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面倒な奴に絡まれたよ!!(それが重要なのだが、言えないfrom神様)




 朝――


「だから何でいつもそういう状態になるんですかね?」


 呆れ顔のフィレンツォの視線をちくちくと感じながら、私は起き上がって息を吐く。

 寝間着姿の私の隣には、寝間着姿ですやすやと今も眠っているクレメンテが眠っていた。


「仕方ないだろう? クレメンテ殿下の情緒が不安定どころじゃなかったんだから」

「それは分かります」

「だろう? それと添い寝だけだよ、私はそれ以上の事はしてない、誓って言おう」

「インヴェルノ王家の名に誓って?」

「勿論だとも」

 私のその言葉に、フィレンツォは重くもどこか呆れたようなため息をついた。

 その時何か呟いたような気がしたが、よく聞き取れなかった。



『お前は聞き取らなくていい』

――えー!?――


 神様からの言葉が聞こえた。

 でも、それで何となく分かった。

 きっと今の言葉は、私が知らない方がいいのだろうと。


『その通りだ、お前の性格的に知らない方がいい』


 何処か不穏な発言だが、仕方ないと私は諦めた。



「今日からまた講義か……」

 そう呟いて時計を見ると、少しだけ早い時間帯だった。

「食事の準備は既にできております、講義の用意の方も、ですからクレメンテ殿下とエリア様を起こしていただけませんか?」

「ああ、分かった」

 フィレンツォが起こすように言った理由を何となく察する。


 フィレンツォが居なくなり、部屋の扉が閉じられているのを確認するとクレメンテを軽く揺する。

「クレメンテ、起きてください。今日からまた講義ですよ」

「ん……」

 もぞもぞと動いてから、クレメンテはまつげを震わせながら目を開き、栗色の目でこちらを見た。

「ダンテ……ああ、そういえば今日から……また、講義でしたね」

「ええ、そうですよ。着替えて準備をしましょう。エリアも起こさなければなりませんし」

「あの、ダンテ。一つお願いが」

 私の腕をクレメンテが掴んでそう言った。

「何でしょうか?」

「次の休み、エリアと一緒に寝てあげて欲しいのです。私はそういう事を頼むと約束した上でダンテの所に来たんです」

「……はい?」

 寝耳に水である。


――どういうこっちゃ?――


「……エリアも、夜誰かに抱きしめて涙を流して眠りたいこともあるのです」

「――わかりました、では次の休みに」

 私がそう答えると、クレメンテは安心した様に

「ありがとう、ダンテ」

「いえ、エリアを気にかけてくださりありがとうございます」





 その後、エリアを起こしに行き朝食を取り終えると、ブリジッタさんが後片付けをしてくれた。

 フィレンツォは何処だろうと思っていると、アルバートとカルミネの二人を迎えに行っていたらしく、二人が屋敷に招かれた。

 まだ、両家のごたごたが落ち着いてない中何かあったらより私の負担になるので二人も私――というかフィレンツォの監視下に入ることになった。

 若干不本意そうなフィレンツォに、私は噴き出して笑いそうになるのを堪える羽目になったが。





 講義は、あの厄介な男ベネデットが必ず同じ講義に出てくる上に、私やアルバート、カルミネと競うように……正直面倒な対抗心を燃やして色々やってくるので面倒だった。

 まぁ、神様の言う通り鼻っ柱へし折ってやったけども。


 高すぎる自尊心プライドというものを持つのは厄介なことだとつくづく思った。


――でも五日間も続けばこっちが嫌になる!!――

――ストーカーと前世じゃ呼ばれても仕方ないレベルだぞコレ!!――

――この三週間わざわざ私が居る時に出るとか正気かテメェ!!――


 と、私のストレスが溜まった。

 なので、休日朝食を取り終えると速攻で施設へと向かった。



 懐かしい音ゲーやら、格ゲーやら色々やり込んで遊びつくして、サイダーやアイスを食べてストレスを発散した。


「あのクソ野郎なんなんだー!! いい加減にしろー!!」


 と叫びながら。


 ひとしきり遊び終えると、私は施設を出た。

 フィレンツォが待っており、私の顔を見て安堵の表情を浮かべた。

