「流石の活躍でした」
「こちらもいろいろと、元支部長から話を聴きましたよ」
「何をですか」
「いえ、いろいろとです」
事後処理を終えた和昌は、いつもの密室で受付嬢と対面している。
「これからどうなるんですか?」
「支部長の座に新しい人が任命される、ぐらいですかね」
「え」
「当然、事件の被害者に対して保証はしますよ。信用問題にかかわりますから」
「ですよね」
驚くほどスムーズに事が運んでしまうのが、恐ろしくもあり頼りがいがある。
しかし、気になる事はまだある。
「リストは、まだ継続されるんですよね?」
「はい。そちらの装備を所有している限り、リストから除名されることはありません」
「ですよねー」
「そういえば伝え忘れていたのですが、一度リストに名前が載った人間は装備を手放して名前が消えたとしても、該当の事件が発生した場合は呼び出しされます」
「はい?」
「まあ仕方がないことでしょう。秘匿すべき情報を知っている人間が、おいそれと野放しにされるはずがありません」
「そう言われると、何も言い返せないですね」
和昌の報告書を読み終え、受付嬢は視線を
「それにしても、結果がわかっていても信じられませんね」
「当事者である俺も、全くの同意見です。でも、ヒントをくれたのは受付嬢ですよ――あれ、そういえばお名前って」
「今はいいですよ、受付嬢で。どうせ――いえ、なんでもありません」
「あ、はい」
「映像を観させてもらいましたけど、この威力でナイフだけを消滅させるなんて、普通に考えたら不可能ですよ。というか、これをやろうと思った勇気も凄いですよ」
「ははは……俺もそう思います。そしてごめんなさい。前もって忠告をしてもらっていたのに、『覚悟』はできませんでした。でも、受付嬢の言葉とこいつを信じてみようって思ったんです」
「もしかして、もしもの事があったら責任転換をするつもりだったんですか?」
受付嬢から、ジト目で冷たい目線が送られる。
「そんなんじゃないですよ。貰ったヒントに心当たりがありすぎて。もしかしたらその通りなんじゃないかなって、そう思ったんです」
「だとしても大胆といいますか、ド派手といいますか。『覚悟』ができていない人間がとる行動ではないですよね」
「何も言い返せません」
左手を頭の後ろに、ペコペコと頭を下げる和昌。
「まあでも、前もってテストしていたのが功を奏しましたね」
「それも大きかったと思います。あのおかげでいろいろなことを知ることができたので」
建造物などを破壊しない、という情報は、あの時は一番有用な情報であった。
「そういえば、配信活動の方はどんな感じなんですか」
「探索者歴=配信者歴みたいなもんですから、10日ぐらいなんですよね」
「ではまだ始めたばかりということなんですね」
「そうなんです。でもありがたいことに、チャンネル登録者数が500人を突破しました」
「凄いじゃないですか」
「これも全て装備のおかげですから。調子に乗らないで精進します」
「目先の手柄に囚われず、ですね」
「ですね」
今回の事件を引き起こした支部長の目的や理由は、全て金のためだった。
自分の立場を悪用し、自分より弱い人間を襲うという卑劣な手口で。
「でも俺は大丈夫ですよ」
清々しく胸を張る和昌。
「みんながいますから」
「ふふ、そうですか」
「あれ今、笑いました?」
「いいえ? そんなことよりも、皆さんがお待ちになっているのでは?」
「ああ、そうでした」
既に時刻は13時を過ぎていた。
空腹音が鳴り、みんなの顔が思い浮かんでくる。
「そろそろ戻らないと怒られそうです」
「ではまた、何かありましたら連絡させていただきます。滅多にないと思いますが」
「そうであってほしいと切実に願っています」
「それでは、良き探索配信者としての生活を送ってください」
「ありがとうございます。では、お先に失礼します」
和昌は深々と一礼し、部屋を後にした。
「みんなお待たせ」
「おっかえり~」
「おかえり」
「おかー」
出入り口から外へ出てすぐ、真綾・天乃・芹那の姿が。
「それにしても驚いたよ。連絡を貰って駆けつけたのはいいものの、全部終わった後だったし」
「ホントそれ。でも真綾の治療もすぐに終わったし、こっちとしては呆気ない感じなんだけど」
「まあまあいいじゃなーいっ。結果的に誰も怪我してないんだし~」
真綾は大袈裟に腕を回してみせたり、「ほらっほらっ」と言いながらぴょんぴょんと飛んでみせたりしている。
「そんなこんなの話は、ご飯を食べながらにしようぜ」
「だねだね~」
「賛成」
「同じくさんせーい」
一行は、スマホで飲食店を探しながら歩き出す。
一度は全てを失った和昌であったが、とんでもレア装備を手に入れ、新しい仲間達とパーティを組むことになり、常に不安を抱えつつもひたすらにこの数日を駆け抜けた。
紆余曲折あり、まさかの自分が当事者となる事件にも巻き込まれてしまったが……それも解決。
(これから始まる探索配信者としての生活、結構楽しみだな)
たったの数日で成り上がった和昌は、まだまだ上を目指す。
一躍時の人として消えるのか、このままかけ続けられるかは今後の活躍次第。
(みんなとなら、きっと大丈夫だろう)
「あ」
「ん?」
「今月の家賃、ギリギリ払えないかもしれない」
「あちゃー、じゃあご飯が終わったらダンジョンに行かないとね」
「とほほ……」
しかし残念ながら、まだまだギリギリの生活は続きそうだ。