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安堵と手紙そして、不安(気づかないからそれでいくしかないfrom神様)




「――エドガルド殿下の時のように」


 その言葉に、私の頭は大混乱。


――え?!――

──嘘、そんなはずはないって!!――


 まさか、エドガルドが私に対して抱く気持ちをフィレンツォが知っているのではないかと、心の中で冷や汗がどばっと流れる。

 さながらナイアガラの滝レベルだ。


「エドガルド殿下とは御兄弟仲睦まじく、エリア様は虐待の傷が癒え穏やかに幸福に暮らせるように、クレメンテ殿下は……まぁエルヴィーノ陛下はどうでもよいので、クレメンテ殿下がもう差別に苦しむことなく過ごせるように、手助けをするのでしょう?」

 混乱している中で言うフィレンツォの言葉にハッとして、そして内心滅茶苦茶安堵した。



 何か色々見透かされている気がして怖かったのだ。



「それなのに、自分の駄目な部分を隠し続けて無理をして貴方様が不幸になったらそれこそ駄目ではないですか。貴方様が皆様の幸せを望む様に、皆様も貴方様の幸せを願っているのですから」

 フィレンツォの言葉に私は神様の言葉を思い出す。





『何が何でも幸せになってもらう、基満足して大往生してもらうぞ!!』


 神様が私に言った言葉。

 神様は私にも幸せになってもらうと言っていた。

 だから口を出す時もあれば、出さない時もある。

 私が、幸せになるために。

 全ては私が幸せに終わる、幸せなまま終わるためのことなのだ。


 神様にとっては予定外、私にとっては想定外の事態で、美鶴わたしの人生は終わった。

 あのクソ野郎、地獄の苦しみを味わいながらくたばれと未だに思っている。


 幸せになれなかった。

 幸せだと思いながら死ねなかった。



――ああ、そうだ、私も、幸せに、なりたい――



 幸せにならないと、嫌だ。

 どうしていいか分からないけど、私は、皆と幸せになりたい。





「――そうだ、そう、ですね。私も幸せにならないと意味がないですね。例え次期国王になることが決まっていても」

「ええ、そうです、その通りです。ダンテ殿下」

 私の言葉にフィレンツォは漸く微笑んだ。

「では、私がお二人の勉強を見ている間こちらの方を」

 フィレンツォはそう言って手紙を出してきた。

 見間違えるはずもない、エドガルドからの手紙だ。

「――ありがとう、フィレンツォ」

 エドガルドからの手紙を受け取り私は自室に戻ることにした。



 ただ、その時どこか呆れたようなフィレンツォのため息が聞こえたが、気のせいだと思うことにした。





 自室に戻って、扉を閉めて机に向かい、椅子に座って封を切る。

 そして、便箋に書かれてあるエドガルドの文字を読む。

 相変わらずスゴイ量だ。



 エドガルドに頼んだ、サロモネ王の本だが――どうやらそれらしい本が一冊見つかったらしい。

 サロモネ王が書いたはずの本――なのに何一つ書かれていない本が一冊あるようだ。

 これではないかと思うと来たのだが、その本を国から出すにはかなり手間がかかるのですぐには送れないと謝罪の言葉がかかれていた。


――エドガルド、そんなに自分を責めないでください……――


 私が無理を言ったのだ、文章からでも分かる、エドガルドの自罰的な言葉に私はそう思うしかなかった。


 後、フィレンツォが伝えていた件について書いていた。

 文面から若干呆れられている様な雰囲気を感じた。


『お前がそういう意味で鈍いのは理解している、理解している』

『お前はそういう所があるからな』


 そう言った文章が繰り返えされているのも気になった。


――でも深く聞かないでおこう――


 何時ものことな気がしたのでそう決めた。


 続けて読めば、もう少し自分の体を大事にして欲しいと書かれていた。

 確かに無自覚に無理しすぎていたことは分かる。

 ただ、おかげで面白い施設を紹介してもらえて、美鶴の頃前世でやり込んだアーケードゲームとかが出来て、向こうの食べ物が、お菓子が食べれて嬉しい限りだった。


 精神的に非常に楽になった。


 どんな事をしたかは書かないけれども、施設で子どものように遊んだことを書こう。


──いや、確かにまだ未成年だから子どもだけどもね?――


 未成年だから子どもなのだが、そういう意味合いじゃないのは分かってくれる事を願ってそう書こうと決めた。


 そして予定調和の如く父に関しては――

 まぁ、今まで通りになったらしい。

 けれども、父には私のまぁその恋愛じみた感情というかそれに近い感情を抱く相手がいるという事は一切伏せられている。

 なので――


『ダンテに出会いはないのか?』


 とかぼやいているらしい。


――大きなお世話です――





 一通り目を通してから、いつも通りの残っている私以外の誰にも見れない便箋に手を伸ばした。





 私の最愛のダンテ。

 私もお前に触れたくてたまらないよ。

 一日も早く会いたい。


 だが、やるべきことがある。

 そしてお前から頼まれた事もある。

 おそらくお前の言っている書物だが、管理者曰く「無名の本」らしい。


 理由は誰にもその本の題名が読めないからだ。

 いや、題名自体書かれていないというべきか。


 書かれているのは著者名のみ。


 著者は「サロモネ・インヴェルノ」であることは間違いない、サロモネ王が書いた書籍と著者名の書き方が全て同じだからだ。

 それに、この本は「来るべき時、資格ある者のみが読める」とサロモネ王の遺言があるらしい。

 だったら早々にお前に渡すべきなのだが、サロモネ王の本だ。

 国から出すにはかなり手続きがいる。

 父上にこの事がバレるのではないかと焦っていたが、母上が代わりに最後の許可をやってくれるという事だ。

 つまり父上にバレることがない。


 父上にバレたら大変だからな。


 話がそれた、すまない。

 お前はもっと、我儘であるべきだ。

 我慢などしすぎてはいけない。


 ダンテ、愛しのダンテ。


 優しくて、鈍感すぎるお前はきっと色々と苦労するだろう。

 私は傍にいて支えることはできないし、その鈍感さにおそらく――


 いや、これは今は言うまい。


 ダンテ、私の最愛の人。

 どうか、健やかにいてくれ。

 お前に何かあったら、私は死んでしまうだろう。





 エドガルドからの手紙を見て、息を吐く。

 エドガルドもかなり無理をしているんじゃないかと思えてきた。

 私の所為でエドガルドが無理をするのは、本意ではない。


――どうしたものか――


 私はため息をつき、額に手を当てて、椅子に深く腰を掛けた。








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