「この施設を紹介してよかったと心から思ってます」

「……そんなに顔に出てたかい?」

「ええ、クレメンテ殿下やエリア様達はまだですが、長い付き合いの私にははっきり分かる程」

「むぅ」

 フィレンツォが分かるという事は、母とエドガルドも分かるという事だ。

 エドガルドにそんな顔を見られたら、あの男ベネデットがどうなるか分からない。

 いや正直どうなろうと構わないが、婚約者さんが可哀そうなので。


 ちらりと前世でやってた時ゲーム中も登場したが、とても優しい女性だった。


――んー今はどうなのかわからないけどもね、実際あった事がないし――


 そんな事を考えつつ、私は帰路についた。





 屋敷に戻ると、居間のソファにゆっくりと腰を掛けて、少し姿勢を崩して座る。

 目の前のテーブルに置かれたミルクと砂糖入りの紅葉茶を飲みながら一息つく。


 ストレス発散できたが、体力を消費したのがまだ残っているのでゆっくりと休む。

「……」

 甘い紅葉茶を口にしながら、一人考える。

「ダンテ様、どうなさいましたか?」

 フィレンツォが茶菓子を目の前にそっと用意しながら私にたずねる。

「アナベル家とシネン家の事だよ。正直考えたくない。カリーナ陛下も何を考えているんだ、こんな若造に」

 そうぼやいてクッキーを齧る。


 さくっと音をたてて優しい甘さのそれに、舌鼓を打つ。


「美味いね」

「昨晩から準備しておりましたから」

「いつもすまないな」

「いえ」

 フィレンツォがそう言ってから、私は一人考える。


――若造……前世足すと若造じゃ……いや待て、王族はかなり長寿で老化現象も遅い……やっぱり私はこの世界では若造?――


 などと、先ほどの自分の発言を振り返る。

 前世の事など知ってるのは神様と私だけなので、ここでは18歳の若造。

 そう、まだ大人にもなれてない存在。


――それに色々問題ふっかけてくる陛下達なんなん!?!?――


 ぐいっと白茶色の液体を飲み干して、カップを置く。

「――次から次へと私へ問題を押し付ける陛下達には参るよ。父上もそうだったし」

「まぁ、あれはジェラルド陛下も悪いですが、断ることをしなかったダンテ様もかなり悪いと思います」

「それはな。でも、ヴァレンテ陛下とカリーナ陛下はどうなんだ? ヴァレンテ陛下は何とか向こうに返したけど、カリーナ陛下から投げられた件はまだ解決の『か』の字も出てないじゃないか」

 私は若干自棄になって言う。

「ご安心を。私は『か』の字は出ておりますし、そろそろ『い』の字も出る頃合いだと思っております」

「ああもう、お前は!!」

 フィレンツォの言葉に頭を抱える。


――軽く言ってくれるな、本当!!――


 まだ、両家の情報を軽く知ってる位しかないのにどうすればそうなるのか知りたい。

「話が変わりますが、エリア様の件で」

「どうだ?」

「はい、ヴァレンテ陛下が少しだけ手直ししただけでほぼそれで通りました。ただ、カリオ・マニョーリャ殿への処遇で少し問題が」

「何だ?」

 悪いことが起きたなら、エリアとの約束を反することになるので、私は身構える。

「ええ、どうやら現在身の安全を完全に確保できない為、エリア様が卒業するまではお会いすることは少々難しいかもしれないと」

「なるほど……結構厄介だな」

「それだけ多かったのです、仕方ありません」

「プリマヴェーラ王国は四国家の中で国民数が一番多いからな、貴族の数もその分、多い。本当面倒だろうなぁ」

 他人事ではないのだが、他人事でもあるので私は呆れたように言う。

 ちなみに、国民の数が一番少ないのがインヴェルノ王国、つまり祖国だ。





 プリマヴェーラ王国は春、エステータ王国は夏、アウトゥンノ王国は秋、インヴェルノ王国は冬をイメージして前世では設定されている。

 なので春夏秋冬の順に国民数が多いが、一番偉いのは逆に冬で他三つは同列扱いになっている。

 そこらへんは神話と関わる。



――それにしても変わった神話だよな――



 私は、前世で、そして今世で語られた神話を一人思い出した――







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