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日記3

 ……こんなテンションで日記を書けるのが嬉しいね。いや、ある意味哀しいね。



 たぶん、ヘレナの自己犠牲のお蔭だろう。

 第二次大異変もなかったことになり、宇宙はまたもや元に戻った。あの2015年9月23日にね。

 例によって普通に朝目覚めて、聖奈と電話とかで記憶だけ共有してるのを確認し合ってから大学行ったけど、9時過ぎてもなにもなかったんだよ。


 腹立つのは、ギュスターヴ教授が当たり前みたいに講義してたこと。


 聖奈からは、朝から普通に彼も家にいて奥さんとちちくりあってたって聞いてたけど。あんなことやらかしといてしれっと出てくるもんだから、途端におれは椅子からずり落ちましたよ。ええ。

 でもって彼は、例によってなんも憶えてないらしい。

 教授のことだしぶっちゃけ疑わしいが、言動自体違うからしょうがない。けど、大異変が絡むと暴走する傾向が今回はっきりしたんで、おれたちは密かに注意することを確認し合った。ま、二度の大異変のどっちのときでも彼の観察記録は記述がおかしかったし、異変の影響も受けるようだからそれで人格変えられた可能性も聖奈は想定してるけど。

 ……どうにせよ、ヘレナがいなくなったんなら大異変への注意もなにもないわけだが。


 ――いるからね、ヘレナ。


 彼女によれば、宇宙を創生したあと時間は9月23日の午前0時に戻って、やっぱり奥さんと聖奈が寝てるのを確認してギュスターヴがヘレナの部屋に起こしに来たらしい。

 でも、彼が要件を告げる前に生命も宇宙も自分の判断で創造し終えたって打ち明けると、大異変が発生してないことをテレビとかラジオとかネットとかでひと通り調査してから、彼は納得して眠ったんだと。まったく都合のいい思考回路してるよ、あのおっさんは。

 そういやギュスターヴ博士。そのことでいろんな危惧がなくなったからって、最近スケリーフット日本支部に戻ったりもしてたな。CEOは異変が終わってジョン・タイターの記憶もなくなったから未来予測システムの失敗を会見で謝って落ち込んでたけど、彼が復帰したんで大喜びしてるらしい。


 でも、ヘレナは異変を起こす能力もそのまま。

 なんでも人間にはならなかったんだそうだ。まあ、だからタイムトラベルで帰還できたわけだけど。

 肝心の、どうやって宇宙を創生してなんで無事だったかだけど。理由を教えてくれないんだよね、どういうわけか。


 今日もこんなことがあった。

 またまたヘレナが逐一記録してるデータもらったんで、詳しく書いちゃいますよ。悔しいから、ストレス発散と自己満足のために。


 夕刻。

 ちょうどあの9月22日みたいにそれも同じような格好で、聖奈とマンション前の公園でいちゃつこうと一緒に訪れたらだね。先客がいたわけだ。


「おかえりなさい。お待ちしていました」ってね。

「なっ、あんたなに企んで待ってたのよ?」


 そう聖奈が叫んだのも無理はない。迎えたのは、外見上同年代の女子小学生JSたちを引き連れた、AKB風ウェアラブルスーツを来たヘレナだったからだ。


 んで、ヘレナはおれを指差してほざいたわけ。


「なにって、わたしの彼氏じゃないですか?」


 するとJSたちはキャーキャー騒いで、「わーすごーい!」、「ホントに大人と付き合ってるんだ」、「でもそれってロリコンじゃない?」。

 ――などと、好き勝手ぬかすわけYo。


「待てえい!」だからおれはツッコんだね。「ヘレナ、おまえなにこのバカげたご時世にトンデモないこと吹聴してんだよ!」


 って。けど。


「では、お二方は正式に付き合っているのですか?」


 と、反論してくるもんだから参ったね。

 結局、聖奈とはあのときキスしただけで、そのあとなんとなく付き合ってる雰囲気はあったけど、実際のところ互いに男女間の交際だとは特に表明してなかったからだ。


「う、それは……」


 なので言い淀む聖奈。それ見たことかとない胸を張るヘレナ。


「とにかく」聖奈はごまかした。「あんたみたいにころころ世界滅ぼしかねない危険な女と、イワウマみたいなへなちょこが付き合えるもんですか!」


「なにこのとばっちり」


 なる、おれの横槍なんて構わずに、いろいろあって精神的にず太く成長したらしいヘレナは返す。


「上等です。おそらく大異変の心配はもうありませんし、交際すれば、キスやエッチなどで祝馬から修正ナノパッチを注入してもらって局所的異変なら終息できますから」


「エ、エエエエエ……。あんた、女子小学生の面前でなにぬかしてんのよ!」


 うろたえる聖奈も、キャーキャー盛り上がるJSと焦りまくるおれもほったらかして、ヘレナはさらに断言したよ。


「恋人同士ならありうる手段ですし、修正ナノパッチの性質上仕方ないですね。それとも、聖奈はしないのですか?」


「そ、それは」と聖奈。「……付き合ったらするかもよ! ――つーか、あんたは身体が小学生じゃないの!! こっちは大人になるんですからね!」


 もう二人は紅くなってたけど、おれのほうが真紅だったろうね。けどヘレナはやめない。


「頭脳は大人以上です。それにわたしは厳密には人でないので、その種の人間の問題など知ったこっちゃありません」


「そ、それだけじゃあないわ。イワウマはこれでも、ちょっとは胸があったほうが好きなのよ! あたしはいちおう膨らんでるけど、あんたは万年ぺちゃぱいじゃないの!」


「どういうキャラだよおれ」というこちらのツッコみなんぞ案の定スルーで、ヘレナはとどめを刺したよ。


「そ、そうなのですか。てっきり、真性のロリコンと疑っていました。……でしたら、局所的異変で巨乳化するまで!」


「そんなの偽物でしょうが、この偽乳ロボ!」と聖奈。

「ならば、祝馬にここで決めてもらいましょう! あなたとわたし、どちらがいいか」とヘレナ。

「か、勘弁してくれー!!」とおれ。


 そこからはなぜか、どちらを選択するのかという聖奈とヘレナの尋問から逃亡する追いかけっこが開始されましたとさ。

 いやあ、女子小学生は爆笑して見物してましたけど。公園も出て町内一周までするはめになったんで、市民の多数にも白い眼差しで射抜かれたんですけどね。


 ……あれ、なに書いてたんだっけ。

 ああ。このあとに、あの日ヘレナが宇宙創生したことについての話題があったんだった。

 トンデモなかったからつい、ずいぶん遡って回想しちまったよ。

 もう疲れたからいいや。


 なんだかんだで、局所的異変と超絶頭脳を駆使して連係プレーで仲良さそうにおれを束縛しようとするヘレナと聖奈は幸せそうだったよ。

 おれとしては、それでめでたしめでたしだから。

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