私が「幸せになりたい」と望んだ「全員」と今出会った。
ここにエドガルドが居ないのは仕方ないけれども……
『まぁ、エドガルドは一年後に来るだろうな』
――一年後に勢ぞろいというわけですか、成程――
『……まぁ、そうなる』
――あの……その不安を煽る言い方やめてくれませんか本当?!――
相変わらず、どこかで神様は私の不安を煽る。
――何なんですか、昼ドラみたいな奴になるんですかこのルート?!――
――ヤダー!!――
『そうはならん……とは言い難いなぁ』
――ぎゃー!!――
嫌だぞ!!
昼ドラが好きな方には悪いが、私は苦手なんだあのドロドロした感じが!!
いや、茨道のハーレムルート進んでるとか、凌辱とかそういうのあるゲームやってた癖にアホかお前とか言われるかもしれないけどもー!!
既に対抗心向けてくる野郎にムカついてたり、子ども蔑ろにするクソ親とか、虐待する「血だけ繋がってるクソ連中」とかいるから昼ドラと大差ないとか言われるかもしれないけどー!!
『まぁ……お前次第としか言えんな』
――ご助言をくださいお願いします、神様――
――私、昼ドラ展開は絶対嫌でございます――
『そこまで言うか……』
ドロドロ展開はなるべく避けたい、私が原因のは。
後で私がぶん殴られるのは覚悟できている。
『……ぶん殴られた方が楽だろうがな』
――今なんと?――
『気にするな』
――また不穏発言ー!!――
この神様の不穏発言だけは本当に怖い!!
勘弁してほしい!!
怖いから別の事を考えよう。
――……アルバートと、カルミネと此処であっちゃったけど大丈夫なのかな?――
『まぁ、それも気になるだろうな。今はそっちに対処するとしよう』
――……んーこれ、顔を此処で合わせるだけで、エリアとクレメンテとかと一緒に屋敷に戻った方が吉?――
『正解だ、そうしろ』
――頑張りますー……うへぇ――
何時ものように「戻り」そして、二人を見つめる。
雰囲気的に、エリアは怯えているのが分かるし、クレメンテもあまり良い気分ではなさそうだ。
「ダンテ殿下は、本日の講義はもう終えられたのですか?」
「ええ。今日は二つ程で終わっておこうと思いまして……ところで、アルバートさんはどのような御用件ですか?」
「――アルバート様、急ぎの要件でないのでしたら後日にしていただけませんでしょうか? ダンテ殿下はここ数日愚者達の起こした事への対応で疲れております故」
「フィレンツォ、そう言う言い方はやめてくれませんか?」
ピリピリしているフィレンツォを宥めるように、私は言う。
――まぁ、事実だけども!!――
「――申し訳ございません、ダンテ殿下」
明るい声から一変して、アルバートは真面目な声で私にそう言って頭を下げた。
「つい最近、メーゼの治安を悪化させていた輩が捕まえられたと聞きました、その事なのでしょう?」
――え、エリアの件、そんなにいたの?――
――……そうだ、まだ私人数とか聞いてないな――
「ええ、その通りです。ダンテ殿下は、そちらの方の対処に追われております。ですので、本日は屋敷に戻り、休息をとられることを私が進言しました」
フィレンツォの奴、息をするように嘘つきやがった。
「そうでしたか……」
「いえ、お気になさらず……では、またお会いしましょう、アルバートさん、カルミネさん」
私は若干フィレンツォに引きずられるように、その場を離れてさせられた。
「――フィレンツォ、もう少し言い方あったのではないですか?」
屋敷に戻り、ソファーに寝かせられて、冷却布を額にのせされたまま、私はぼやく。
「事実です、エリア様と、クレメンテ殿下の件で色々と対応していたはずですし、それに本日は講義中に色々あった為教授にやたらと勧誘されていたではないですか」
「確かにそれには疲れましたが……」
「だ、ダンテ殿下……すみません……」
「ダンテ殿下、私の件で……」
明らかに罪悪感等に染まっているエリアとクレメンテの声に慌てて冷却布を取り、起き上がる。
「クレメンテ殿下、エリア、お二人ともお気になさらないでください。私が疲れたのは、二人の教授に勧誘されたりした事だけですから。それより、フィレンツォ。どうしてそう警戒しているのですか?」
