とにかく身体が軽い、そしてよく見える。
水樹が思ったのはそんな事。
静流と赤猿の動きがほぼ見えていなかった少し前が嘘のようだった。
何よりも身体が思った通りの動きをする。イメージと遜色ない――それこそアニメで見るようなキャラクターの動きができてしまう。
腕力も、脚力も、跳躍力も、その全てが超人染みたものへとなっていた。
「動きに粗は目立つが、悪くかねぇ。だが、足りねぇ」
赤猿は水樹の振り下ろす斬撃の全てを弾き、躱しながら言う。
辛うじて勝負になりはしているが、水樹自身が直接的な一撃を与えられてはいない。
多少ある赤猿の傷は静流によって付けられたものであり、何とか気を引き付けて静流に一撃を打ち込んでもらう状況だ。
「連携は及第点――つーか、手前ら息が合い過ぎだ。さっきまで戦闘素人だった奴が、連携攻撃を言葉交えずにやるったあイカレてんぜ?」
それは水樹も薄々感じていた事。
水樹は連携といったところまでの思考を回すほどの余裕は残念がらない。
そうなれば連携の全てを静流が水樹に合わせているに他ならない。
「イカレてはいませんよ? 番ですので、当然の結果です」
「なーるほど、そいつはスゲェな!」
静流の攻撃を避ける為に、赤猿が後方へと飛び退く。
水樹は波斬を構えたまま、呼吸を整える。
水樹の運動不足の身体がここまで動いてしまう力――神力。仮に十全にこの力を操る事ができれば、世界が変わるだろう。
勿論、強力な力にはそれ相応の責任が伴う。それを水樹は自身を戒めなければならない。
雨と火焔と火の粉と湿度によって現実から掛け離れた状況である公園。
静流と赤猿がお互いに神力を高め合っている中――パキっとビンに亀裂が入るような音が響き渡った。
「……時間切れだ。結界が絶えれそうにねぇ」
赤猿が神力開放状態を解いて告げた。
静流も渋々ながら放っていた神力を納める。
「え? ええ?」
突然の戦闘終了に水樹は間の抜けた声を上げる。
「ま、最低限の事は知れたから良しとすっか。いやあ、初めこそ坊主だけぶち殺してやろうかと思ったが、思いのほか嬢ちゃんが粘るからよ、そこまでして番になりてぇ野郎を知りたくなっちまった。結果としてはぼちぼちだが、今後の成長に期待ってヤツだな」
「実に迷惑です。貴方のせいでわたしのデートは散々なんですが?」
「おいおい、お陰様で坊主と嬢ちゃんの熱い
「……俺としてはそんな物騒なデートは勘弁してほしいんだが?」
「かー、これだから人間はダメなんだ。進化とは闘争の果てに存在するんだぜ?」
「これだから戦闘狂いは……」
なんだろう――と、水樹は言葉にできない微妙な表情を浮かべる。
先ほどまで刃を交え合っていた筈なのに、この緩い空気感はなんなのだろうか?
「水樹の考えている事は概ね理解できますが、神の戦後なんてこんなものですよ」
「……ええ?」
神は気まぐれ――なんて言葉があるが、今回もそんな言葉に相応しいものと言っても良いかも知れない。
水樹としては気まぐれで襲撃されて、気まぐれで戦闘終了し、気まぐれで仲良くされても困惑以外の感情が出てこない。
「あっはは、これで坊主とはマブダチだぜ? 次も楽しみにしてるぜ。そんじゃ、俺はフラフラどっか行くわ。ま、嬢ちゃんとは仲良くな」
そう言い残すや否や、赤猿が空へと向かって飛び去って行った。
「…………結局、なんだったんだ?」
釈然としない水樹の顔は実に間の抜けたものだった。