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此処にいない愛しい貴方へ(とりあえず今は気にするな from神様)




 とりあえず、一通り目を通した。

 残っている、特に術が強固に施されている――エドガルドにとって大切な事、私以外の誰にも見られたくない、私への事がかかれているであろう内容が書かれている便箋を手に取る。


 他の便箋よりも、はるかに質の良い紙で作られているそれを手に取る。





 ああ、嬉しい。

 私もだ、私もお前に会いたい、一日も早く会いたい。


 だが、お前からの手紙を読んで私は酷く不安になっている。


 お前は優しすぎる。

 その優しさがお前を苦しめる事にならなければいいと思う。

 お前は苦しいのもきっと我慢するだろう。

 時にはフィレンツォにだって言うのを我慢することだってあるだろう。

 私が傍にいれたなら、お前のその苦痛を和らげるように努力できるのに、今私はお前の傍にいることができない。

 だから、手紙でお前の思っていることを教えて欲しい。


 お前は私の事を大切に思っているのは良く分かる。

 けれども、お前は次の国王なのだ。


 その意味を、私は理解している。

 だからこそ……



 お前が……その……凄惨な情景の中心にいることになるのではないかと……不安で仕方ないのだ。

 それと……私がその中にいないと否定できないのも辛い……



 話がそれてしまったな、すまない。

 だが、忘れないでくれ。

 お前はもっとお前自身の事を大切にして欲しい。

 だから頼れるようなら、頼って欲しいのだ。


 お前の傍で、お前を支えられるようになる為に、私は私の方で努力しよう。

 待っていてくれ、必ずお前の傍に行くから。

 愛しているとも。

 この世界の誰よりも。

 愛しいダンテ、どうか元気でいてくれ。





「……」

 エドガルドからの手紙から、やっぱり自分はかなり無理をしているんだろうと思ってしまった。

「しかし、どうするか……まぁ、今はフィレンツォに頼りつつ、エドガルドに手紙報告したりするべきか」


『それでいい』


 神様の言葉は突然来るので心臓に悪い。

 かなりの回数経験しているが慣れない。


「それにしても……」

 私はエドガルドの手紙のある箇所が気になった。

 それは「凄惨な情景の中心にいる」という事と「私がその中にいないと否定できない」という箇所。


――うわー!――

─―嫌だ!!――

――絶対これ修羅場じゃん、昼ドラみたいなやつじゃん!!――


 頭が痛くなる。

 というか現実逃避したい。


『――……別の意味で修羅場かもな』

――神様ぼそっと怖いこと言わないでくださいー!!――


 神様は相変わらず私の不安を煽りやがる、畜生。


――神様!!――

――お願いですから少し位私の恐怖を煽るのは止めていただけませんでしょうか?!?!――

『煽ってるつもりはない、事実を言ってるだけだ』

――うがー!!――


 何か腹が立ってきた。

 頭に来る。


『……そうだな、お前が迎えるのは……』


『お前が責められたり、罵られたりするような修羅場ではないだろう現状ならば』

――は?――


 意味が分からない。


『あと、別にお前が幸せにしたいと望む者達が罵り合う訳でもない』

――いや、待って、全然修羅場じゃないじゃないですか?――

『だから「別の意味」で修羅場かもなと言っただろう』


 さらに意味が不明すぎる。


――どういう意味で修羅場なの⁇――


 と、考えはするが返事はない。

 どうやら今は答えてくれないようだ。

 多分、それが終わるまで神様はその件についてぼかすだろうと予想はできた。



 私はふぅと息を吐いてエドガルドからの手紙を仕舞い、返事用の便箋と封筒を取り出し、ペンを取る。

「さて、では書くとするか」

 現状頼りにできるのはエドガルドだけだ、何せサロモネ王はご先祖様。

 あの言葉通りなら、おそらく目当ての物があるのはインヴェルノ城の書庫。


 そこに何かが確実にある。


 ただ、エドガルドにはこの件は他者は勿論父と母にも内密にしてくれと頼むつもりだ。



 特に父さん。

 あの人に知られるとなーんかごたごたになるんだよなぁ、母さんならともかく。

 そこだけは念を押すように書いた。



 それと、此処であった他の事柄についても書いた。

 アルバートとカルミネの件や、クレメンテの件、エリアの件も書いた。


 若干不安になるが、まぁ仕方ない。

 事実あったことなのだから。

 隠して抱え込んで後でバレるよりも、文通という形で事前に相談していれば、何とかなるんじゃないか。


 なんて気楽に考えようとして、神様の不穏発言から思考を背ける。


 正直頭の痛いことだらけだ。


 学生生活エンジョイ!!


 なんてことをまだ言える状況でもなければ、言える予感すらしない。


 学生生活を思い出したくないというエドガルドにそういう事を伝えるのも酷なのは分かっているけど、書いておくことにする。


 隠し事は最低限、本当に必要な事だけ。


 そう、決めたから。



「……さて、最後はどうしようか」

 エドガルドへの返答。

 エドガルドの不安への返事。


 前世で社会人経験でメールでやり取りするとは違うもの。

 手紙なんてほとんどなくてSNSで簡単につながって、簡単に途切れる世界。


 これはそんな世界とは違う、思いを込めた文字を書いて伝えるものなのだから、気を付けるところはあるけど、気を使いすぎては駄目。


 エドガルドが不安になるから。


 少し考えて私はペンを走らせる。





 有難うございます、エドガルド。

 貴方が私を思ってくれていることが嬉しく思います。


 我慢はなるべくしないようにします。

 フィレンツォが厳しいですからね、無理をしすぎるとベッドに叩き込まれませんし。

 フィレンツォに言えない事であれば、私は貴方に伝えたいから、手紙をこうして書くのです。



 貴方が不安に思っていることが何か分からないのですが、気を付けておこうと思います。


 エドガルド、貴方に色々と頼みごとをして申し訳ありません。

 貴方は私の為に既に色々と尽くしてくれているのに。

 そんな貴方に私は何も返すことができない、それが辛いです。


 どうか、貴方も無理をなさらずに。


 エドガルド。

 私の事を愛してくれて有難うございます。

 私の大切なエドガルド。

 一日も早く、私も貴方に会いたい。

 貴方に触れたい――





 手紙を書き終えて息を吐く。


――会いたいなぁ――


 今ここにいない、彼を思ってため息をついた。





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