『ただいま電話に出ることができません。ご用件を録音される方は、ピーという発信音のあとにお話しくださ――』
「――はあはあ。……も、もしもし祝馬だけど。なんだよ聖奈」
「出るの遅いわね、非常時なのに。異変への対処は前回の傾向からあたしたちにしかできない可能性があるのよ、用心しておきなさい」
「あのな。おれは車とか持ってねーし、自転車だから移動が楽じゃねーんだよ! おまけにあちこちに異変の産物があるわけで。あと、あの白と黒の靄みたいなのなに? さわった人消えてたぞ」
「ええ、前回はなかった特徴ね。こっちも、二階のあたしの部屋から
「――危ねっ!」
「どうしたの?」
「ちょっと人面犬ひきそうになってな。で用件はなんだ? 走ってるから息持たなくて長いこと対話できないぞ」
「じゃあ手短に。――ジョン・タイターに関してネット検索してみたら、一番上に彼の名前で登録されてるSNSがくるようになってたわ。おそらくこれが正解ね」
「根拠はあんの?」
「例によってあらゆる時刻表示は日本以外のどこかの9月23日に固定されてるけど、そこだけは正常に時が流れてるみたいなのよ。書き込みもできる。
タイターの投稿も今日の午前0時になってたけど、あとのコメントから察するに異変発生の10時間ほど前、日本時間の午前0時頃に記述してる。おそらく、過去に遡って記したのね」
「……ほー。頭こんがらがってきたけど、その心は?」
「異変で時間移動も可能になることを示してるのかも。その大きな意味はタイムパラドックスが起きることだと思う。件のSNSにもそれを解説するネット辞書へのリンクがあったし、もともと最初の大異変をなかったことにした行為が
異変がなければパパは修正ナノパッチを作れず、ヘレナがそれを治めることもなかった。この疑問は当然パパも抱いて話し合ったことがあるけど、現在がある以上受け入れるしかないという結論に達してた。でも――」
「その説明まだ続くの?」
「けっこう」
「じゃ、着いてからにしてくれ。携帯持つために片手放しで超常現象避けてくのはつらい――」
『――わたくしって……キレイ?』
「なに、イワウマ? なんて言ったの、よく聞こえなかったけど」
「――うっせえブス!」
「はあッ!? なんですってェ!!」
「い、いいいや違う聖奈! マスクしたいかにも異変っぽい危なそうな女が、自分が綺麗かどうかなんて質問してきたからよ!」
「それって、ハサミ持って口が裂けてたりしない?」
「ああ、マスクはずしたら口が……なんで知ってんだ? しかも時計塔の殺人鬼みたいな両手で握るサイズのクソでかい血濡れっぽいハサミ持ってて、服までそれで赤く染まったような――ってまさか!」
「口裂け女ね」
「――どわあああああぁー、追いかけてくるゥーー! めちゃめちゃ速ェーーーーッ!!」
「伝説によれば100メートルを6秒くらいで走れるんだっけ。追いつかれないように急げば速く着きそうだし、汗かけば修正ナノパッチも分泌されるからちょうどいいじゃない。がんばりなさい。――ブチッ……ツーツー」
「ちょっ……おま!!」