何か両脇に違和感を感じて目を開けると、エリアとクレメンテが両脇に丸くなって眠っていた。
――ファー?!?!?!――
思わず心の中で悲鳴を上げる。
おかげでフィレンツォのノック音も聞こえず反応できずに、部屋への侵入を許した。
「お目覚めになりましたか」
「フィレンツォ!! これは誤解だ!!」
思わず変な言葉が口から飛び出した。
フィレンツォはそんな私を見て苦笑した。
「お二人がダンテ様の傍にいたいとおっしゃられたので私もそれがよいと言ったのですよ」
「そ、そうか……心臓に悪い……夢遊病者になったかと思った」
「それは失礼いたしました」
全然反省してないし、どこか愉快そうなフィレンツォに若干ムカついた。
「卒業したら奥さんに言いつけてやるからな」
「それだけはやめてくださいお願いします」
焦ったように早口で言うフィレンツォの様に留飲を下げる。
フィレンツォは愛妻家であるが故に、奥さんには弱いのだ。
「分かった分かった、言わないから」
私がそう言えば、心底安堵した表情をフィレンツォは浮かべる。
「……そう言えば前々から気になってたことがあるのですが」
「何だい?」
「いえ、大したことではないのですその……」
「その?」
「『むにゃらもね』とは何ですか?」
フィレンツォからの予想外の言葉に私は少し無言になり、考えて、口を開いた。
「もしかして寝言の奴かな?」
「はい、そうです」
「じゃあ私も分からないよ。それ多分昔からだろう?」
「はい、ダンテ様が熟睡なされていることに限って『むにゃむにゃ……むにゃらもね』と言う事が多く」
「意味は特にないから気にしなくてもいいよそれは」
「わかりました」
フィレンツォの言ってる「むにゃらもね」という単語。
実は前世から熟睡時に言う寝言、みたいな物で特に意味はないのだ。
なので、そう答えるしかない。
「――では食事にいたしましょうか」
「両脇に、クレメンテ殿下とエリアがいる状態で?」
私は意地悪気に、二人を指さしながらフィレンツォに言う。
「失礼。御二人には悪いですが、起きていただきましょう」
「じゃあ、私が起こすよ。少しだけ部屋を出てくれないかな?」
「かしこまりました」
フィレンツォが一旦部屋を出ると、私は二人を揺すって声をかける。
「エリア、クレメンテ。すみません、起きてください。」
少し揺すり声をかけると、二人はゆっくりと目を開けてそして身じろいでから体を起こした。
「ごきげんよう、クレメンテ、エリア。よく眠れましたか?」
そうやって声をかければ、クレメンテは平然としているが、エリアが一気に眠気がふっとんだのか慌ててベッドから転げ落ちそうになった。
「危ないですよ」
私は手を伸ばし、エリアの体を抱きかかえ支える。
「す、すみません」
「いいんですよ。ところでどうして二人が傍にいたんですか?」
「えっとその……」
「貴方の傍で横になって顔を見てたら、いつの間にか眠ってしまいました。すみません」
言いづらそうにするエリアに変わってクレメンテが言う。
「まぁ、構いませんよ……あいでで」
ずきずきと頭が痛み出してきた。
「ダンテ、様。大丈夫――」
エリアの言葉を最後まで聞く前の意識は暗転した。
何かを「私」が書いている。
以前見たあれかこれは。
じゃあこれは私じゃない。
『――四体の守護者、インヴェルノ、プリマヴェーラ、エステータ、アウトゥンノ。各国の守護者の作りし「守り」が手に入ったのか』
サロモネ王の発言だ、おそらく私へ向けてだ。
『最後の一つは、この都市メーゼを意味するもの。だが、今はまだ手に入らない』
――え?!――
――まだあるの?!――
サロモネ王の発言に戸惑いを隠せない。
『赦したまえ、救いたまえ、彼らを、我らを、どうか――』
『赦したまえ――』
「――ダンテ様!!」
フィレンツォの声に私は目を覚ます。
夢は途中で終わったという感じではないが、フィレンツォの声で目覚めたのは確かな気がする。
「……ああ、すまない。ちょっと前のと同じことが起きた」
私は体を起こしながら、額に手を当てて息を吐く。
「それは、サロモネ王に関する?」
「ああ……だからこそ疑問があるんだ」
「何がです?」
私は幼い頃は気にしなかったことを、フィレンツォに問いかける。
「王家に伝わる封印魔術、あれ何故呪文に『赦したまえ、救いたまえ』の一文が入っているんだ?」
私の問いかけに、フィレンツォは申し訳なさそうに首をふった。
「私には分かりません、すみません」
「……いや、気にしないでくれ」
私はベッドから下りようとすると、フィレンツォに再度ベッドに寝かせられた。
「無理はなさらないでください」
「……わかった」
私は疲れたように息をして、天井を見上げた。
「では少しお茶でも――」
フィレンツォがそう言って扉に手をかけて開けると――
どたんばたん!
「「……」」
扉の向こうでずっとスタンバってたせいか、クレメンテ、アルバート、カルミネ、エリアの四人がだるま落としみたいに重なっていた。
「……何をしているんですか?」
私は呆れて四人に言う。
「その、ダンテ殿下が心配で……って重い!!」
「好きだっていう紅葉茶とレモナの茶をもらってきたので分けようと……う゛ーカルミネ重いんだが!」
「すみません一応お止めしたのですがその、はい、分かっております退きますのでエリア様、どいてくださいませんか? 軽すぎるからエリア様が怪我をしかねないのです」
「あわわ、すみません、すみません……!!」
四人とも私の事を心配してくれたのは嬉しいが、体力的に二番目に低いクレメンテが一番下はきつかっただろうなとちょっと同情した。
「……フィレンツォ、どうしました?」
「いいえ、何も」
フィレンツォが若干私を呆れたような目で見たような気がしたが、私が問いかけるとすぐいつも通りに戻った。
――聞きたいけど、私は聞かない方がいいんだろうなぁ――
『正解だ、そのままでいろ』
神様に言われたなら仕方ないので聞かない事に決めた。
いつものように『戻った』後、少しは体を動かしたいと何とかフィレンツォに言って居間に集まり、四人とゆっくりとお茶と菓子を楽しんだ。
何故か知らない間に、四人が仲良くなっているのが意外だった。
――ハーレムルートってこういう感じなのかな?――
――もっとギスギスした感じをイメージしてたけど――
『そうじゃない理由はおいおい分かる、ので気にするな』
――またですか――
神様の気にするな=深く突っ込んだらほぼ死亡フラグ発言にげんなりするが、守る事はする。
自分から地獄の沼地に突っ込むような縛りプレイが好きな存在ではないので、私はできれば自分なりに楽な道を歩きたい。
無論苦労もするけれども、それでも自分でできる精一杯をやりたい。
なのでそれをあえて制限するなどごめんだ。
縛りプレイが好きなユーザーには悪いけれども。
穏やかに話すことができて、かなり楽しかった。
初日あの後ベネデットが荒れに荒れていたらしいが、婚約者の名前をアルバートがぽろりと出したら激昂した直後留飲を下げたのかとぼとぼと自分の寮室へと戻っていった。
ベネデットの婚約者であるロザリア・オルテンシアについても聞くことができた。
人格者だが、ベネデットを尻に敷くというタイプではなく、どちらかと言うと良い面も悪い面も理解した上で、より人間として成長して欲しい、そして一緒に歩んでいきたいという婚約者らしい。
ベネデットの良い面何て、あるかと思ったが私の時は悪い面しか見せてないだけな気がした。
――どうして悪い面ばかり際立つのかな?――
一人そんなことを考えた。