私が気絶させた不審人物は学院内の独房に入れられ、監禁中だ。
それと、成り代わられていた助手の方は手洗いの個室に入れられ眠らされていた。
殺して成り代わっていたとかではなくて安心した。
「――ダンテ殿下、ブルーノ学長殿、調べ終わりました」
治安維持の方たちとフィレンツォが学院の会議室にやってくる。
「結論から言います。狙われていたのはアナベル伯爵のご子息ではなく、シネン子爵のご子息でした」
「アルバート君ではなく、カルミネ君を狙っていた、という事ですかな?」
ブルーノ学長の確認の言葉にフィレンツォは頷いた。
「アルバート殿はアナベル伯爵家の嫡男、何か起きない限り跡継ぎになります。カルミネ殿も同じく。シネン子爵家はアナベル伯爵家の代々補佐をやっております」
「……フィレンツォ、もしかして依頼人はカルミネさんの『叔父』もしくはカルミネの『弟』ですか?」
「――両方です、ダンテ殿下」
――オゥ、ナンテコッタイ――
フィレンツォの言葉に頭が痛くなる。
「フィレンツォ……これは両家に任せた方がいいでしょうか? それとも私は立ち会うべきでしょうか?」
「関わってしまってはいますが……私は両家に任せるべきかと。ですがダンテ殿下が御不安でしたらカリーナ陛下にご連絡をいたしますが……」
『気になるから状況報告くらいは欲しいといっておけ、それ以外は向こうに任せておけ。無理はこれで終了』
神様の言葉に心の中で息をつく。
「そう、ですね。カリーナ陛下にお任せしたいです……ですが、どういう状態なのかは知りたいです……関わってしまったからでしょうか、気になってしまうんです……可能でしたら……」
「畏まりました。カリーナ陛下にお伝えいたします」
フィレンツォはそう言った、多分これで状況が分かるだろう。
一つ片付いたので、私は他に気になる点をブルーノ学長にたずねてみることにした。
「ブルーノ学長、どうやって侵入したのでしょうか? 助手を気絶させて成り代わり、直前に触媒に細工をするなんて行為ができるとは言え学院に不法侵入はできないはずでは?」
「その恥ずかしいことに、今回の件は向こうにしてやられましたなぁ」
「どういう事ですか?」
私はまだうまく理解できていない。
「実行犯は、シネン家筋の使いでアナベル家とシネン家の両家からお二人に届け物をと言う名目で学院内に入ってきたのです」
「……つまり、正式な両家の使いとして出されていて、両家からも確認が取れていたから通してしまった、と」
「はい、そういう事です」
――うわぁ、頭痛がいてぇとか言いたくなるレベルだこれ――
私は額をおさえる。
これはもうヤバイの一言だ。
ドロドロとしたお家騒動。
頭が痛いし、胃が何か痛くなってきた。
――おかしいなぁ、記憶だとこんなの無かった気がするんだけども……――
「……何と言いますか、これはその……」
色んな連中の思惑がこう、絡み合いすぎるように感じた。
「ダンテ殿下、今回の件はカリーナ陛下からの状況報告をお待ちしましょう。すでにダンテ殿下は色々と抱え込みすぎておりますから」
「……わかりました」
フィレンツォにそう言われ、神様にも「無理すんな」言われているので任せることにした。
ただ、アルバートとカルミネの二人から何か頼みがあれば遠慮なく協力はするつもりではある。
「――ではダンテ殿下が倒れた件についてお話したいのですが」
「一体何があったのです?」
ブルーノ学長にフィレンツォが問いかける。
「それに答えるには私がお聞きする必要があります。ダンテ殿下、貴方様は『何』を見たのでしょうか?」
ブルーノ学長の言葉に、私は息を吐いて口を開いた。
「見て、聞いた、が正しいでしょう」
「誰かが本に魔術に関する事柄を記述しているのが見えました。そしてその人物はこう言いました『三つの学院に私の残した魔術陣を代々見せる事を頼んだ。私を超える資格を持つものはこの記録を見るだろう』と」
私の言葉に、学長は酷く重い表情をしている。
「そして『どうか、どうか、インヴェルノ王家の書庫にある私のこの本を』という所で、フィレンツォの声で目を覚ましました。なのでそれから先の言葉がある気はしますが、どういう本なのか表紙を見ることはできませんでした」
私はそう言ってため息をついた。
「……間違いなく声の主は、術王サロモネ・インヴェルノ様でしょう」
「何か心当たりがあるのですか?」
ブルーノ学長に私は問う。
「はい、ダンテ殿下だけでなく、他の学院でも歴史基礎学の講義で最初にサロモネ様がお書きになられた魔術陣を見るのです」
「魔術の方の講義ではなく?」
「はい、それがサロモネ様からの命であり――」
「その魔術陣で、サロモネ様の記憶を見た方にのみ、私が話すべきことがあるのです」
ブルーノ学長の言葉。
「……つまりその内容は私以外の誰かには話せないという事ですか?」
「はい、そして――」
「今はまだ語ることができないのです」
私は再び額に手を当てる。
――何だ、こんなの前世での攻略とかには全くない?――
――どういうことなの?――
と、悩んでみるものの。
実際この世界――基あのゲームを完全攻略した人は前世の私が死ぬ前にはおらず。
ノーマルエンドが一番マシ。
バッドとビターとメリバ満載。
誰かのエンドでは誰かが死ぬ。
攻略サイトでもどう攻略すればいいのか情報収集の段階で、どうやればいいか皆模索。
公式からのアドバイスは無し。
――本当にこれが私が望む「未来」へ至る道……なの?――
『懐疑的だな』
――うげ――
『断言してやろう、現状お前は最初に求めた「未来」への道を歩んではいる――だから、私の話はちゃんと聞け』
神様にそう言われるが、知らない事ばかりで結構大変なのだ。
産まれた時から何かゲームの時とは違ってて!!
そしてエドガルドの件があんな風に解決されるなんて思ってなくて!!
後、エッチなことは解禁まで禁止とかなにそれ?!
『まぁ、童貞には大変だろうがな』
――そうですよ、童貞ですよ!!――
神様に私は怒鳴る様に言う。
次期国王で、美しいと評判の御后譲りの美貌の王子。
となれば、下心のある輩はわんさか近づいてくる。
性別関係なく。
思い返せば、六歳位の時からもうすでに近づいてきていた。
自分の娘、息子を私の伴侶にさせたいと。
もしくは、私を伴侶にしようと。
でも、殆どフィレンツォによって阻まれていた。
顔が良く見えないし、口調も柔らかいものだったが――
『私の大事な主に何近づいてんだ貴様ら』
と言う感じだったのが分かる。
今は、私の自主性に任せている……訳ではないな。
うん、割と警戒している。
それはそうだ、今は母国で婚約していない限り、留学中に結婚相手を探すのが当たり前になっている。
まぁだからこそ、下心ありきで私に近づく者達を警戒しているのだろう。
『その通りだ、だからお前は気を付けろ』
――分かってますよ……ところで私ってそんなに近づきやすいですか?――
――威厳とかそういうの無し?――
『普段は全くないな、寧ろ話しかけやすすぎる雰囲気をだしている位だ』
――オゥイェ……――
『前世時代から、お前道とか色々たずねられてただろう、それの延長線だ』
――だったらどうしようもねぇわ!!――
神様の言葉に私はキーっと声を張り上げる。
『まぁ、それは置いておくとして、お前は着実に前へと進め。それだけは言っておく』
『幸せに、したいのだろう?』
意地の悪い神様の問いかけ。
――当たり前だ――
答えは今も変わらない。