列車が止まったので降りると、巨大な木が見えた。
ここがユグドラ大陸という自然豊かなフィールドの多いエリアである。
エルフのNPCも多いので、エルフプレイヤーも数多く集まっていた。
「さて、アインはいつもの場所だな」
俺はユージンを操作して、停車場から街に出て遠くに見える世界樹を目指す。
しばらく走っていくと街から少し離れた場所にある小高い丘の公園のような場所へたどり着いた。
彫刻の施された白い石造りの門には鐘がついていて、結婚などのお祝いで鳴らすのが通例となっている。
この公園はバレンタインやジューンブライド時期にはカップルが数多く集まり、何度爆破してやろうかと思ったことか数えたくなかった。
「さて、アインは……」
俺はまばらに人がいる公園の中で、ベンチに座っているアインを見つける。
〈ユージン〉『アイン、待たせた』
〈アイン〉『お兄ちゃん、お久しぶりだね。元気してる? 最近連絡もあまりなかったから心配だったんだよ?』
〈ユージン〉『新しい仕事がちょっとな……』
〈アイン〉『無理はしないでね? お兄ちゃんが倒れたら、みんなに迷惑かかっちゃうっ』
〈ユージン〉『アインは優しいなぁ……その優しさが心に染みるぜ。チャットもいいけど、何かクエストとかで必要なものとかあるか? 土日もあるから手伝うぞ?』
〈アイン〉『今日はゆっくりお話できたらと思っていたし、お兄ちゃんもお疲れだと思うから、明日からで大丈夫だよっ』
〈ユージン〉『アインがそういうならいいけどな。仕事の話はできないけどなぁ、見れてない今季のアニメとかも土日とかに消化したいんだけど、オススメある?』
〈アイン〉『そうだね~。私がチェックしているのだと~不滅の剣かな?』
〈ユージン〉『異世界ファンタジー系だったな。ファンタジー系好きだから俺もハマれそう。配信してたらこの土日で見てみよう』
〈アイン〉『お兄ちゃんなら、絶対気に入ると思うよ』
〈ユージン〉『アインは俺のこと本当によくわかってくれるなぁ……泣いちゃいそうだ』
〈アイン〉『お兄ちゃん、泣くならよしよしヾ(・ω・`) してあげたいけど、ゲームじゃできないから、気持ちだけね♪』
アインとのチャットは楽しい。
忙しかった会社でのこともあって、なおさら楽しい気持ちで満たされてくる。
そんな風にアインと楽しくチャットしていたと思っていたら、俺はいつの間にか寝てしまっていた。
■自室
「やっべっ!? アインに申し訳ないことをしたなぁ……」
翌朝、キーボードの上にうつ伏せになって寝ていたのに気づき、起き上がる。
〈ユージン〉『くぁwせdrftgyふじこlpppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppp』
画面ではユージンが狂気にまみれたことを発言していた。
寝落ちなんて、いつぶりだろうか……よっぽど仕事の疲れが来ていたんだなというのを思うと共に、アインへのお詫びに何かしなくちゃいけないとも思う。
「あ、メッセージ来てる」
俺は画面を操作してメッセージを確認すると、思わず吹き出してしまう。
〈アイン〉『お兄ちゃんお疲れだったようなので、今日はゆっくり寝てね? いい? 寝るのも大事なことだよ~?』
先手を打たれて止められたので、俺は苦笑をするしかなかった。
アインは俺のことを本当によくわかってくれていて、兄弟のいない俺にとって本当の妹のような存在である。
「じゃあ……ベッドでまずは寝直すかな。あとは起きた時間でそれからのことを考える」
そう俺が思っていると、電話が鳴った。
着信履歴を見ると、発信先は派遣会社のマネージャーの坂本さんである。
『もしもし、近藤君?』
「はい、近藤です……土曜の朝からどうしたんですか?」
『お休みのところごめんね? 派遣してから1週間たったから、確認のためにね。大丈夫そう?』
「はい……忙しくて疲れ気味ですが、何とかやっていけると思います」
電話口から聞こえてくる坂本さんの優しい声で俺は眠気がぶりかえしてきた。
「すみません、ちょっと眠くて……二度寝したいです」
『ふふふ、休日に寝てばかりなのは健全な男の子として心配だけど、働き始めは仕方ないよね。何かあったら私にいうんだよ?』
アインだけでなく、坂本さんにも心配される俺ってどうなんだと思わなくもない。
だが、それよりもかなり眠かった。
「はい、気を付けます。それじゃあ……ふわぁ」
『わかった。気が抜けているのもわかるけど、君はもう少し社会人としてのマナーを覚えたほうがいいよ』
坂本さんの注意を頭の片隅に置いておきながら、ベッドへダイブする。
そのまま二度寝して、起きたら夕方だったけど、仕方ないよ、な?