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2章…14話

「なんで隠れてたんだよ」



さっきの親子と別れ、ガッチリ手を繋いで、私を引っ張っていく嶽丸。



「ごめん…お兄さんたち怖そうだったし…私みたいな下手が入ったら、怒られそうだったから…」


「だったらそう言えよ。俺は美亜とやりたかったのに」



連れて行かれたのは木の温もり溢れるカフェ。看板にはベーカリーカフェって書いてある。


「どっか行くのも遊ぶのも抱くのも、俺は全部美亜がいい」


席に座った途端、そんなことを言う嶽丸。

妙に…真剣な表情で言われるから、どう返したらいいか、困ってしまう。


「あり…がと…」


迷ってひとこと返してみれば、呆れたように鼻で笑われた。



「この俺にここまで言われて、ありがとうですませるのって…ホントみゃーが初めてなんですけど」



一周回って清々しいわ…と言われて、私だって本当は…と思う。


本当は、すごくドキドキしてる。


全部私としたいとか、初めて言われた。今までお付き合いした人は、仕事ばかりしていて、結婚の話に表情を沈ませる私に、愛想を尽かすのが早かったから。


だから難なく別れることができて、私としては良かったんだけど…。


嶽丸と、こんな風になる未来を予想していなかった。

子供の頃から知ってる子で、困っていたから部屋を貸すことにしただけで、家事が得意だったから家政夫まがいのことを頼んだだけ。


でも…意外と仕事に疲れていることに気付かされ、嶽丸に癒されてしまった。

まさか嶽丸に、あんな包容力があるとは思わなかったから。


それに、あのモデルとしての姿…



「…なに考えてる?」



物思いにふけっていたのがバレて、急に声をかけられてハッとした。



「うん…いや、別に」



…嶽丸は自分でも言うように…すごくすごくモテるんだから、私から離れてあげなくちゃ。


セフレだなんて名前がついちゃったけど、本当はそんなのよくない。

嶽丸には、ちゃんと愛してくれる女の子が必要だ。


全部私がいいなんて…そんなこと言わせちゃ、ダメだ。

…だって、私と一緒にいても幸せにはしてあげられないんだから。



「…パン、好きだろ?」


「…へ?」


「今度、俺特製のパンを焼いてやるから、どのパンが美味しかったか教えて」


「嶽丸パンも焼けるの?…すごい」



ちょっと得意そうな顔。

そんな表情は、初めて会った中学生の嶽丸を思い出させる。

…あの時から端正な顔立ちで、なんて綺麗な男の子なんだろうって、思ってた。




トレーに思い思いのパンを乗せ、席に戻って食べはじめる。


「1位から10位まで発表して」


「10位…?!無理に決まってるじゃん!…少なくとも、パンを10個食べなきゃいけないってことだよ?」


「少しかじったら、俺によこせばいいじゃん」


「…え、食べかけを?」


今まで、恋人という関係なった人とだってそんなことしたことないんですけど。


「俺、基本平気なんだよな。わりと誰の食べかけでもいけると思う」



なんだ。私限定ってわけじゃないのか、って…残念に思うなんてどうかしてる。


思わずガツガツパンを食べてしまえば、喉に詰まるからと心配される始末。



「本音は…みゃーの食べかけが欲しいんだよ」



オレンジが生地に練り込んであるパンを私の手から奪い、嶽丸が食べてしまった。


「…あ、今のおいしかったのに…」


「ん…」


ひとくちかじって返してくれた。


こういうの…間接キスって言うんだよね、なんて心のなかで思いながら、嶽丸の唇が触れたあたりを食べる。


直接のキスをすでに何度もしているのに、妙に嬉しくてドキドキしてしまう…



「…腹いっぱいで、食後の昼寝でもしたいとこだけど、部屋にいたら襲っちゃうからな…」


嶽丸の事情により、午後は室内プールに入ろうと誘われた。


「水着なんて持ってきてないよ?」


「いいから!受付で売ってるよ」


「…?」


さっきからこの場所にやたら詳しい嶽丸。きっと前にも女の子と来たことあるんだろうなと、ちょっとモヤる。


なんで私がモヤモヤしなきゃならないんだと思いながら…



室内プールの受付には、確かに水着を売ってるコーナーがあった。



「みゃーの水着は俺が選ぶ!」


「…えぇっ?嫌な予感しかしないんだけど…」


「大丈夫!絶対似合うの見つけるから!」


なんだか嬉しそうだから任せてみれば、持ってきた水着は予感的中。


「布面積小さすぎ…!」


はい却下…っと突っ返すと、下唇を突き出して私を睨む。


「日本でこんな水着が売ってるなんて信じられない、蛍光ピンクの極小ビキニって…いったいどこに需要があるんだろ?」


「…全日本人男性の憧れ…」


突き出した下唇をムギュっとつまんでやれば、ちょっと嬉しそうに見つめてくるって…あぁ、危険。



「これはジョーク。本当はこっち」


白地にピンクと水色の花柄ビキニ。

ミニスカートもついているタイプを差し出してきた。



「そうそう…こういうのだよ。やればできるじゃん。嶽丸だって!」


「よし。決まりだな!」


「…あのさ。私も嶽丸に水着選んだんだよ?」


「は?俺の?」



嶽丸だって水着絶対持ってきてないはず…と、私がウケを狙って選んだのは…



「じゃーん!超セクシービキニ!」



豹柄のいかにも…!な男性用ビキニを差し出してみれば、嶽丸は意外と真面目な顔で受け取った。



「…なに。こういうのはいてほしいの?」


「え…?」


「いいよ。これで」



私の水着と一緒にレジに持って行こうとするので、慌てて冗談だと奪い返す。


こんなの身につけられたら…目のやり場に困るっ…!



「まぁ…俺のをおさめるには、ちょっと小さいしな」


「…っ?!」



結局嶽丸もシンプルな水着に落ち着いて、それぞれ着替えてプール内で落ち合った。


「空いててラッキー!」


無邪気に笑う嶽丸を見て、どうしてプールなんか入っちゃったのかと後悔…


上半身裸で、水着を腰ではいてて…

シャワーを浴びて髪が少し濡れた姿はヤバい色気。


やだ…私、心臓もつかな…。


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