をかけて立ち上がり、うーんと伸びをして壁にかけてある時計を見た。ああ、もうすぐ病院の午後の時間がはじまるんだな。


「相変わらず、ガキ扱いしやがって……」


 寂しさも手伝って、つい文句を言ってしまう。そんな俺の顔を一瞥して、艶っぽく笑ったタケシ先生。


「じゃあガキじゃないトコ、今夜見せてみろよ」


 らしくない言葉を言った衝撃に、ポカンとしてしまった。そして昨日の病院の出来事が思い浮かばれ――体の奥にじわりと熱を持つ。


 火照った頬を感じながら、じっとタケシ先生を見つめると。


「――なぁんて、な」


 肩をすくめながら可笑しそうに喉で低く笑うと、リビングから出るべく扉を静かに締めた。


 ・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・からかわれた、のか?


「うっきーっ!! ガキだと思ってバカにしやがって! ぜってー今夜襲ってやるからな、覚悟しておけよタケシ先生っ!!」


 照れ隠しの誘い文句であることにまったく気がつかず、怒りにまかせて襲った俺を、タケシ先生が叱責したのは、いうまでもない――


 めでたし めでたし…なのか!?

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