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第3章3 『橋の上の邂逅』

 水樹はジョイ◯ルで各々の口撃を回避しながらそれなりの時間を過ごしつつ、ようやく解散となったのは18時手前だった。

 自転車に跨り、ペダルをえっちらおっちらと踏み込みながら帰路を進んでいた。

 夏休みが明けたとは言え、まだまだ残暑は厳しい。全身に汗を滲ませながら、道中の橋の真ん中で水樹は立ち止まって一息吐いた。

 橋の下を流れるのは一級河川である遠賀川。嘗ては炭鉱で栄えた街という事もあり、川が黒く染まったとかいう話が有ったり無かったりする。また、河童に関する伝説が多い事でも有名だ。

 自転車から降りて水樹は橋の下を覗き込む。

 神様と遭遇したのだから、実は河童もいるんじゃないかと思ったりしていたからだ。


「……居たら面白いんだけどな」


 仮に遭遇したら尻子玉を抜かれないようにしないとな――と漠然と考えていた時だった。


「ふむ、仮に河童がいたとしたならば、それはこの街に神秘が滞留している事の証明だ。まあ、ボクたち神が顕現しているのだから神秘はまだ霧散していない。それは実に喜ばしい事だ」


 隣から聞こえた男の声に、水樹はギョッとして顔を向ける。

 そこには明らかに和服を身に纏った胡散臭い塩顔のイケメンが立っていた。


「……そちら様ですかね?」


「実につまらない質問だね、人間。わかっていて聞いているのなら愚問にも程があるね」


 その言葉に水樹は眉を顰めながら、警戒を強める。

 発言から神である事は瞬時に理解できている。問題はこの男がどういった立ち位置の神なのかが問題だ。


「ふむ、警戒しているのかな? 心配しなくても直ぐに荒事を起こす気はないさ」


「……直ぐにって事はその内に起こす気でもあるのか?」


「さあ? それは君の返答次第としようじゃないか」


 男は気持ちの悪い笑みを浮かべて答える。

 嫌な悪寒を覚える水樹。


「人間である君が神の領域に足を踏み入れる事があってはならない。どういった経緯で神力を手にしたかは知らないが、あまり調子に乗られても困るからね」


「…………」


「そう睨むなよ。今回は挨拶さ。だけど――次はどうなるかはわからないけどね?」


 カランという音と共に男の姿は消えていた。

 嫌な汗と喉の渇きを感じながら、水樹は「ほお」と一息吐いた。


「嫌な予感しかしない。あの蛇みたいな感じは……」


 蛇のような視線と気持ち悪さがあの男――神にはあった。

 これから起こるかも知れない騒乱を想像しながら水樹は身震いする。

 まずは家に帰ったら静流と相談する必要があるだろう。ついでに赤猿も巻き込んで、少なくとも家族に被害を被らないように手はずを整える必要もあるかも知れない。


「なりふり構わずに周囲すらも巻き込んできそうだよなぁ……」


 薄暗くなりつつある夕焼けを眺めながら水樹は目を細める。

 そして、右手でグッと拳を作って、左手の掌に打ち付けた。


「やれるべき事をやるしかないか」


 水樹はそう呟くのだった。

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