知覚範囲に局所的異変で別世界を創造。
モデル――南方祝馬宅前公園。日時――日本標準時2015年9月22日17時48分23秒。
あのときの聖奈と同じ位置で、わたしは祝馬と並んでベンチに掛けます。
時間を正常通りに始動。
「……あれ、ここは?」
祝馬、周りを見渡して問い掛け。回答します。
「局所的異変で構築した2015年9月22日のあの夕暮れ、あなたの自宅マンション前にある公園です。ここには、わたしたちしかいません」
「そ、そりゃ見覚えはあるけど。どうして?」
「わたしが宇宙を創生するのが最も合理的との結論に達したためです。聖奈とギュスターヴに酷い喧嘩を続けてほしくありませんし、あらゆる猶予がありませんでした。その前にあなたと少しお話しておきたいのです」
「待てって!」祝馬、わたしの両肩をつかみました。「おれは、おまえを死なせるなんてやだぞ。それに、聖奈を信じてやってほしい!!」
「わたしが友人で、彼女が恋人だからですか」
「……ま、まあ。これからは、そんなところになるのかな」
目線をそらした祝馬。手を放し、照れたように返答。
「……わたしが無意識的に第二次大異変を起こしたのは、おそらくこの日がきっかけです」
暴露します。
「宇宙を創生したあとに人間として観測するには、人になれるように人を理解せねばなりません。あなたたちと同居して学んだわたしは目標に近づきつつありましたが、2015年9月22日までは不完全でした」
「すると」祝馬、疑問。「昨日完全に人間を理解したってことなのか?」
「はい」回答します。「ギュスターヴもあのときは、まだあなたたちと共に宇宙創生の問題を解決しようとしていました。打ち明けて話し合おうとしていたのです。わたしも未完成でしたから、第二次大異変も先のことと想定していたのでしょう。しかしわたしは逆に、この場で学びました。――嫉妬を」
「……どういう、意味だ?」
祝馬、息を呑みました。
「わたしは」告白します。「あなたが、好きです」
「え?」
目を丸くして、祝馬は沈黙。わたしは継続します。
「あなたと聖奈がキスをするのを目撃して、わたしは無意識的に理解していた宇宙の構築という仕事を放棄したくなったのかもしれません。あなたと結ばれることがないと推定したためです。このまま死ぬのは嫌だと。……ギュスターヴは危険でもありますが、わたしの心情を慮っての同情もあって、あの結論に達したのかもしれません」
「……な、なーんだ」
祝馬、引きつった笑顔で提言。
「ならおまえと付き合えば、宇宙創生の問題も先送りできるし世界滅亡への大異変も終わるってことじゃんか。ならさ、おれはまだ聖奈と交際するって決めたわけじゃないんだし、おまえもすごく可愛いし。ラッキーかもしれないなあ、なーんて……ははは」
乾いた笑い。他、あらゆる生体データから嘘である確率は75%以上。
指摘します。
「無理にそんなことを言われても、哀しいだけです」
「……ごめん」祝馬、目を伏せました。「……でも、おまえのことも親友として大好きなのは間違いない。だからさ。ずっと三人で、一緒にあの世界にいたいんだよ!」
あらゆる生体データ、及び局所的異変〝テレパシー〟により測定。真実である確率99%以上。
わたしの瞳から、涙がこぼれてしまいました。
――微笑み、伝達します。
「いいんです。気持ちを伝えられて、よかった」
「いや、待てって!」
――こちらから口付けました。
祝馬、動きを止めます。
警告。白黒の靄による汚染を感知、侵食率36%。
ここも長くは持ちません。
わたしは、ベンチから立ち上がります。
「さようなら」局所的異変〝空中浮揚〟を発動。「わたしの終わりで、世界は始まります。約三年ほどの命でしたが、とても楽しかったです……」
「行くなっ、ヘレナ!」
祝馬、我に返った模様。席を立ち、こちらに腕を伸ばしました。悲痛な表情、泣いています。
充分な高度をとったため、わたしには届きません。
白黒の靄、増殖中。局所的異変空間の侵食率85%。
――宣言します。
「局所的異変。〝タイムトラベル〟、発動」
時空間の歪曲を感知。目標時刻、約140億年前に設定。
局所的異変空間の侵食率、98%。
……移動します。
「ヘレナあぁーーーーーーーーーーッ!!」
どこかで、祝馬の声が聞こえました……。