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T065  遥か彼方への緊急通信12.4




『緊急通信回線を使用します』





『座標を獲得』






の起動を確認。使用率5%のうち4%を緊急通信回線に使用』



『回線設立完了。続いて誤差修正』



『信号検知。勇人様の緊急呼び出しを開始』














『応答を確認。これより通信を開始致します』








『ナビィか!?何があった?』



『姫様の適正に反応がありました』







『なにッ!?完全に覚醒したのか!?』



『いえ、まだ完全とは言えませんが…。データを送ります』








『おい!これは本当か!?』





『はい事実です』





『俺と花恋の子だ。血は半分しか入ってない混血のはずだ。…なのになぜ?…よりにもよって花恋よりも数値が高いのだ?』





『まだ完全な検査は終了していませんが、逆に混血だからこそ、ここまでの値が出たのではないかと。さすがに予想外でした』





『…このことは那由花は?』




『自覚はないようですが、使用する意思があれば使える状態です』






『他に知ってるものは?』





『雪様が知っておられます。その他の人間には知られてはいないはずです』





『ゆきか…。彼女はなんて?』





『勇人様しだいだと』





『そうか、諸々《もろもろ》のデータを見たが、やはりゲーム内で覚醒したのか?』




『はい。ひとつ懸念けねん点として。ゲームの統括とうかつAIはこの異常現象のことを検知した可能性があります』





『こちらからのアクセスは可能か?』



『かなり優秀ゆうしゅうかつ、子機の多い本体なため不正アクセスには時間を消費します』






『わかった…、ナビィ。今後、那由花を監視しアクセスが必要と判断した場合。アクセス実行を許可する』





『了解しました』








『並びにそのAIに敵性の反応があった場合。ゲームの影響えいきょうが出ない範囲での破壊工作を許可する』





『了解しました』





『那由花には何も言わずそのままゲームを続けてくれ』





『いいのですか?』





『今のところゲーム自体に害はないからな。覚醒したのもたぶん意図的ではなく偶然であろう。受け継がれていたなら、遅かれ早かれ現れていただろうさ…。むしろゲーム内であったことが救いだな。もし発見されてもゲームの仕様といつわれる。その代わり、那由花がもし今後、覚醒したらその時のデータをナビィが直接取得してくれ』





『了解しました』




『これからは朝霧と協力してことに当たるように。また、部外者には知られないようにカモフラージュしておいてくれ』






『了解しました』





『それよりも…、このタイミングで覚醒するとは…、そうだな…。少し予定より早いが、一旦そちらに帰還する。ビーコンを建設してからになるからしばらくかかるが…』





『このことは姫様にはお伝えしますか?』






『いいぞ。むしろ伝えといてくれ』






『了解しました』








『それとナビィには伝えておこうと思う』







『なんでしょう?』




『今回は当たりの可能性が高い』




『見つかったのですか?』



『いや、まだたどり着いてはいないがそれらしい反応を感知した』



『了解しました。このことは姫様には?』



『まだ伝えないでくれ。もしかしたら勘違いかもしれないし巻き込みたくはないからな』



『それは…』



『あぁ、わかってる。その素質があった以上もう難しいだろうが、幸いまだ向こうには存在が露見ろけんしてはいないだろう』



『了解しました』






『よし、これで報告は以上か?』





『はい。緊急を有するものは以上となります』




『あ〜、まあ、どうせ暇だ。このままなにか他に報告も聞いておこう。緊急回線だが傍受ぼうじゅなんて出来るやつもいないしな』





『了解しました。では、おふたつほど報告致します。ひとつは先程のデータとは別に、姫様のゲームプレイ映像と、本日、生配信されました動画のデータをお送り致します』





『おお!でかしたぞナビィ!』





『昨日の報告以降のデータですので、この中に黒龍戦と言われている例のデータも含まれています。あくまで姫様の視点のデータですが参考にはなるかと』






『了解した。後でじっくり見ておこう』





『2つ目の報告ですが、少し姫様が寂しがっていました。パパが全然こっちに帰ってこない、とたまにボヤいています』





『そうか…、すまんな』





『いえ、私では人の温かみを姫様に与えることはできません』





『…』




『そんなことは無いと思うけどー?』



花恋かれん様ですか?』



『そうよーん!』


『おい!花恋!これ緊急回線だぞ?なんで入ってこれるんだ!』



『得意分野だからー!』


『そんなことができるから…』



『ねえナビィ…』




『なんでしょう?』





『これは私からの命令よー。那由花を私たちが帰るまで死守しなさい』




『はっ』





『あなたはこれでも21世代目の後継機こうけいき。このくらいわけないわねー』





『必ず姫様をお守り致します』







『あ!それと…ナビィ。那由花にとってあなたは大切な家族よ。少し相手をしてあげてみるといいわー』





『…はい』






『あー…、もういいか?』


『ええ!いいわよ!』



『それじゃあナビィ。那由花をたのんだ』






『おまかせください』




『以上で通信を終了する』


『あ!あなたー!那由花のデータ見してー!』



『待て待てそう急かすナ…』









*>>三人称視点



 ここはナビィとの通信が終わりどこからかすっ飛んできた彼女と1人の男だけがいる。あたりは基本的によく分からないフォログラムウィンドウだらけだが、その中心には現在進行形で黒龍戦中のナユカの姿が映し出されていた。






「そっかー。那由花がついに覚醒したのねー。本当なら喜ばしいことなんでしょうけどー…」


「あぁ、タイミングが悪かったな」



「さっさと見つけて潰してしまいましょー?あいつらなんかに私も…、那由花もやらないわ」


 そんな2人は今は遠く遠い場所にいる我が娘を眺めながら真剣な表情で真っ黒な外。その先に輝く星を見つめる。


「もちろんだ。さて、では早速ビーコンを建設しないとな。トビィに頼めるか?」


「もう頼んだわよー」


『既に建築を開始しております』



「そうか。頼んだ」


 そこに今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑え、勇人に寄りかかる花恋かれんは唯一の愛娘に祝福をささげ、…うつむいた。

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