◆
「会議は30分後だ。それまで自由に過ごしてくれていい」
大森はそう告げると、その場を立ち去った。
三崎は周囲を見回しす。
様々な姿のモンスターが、そこかしこに佇んでいた。
「すごいな……これだけいれば」
三崎が小さく呟いた。
多種多様なモンスターが一堂に会している様は圧巻だった。
同時に覚醒者たちの姿も目に入る。
三崎と同じく10代の少年少女が多い。
「あれ、あんたらも覚醒者?」
背の高い少年が声をかけてきた。
黒髪をツンと立てており、その肩には不気味な形相の人形が乗っていた。
「ああ、そうだけど」
三崎は淡々と答える。
「へえ、どんなの召喚できんの? こう見えても俺のモンスターは凄いんだぜ」
少年は肩の人形を指差す。
──『レア度3/返報のヘイト・ドール/レベル1』
とある。
光沢のある木製の人形は、まるで生きているかのように目を光らせていた。
「僕はゴブリン、妹はアーマード・ベアだよ」
三崎の言葉に、少年は目を細めた。
「ゴブリンか。弱そうだな」
「強いよ」
三崎は感情を表に出さず、事実だけを述べた。
少年は鼻で笑うと、「へえ」と言っただけで立ち去っていった。
麗奈はその様子を見ていたが、特に興味を示さなかった。
彼女の関心は別のところにあった。
「お兄ちゃん、あれ」
視線の先には、澄んだ水色の光球を掌に乗せている少女がいた。
──『レア度2/揺らめく幻灯のルミナス・ソウル/レベル1』
少女はこちらを見ると、小さく頭を下げた。
「初めまして。神代 沙理です」
静かな声だが、腹が据わっているというかこういう状況にも全く動じていないように見える。
「三崎です。こっちは妹の麗奈」
「はじめまして」
麗奈も短く返した。
「どうも。綺麗だね、そのモンスター」
沙理と名乗った少女は少し表情を和らげて答える。
「結構頼りになるんです」
──幻灯、とあるから多分相手を惑わしたりするんだろうな
そう三崎が当たりを付けていると、別の声が割り込んできた。
「おいおい、そこの」
がさつな女の声だった。
振り向くと、がっしりとした体格の女が立っていた。
彼女の脇には岩人形としか形容できない何かが立っている。
2m近くはあるだろうか、いかにも頑強そうだ。
「砕骨の石魔ブレイカー・ロック。レア度4よ。あんたらはコイツをみてどう思う?」
女は誇らしげに胸を張る。
「とても──強そうですけど」
三崎が答えると、女は満足げに頷き立ち去っていった。
「なんだったんだろう」
三崎の言葉に、沙理は黙って目を伏せた。
「ここは結構変わった人が多くて──」
いわゆる“ユニーク”な者が多いらしい。
「変な人が覚醒者に選ばれやすいのかな」
麗奈がそういうと、沙理は苦笑しながら「そうかもしれないですね」などという。
「それって僕も変ってこと?」
三崎がいうと、麗奈はなぜか誇らしげに頷いた。
「お兄ちゃんは良い意味で変だから」
良い意味でってなんだよと思いながら、改めて沙理を見る。
奇妙な視線を感じたのだ。
「……えっと、どうしたんですか?」
三崎が尋ねると、沙理は慌てたように「いえ」と首を振る。
「うらやましいなとおもって。私にも兄がいたんですけど、ここへは来れなかったので……」
沙理の様子はいかにも重苦しく、彼女の兄に何かあったのかと思う三崎だが、それ以上の追及はしなかった。
◆
沙理と別れ、三崎たちは他の覚醒者たちを観察した。
熱心に自衛隊員と作戦を話し合っている男子学生。
一人で黙々と持ち物を点検する若い女。
不安そうな表情で仲間と固まっている中学生らしき少年少女たち。
皆、それぞれの思いを抱えているようだった。
麗奈が足を止めた。
「あれ……」
彼女の視線の先には、緑色の蔦のような形状のモンスターを従えた少年がいた。
「雨林の蔓蛇バインド・スネーク……か」
三崎が呟く。
そう、蛇だ。
三崎は山本を思い出す。
陽気で一種のムード・メイカーでもあった山本は、三崎の前で死んだ。
それもただの死に方じゃない。
それを考えると、三崎は腹の奥に言い知れぬ怒りを覚える。
こんな事態を引き起こした誰か、あるいは何かにどろりとした灼熱の怒りを覚えるのだ。
「……仇、討とうね」
麗奈が三崎の内心を察したかのように言うと、三崎は自身の精神が平衡を崩しつつあることを自覚して、まるで心を冷却するように一瞬大きく息を吐いて言う。
「うん、絶対に討つ」
・
・
・
覚醒者たちの気質は一様ではない。
中には互いに反発し合う者もいれば、初対面ながら打ち解ける者もいる。
三崎は静かにそれを見つめていた。
「30分経ったね」
麗奈が言うと、タイミングを見計らったかの様に大森が姿を現した。
「皆さん、会議を始めます。こちらへ」
大きな声が響き、覚醒者たちはざわめきながら大森へとついていく。