私はフィレンツォに問いかける。
けれども彼は答えない。
「……フィレンツォ、もしかしてあの二人がベネデットと同じエステータ王国出身だから警戒している、という訳ではないですよね?」
「――警戒しております」
フィレンツォの言葉に面食らう。
「ジラソーレ伯爵家同様、アナベル伯爵家も、エステータ王国では力のある伯爵家です。それに双方共に交流があります、あの愚か者のように愚かしい対抗心を持って近づいてきた可能性も否定できません」
フィレンツォの言葉に、私はふぅと息を吐く。
「フィレンツォ、それはないです。貴方は警戒しすぎです」
「――それ以上に私は危惧していることがあるのです」
「何を危惧しているのですか」
フィレンツォに問いかけると、彼は何と言うか複雑な表情をしてため息をついた。
「私が口にするべき事ではないです、申し訳ございませんダンテ殿下」
「⁇」
気にはなるが――何となく「聞くな」と言われそうな予感がしたのでやめることにした。
『その通りだ』
――やっぱり――
予想通りだったので、聞かないままにする。
まぁ、実際色々と気になる事はある。
そして全員私があの馬鹿をぶちのめすのを見ていた。
ならば気になるのだ、交流があったのに、止めに入ることも何もしなかった、この意味は何なんだろうと。
――そこまで、仲良くないのか、それともカルミネがアルバートが止めようとしたのを辞めさせたのか?――
『その通りだ』
――何故?――
『アルバートはベネデットを素直になれない男を思っていて、カルミネはベネデットの存在がアルバートに悪影響であると判断していると思っている。ベネデットは楽観主義のアルバートが嫌いだし、自分を敬わないカルミネの事も嫌っている』
――ワォ――
『あと、自分の婚約者のロザリアとアルバート達が仲良いのが気にくわないそうだ』
――ガキかよ……いや、ガキだな、おこちゃまだな――
――まぁ、前世生きた分と合わせて28年と18年生きてる事なるけど、大人になってる気がしない私が言うのもあれだなぁ……――
『まぁ、前世の記憶と人格の大部分を持っていてもお前は確かに「大人」とは言い難いからなぁ、本性は』
――言わんでください――
『まぁ、それでも前世ではお前は社会に出て必死に適応しようと努力はしていたからな。大人どうこうというより、お前は確かに弱かったが「強かった」とも』
――……あまり嬉しくないですね……――
『だろうな』
前世の私は成人して、お酒が飲めるようになっても。
社会に出て働くようになっても。
自分が「大人」になったという風には思えなかった。
ただ「大人の責任」だけを背負わされて、振り回されているように感じた。
社会の歯車として生きる様に求められて、自分がすり減っていくようで怖かった。
――これが「大人」だというなら、私は「大人」にはなれない――
そう思いながら、私は心のよりどころにすがって日々を過ごしてきた。
そして、日々生活し――そして28年で殺されて
神様のおかげで第二の生――基今の人生、ダンテ・インヴェルノという男性として歩んでいる。
環境が何もかも違うこの世界で生きてきて、前世よりはかなり充実し、楽しい人生を送っている、今の所は。
まぁ、時々腹立つことがない訳ではない、胸糞悪くなる事もある。
でも、必ず傍で支えてくれる人がいる。
画面越しで、たまにしか会うことのない仲間の存在は確かにかけがえがない存在だった。
でも、こうして生きていることで分かった。
私は、誰かが傍にいてくれないと、駄目なんだと。
――ああそうかだから――
――誰かと暮らしたいと、願っていたんだ、昔――
――でも、迷惑をかけるとか、嫌われるのが怖くて、できなかった――
嘗て願っていた事が、今かなっていることで――
心の中に残っていた棘が、抜けたような感覚がした。
『その通り、お前を支える者がいる。お前の傍にいる者がいる、だからこそ――』
『頼れ、私だけでなく、彼らも――』
神様の言葉に安心する。
ああ、頼って、いいんだと――