金の粒子となってチリとララが笑顔で消えていく様子を目の当たりにした時は、2人が幸せそうでよかったと思うと同時に、どうしようもない失望感で心臓が押しつぶされて呼吸が苦しくなるほど私は泣きじゃくった。それを見て貫が抱きしめてくれたけど、人間となった貫は妖怪の時には見せなかった透明な涙を流して私と同じ感情を持ってその場に一緒になって崩れていた。
涙でぐしゃぐしゃになった貫を見るのは新鮮で、黒髪黒目の普通の人間だと思うと妙にドキドキした。
暫くはチリとララのことについて引きずってしまうかと思ったけれど、私が行方不明になっていたこと、狐像が突如紛失したこと、鳥居の色が黒から赤色に変わり果ててしまったこと、とあらゆる事件が起きすぎて誰もが混乱していて何から私に聞けばいいかわからないといった様子で、篠宮家を落ち着かせるために悲しんでいる暇はなかった。
もっとちゃんと追悼したかったけど、貫が「いつかオレたちの元に本当の子どもになって来る」という言葉を信じて、別れの悲しみをするのではなく、いつ会えるか楽しみにすることにした。
篠宮家に関しては、やっぱり貫は人間になったといってもこれまでの妖怪であった頃の経験というものがあったからか、口八丁で上手く篠宮家を丸め込んで婿養子に入り、常に私と共に神社を切り盛りする良き旦那として葛葉神社のためにずっと動いてくれていた。少し妖怪の頃の名残があるのか、私のように糸は見えるらしいし、体力は並の人よりあった。ただ、糸を操ったり幻術を使ったりなどの類は一切できなくなっていたことは、かなり悔やんでいた。
それでも、貫にとって人間になってよかったのは金の指輪による言霊封じができなくなったことだ。
おすわり、伏せ、ハウス、待て、とか色々試してみたけど、人間である貫には何の効力もなさなかった。私は一瞬自分からも巫女術が消えてしまったんじゃないだろうかと焦ったけど、糸はいつも通り操れるし、むしろその色がいつどういったものに変わるのかというちょっと先の未来が見えるという技まで身に着けていた。
ちなみに、おいで、はもう二度とやらないことにした。
私が夜にひどい目に合うからだ。
これに関しては……刺激が強くて思い出すのも恥ずかしいから省略します、うん。
言霊が使えないとなれば貫を縛るものは何もない。だから貫を野放しにすることになることが不安だったけれど、人間であれば変な幻術をして神社に来た人を困らせたりすることはなかったし、むしろくじ屋に立って売り上げを伸ばしていた。年に数回あるお祭りを葛葉神社で行った時も、“葛葉饅頭”と葛葉神社にあった双子の狐像が描かれた饅頭を上手く売りさばいていた。長年生きてきただけあって知識が豊富な貫は、お年寄りからも人気だし、何だかんだ元々お喋り好きなところもあるからか、老若男女問わず大人気の篠宮家の婿入り美男子として名を馳せていた。
ただ、やっぱり根っこの性格というものは変わらない。
貫は若い女性にちやほやされると調子にのった。
言霊で罰することができないから、そういう時は長時間正座させた。
足を痺れさせた時に呻いているのを見下ろすのは楽しかったけど、最近は正座に慣れてきたからまた違う罰を覚えなきゃいけないなぁと考えているところ。
とはいっても、また順応しちゃうんだろうけどね。
けど、もうそんな心配はしていない。
何て言ったって、彼はもうパパなんだもん。
双子が私のお腹に宿った瞬間、何度か私のお腹が金色に輝いた。
それを見た貫はすぐさま双子だと気づいて知里と楽々と名付けた。
性別がわからない時にそんなことを言うから気が早いと思ったけど、本当に男女の双子が生まれたから私もビックリした。本来女の子には楠の名をつけなきゃいけないけど、貫がこれまたうまい口八丁で篠宮家を言いくるめたから、そういった技術に関して人間の中で貫の右に出るものはいないだろうなぁって思ってる。
ちなみに双子なんだけど、髪や目の色は妖怪時代の貫にそっくりでビックリした。楽々は私に似ていて、知里は貫にそっくりで、すくすくと元気にやんちゃに育って、よく笑って遊ぶ元気な子どもに育った。
本当に生まれ変わりかな?と結構疑っていたのだけれど、2人の大好物がいつしか私がお土産で買った金平糖だったことから、2人は本当に生まれ変わりなんだと実感して私は嬉しかった。
本当のママになれた。
本当の家族になれた。
そして、夫婦ではなく、家族でも運命として繋がっていれば家族同士で金色の糸で結ばれるという新しいことも知った。
「「ママー!!」」
「楠葉―!」
双子の知里と楽々が私を呼んでる。
双子を両腕に抱えた貫が笑顔で私を呼んでる。
「はーい!今行くねー!」
「転ばないように気を付けろよー!」
「「きをつけろー!」」
貫の言葉を真似る双子に私は笑いながら、出来るだけ慎重に家族の元へ向かう。
膨らんできたお腹を撫でながら。
そう、私たち家族にはもう1人家族が増える。
その子の名前は女の子と分かった時から決まっている。
楠の名前を授けていいか聞いた時に貫は渋い顔をしていたけど、私がどんな名前を付けたいか伝えたら、物凄く驚いてから腹を抱えて爆笑して「決定!」と喜んでくれた。
だから、もう決めている。
この子が生まれたら、楠子、て名付けるって。
楠子
貴女には素敵なパパと、素敵なお兄ちゃんお姉ちゃんがいるよ。
限られた寿命の中で、いっぱい遊んで笑って、人生を楽しもうね。
私は願いを込めて、金色の糸が絡んだ方の手でお腹を大事に撫でた。
fin