目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第66話・日常へ


「ただいまー、帰ったぞ」


火曜日の昼過ぎ、東京から帰ってきた俺は玄関を開けると、


「お帰り! ミツ」


「お疲れ様だべ」


理奈りなと銀がまず俺を出迎える。


「ん? 詩音しおんは?」


この場にいない野狐やこについて聞くと、


ぬし様のところだよー。

 充電した発電機を届けにいってる」


「あのトレーラーハウス、衛星通信を使えるようにしているだよ。

 そんでTVやネットに主様がハマっているみたいでなあ」


あー……

ウチの人外3人組とは違って、本格的に文明の利器に接するのは

初めてだからなあ。


「TVはともかく、ネットは大丈夫かな。

 ウイルスやフィッシング詐欺に引っかかったりとか」


居間に移り、俺が手荷物をおろしながら近況を聞くと、


「それは僕が子供用のセーフサーチ設定にしてきたから。

 それに3人の内誰かが行く度に確認しているし」


理奈の答えに、俺はン? と首を傾げ、


「確かお前、管理者権限まで乗っ取れるんじゃなかったか?

 あ、それともやっぱり主様の物を支配するのは恐れ多いとか―――」


すると理奈も銀も顔を少し青ざめさせ、


「え~っとぉ、主様は自分のPC触られるのすっごく嫌がるんだよね……」


「すごくいい笑顔で、『履歴ボタンは絶対触るなよ?』って言われた時は、

 少しらしたべ……」


何やってるんだ、主様。


「まあネットやTVはいいとして―――

 他に何してるんだ?

 確か、簡単な料理もやっているとか言ってなかったっけ」


すると今度は2人とも微妙な表情になり、


「山の食材を自分で調達し始めたよー」


「イノシシや鹿が近くの木に吊るされているのを見た時は、

 本気でビビったべ。


 解体もネットとか見て覚えているみたいっぺよ」


何やってるんだ、本当に。

それなりに充実しているようで何よりだけど。


「ミツ様ー! 戻って来たのですね?

 猪肉ししにくのおすそ分けを主様から頂きましたので、今夜

 食べましょう!」


そこで詩音の声が玄関から聞こえ、ようやくいつものメンバーが

揃ったかと実感する。


「あれ? 奥方様は?」


「裕子なら金曜の夜に来るよ。先週は俺が金曜日に東京へ向かったからな」


『島村建設』との一件が終わって以降……

金曜の夜に彼女が来た時は、月曜の朝に一緒に東京へ。

そして俺だけが火曜日にこちらへと戻り、今度は俺が金曜の夜に東京へ向かう

ルーティーンとなっていた。


「そうですか。お仕事はどんな感じです?」


「そうだなあ……それはそうと、お前たち昼食はまだか?」


詩音との受け答えに、理奈と銀は元気よく手を挙げて、


「はーい、まだでーす!!」


「ミツが帰ってくるのはわかっていたから、まだ朝食しか食べて

 いないだべよ」


「まったく……それなら何か作るから、食事がてら話そう」


そこで俺はいったん自室に戻った後、台所で軽く料理をする事にした。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?