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番外編.最終回

「…ごめんね。ママ、頑張るから!」


「いやだぁ…パパは?パパくるっていったもん!」


子供たちは3歳になり、幼稚園で初めての運動会という日。


双子の男の子、紫苑が、どうしても嶽丸と親子リレーをしたいと言って聞かない。



「もぅ…しおんワガママだめよ〜!」


女の子、梨央が、紫苑の頭をポカっと殴る。…我慢してた涙が溢れ、大泣きする紫苑…


自分で殴っといて、泣き声につられて梨央まで泣き出して…もう、こうなると双子はてんやわんやだ…!



「ほらほら…!おばあちゃんが美味しいお弁当、後で食べようって!」


今お弁当は関係ないけど、泣き止むならこの際なんでもいいのだ!



「2人ともどうしたの?おばあちゃんのところにおいで…!」


私の両親が双子に手を差し伸べ、梨央だけがその手を取る。


紫苑はまだ、パパ…と言って声を上げて泣いてる。



「紫苑…俺らと一緒に走るか?」


助け船…!

嶽丸の弟2人が来てくれていた!

同じような顔だし2人もいるし、これで何とか手を打ってくれないかと思う私。



「えー…くらまとみかげかぁ…しょうがねぇなぁ…」


さすがっ!

似てるだけに、私より全然効果がある義弟たちに、紫苑を預けようとして…



「…パパだっ!!」



匂いでも嗅ぎ分けたかのように、一緒にいた祖父母を振り切って走る梨央。


そんな梨央を軽々抱き上げながら、嶽丸が悠然と幼稚園の庭園に入ってきた。



「パパ…っ」


蔵馬と深影をかなぐり捨て、紫苑も全力で嶽丸に突進する。


1番美味しいところを持っていく嶽丸。



「…なんだよお前ら、パパはちゃんと来るって言ったろ?…ニセモノで我慢するなよ…?」


子供相手に妖しく微笑む嶽丸。


…その姿を見て、実は私もちょっとキュン。



ニセモノはないだろう…?!と弟たちに小突かれ、ついジッと見つめてしまう私に、嶽丸は当たり前のように近づいて手を伸ばした。



「ただいま、美亜」


チュッと唇に落とされるキス。

…どんなに注目を浴びてようが関係ない。



「…お、おかえりなさい!」


放っておくとキスが止まらないばかりか深くなっていくのは重々承知。


私は一歩後ろへ下がって、子供たちにパパを堪能してもらおう…。



「パパあのね…リレーはおれといっしょにはしるの」


「あと…りおともはしって…」


「いーよ?はじめに紫苑でぇ、次に梨央な?」


余裕で2人を同時に抱っこして、2人の話を笑顔で聞きながら、ふっくらした頬にチュッとキスをする嶽丸。


私は子供たちとのそんな光景を見るのが好きで、そのたびに幸せを噛みしめてる。



「あ…嶽丸スーツで来てるじゃん…」


着替えを持ってこなかったミステイクに気づいて、蔵馬か深影のジャージを脱がせようと、彼らの前に仁王立ちした時…



「紫苑パパ…これ、良かったら着てください」


ママ集団のボスが、いい感じに着た感のあるジャージを手渡している。



「靴も…スニーカーじゃないと、走れませんよね?」


別のママが、事前に調べたな、と思うほどジャストサイズのスニーカーを差し出す。



緊急事態発生!…義弟たちに背を向け、私はママたちと嶽丸の間に入った。


そして差し出されたジャージとスニーカーを受け取り、お礼を言って突っ返した。



「…今日は、スーツで走る嶽丸が見たいな…」


つま先立ちになって、嶽丸の耳元で甘くささやき、仕上げに小首をかしげてニコッと笑う。

嶽丸は「え?」と聞き返すけど、目の奥にハートが灯ってるのはわかる。



「…よしっ。スーツでカッコよく走ってやるから、よく見とけよ!」


嶽丸はノリノリで、子供たちとスタート地点に歩いて行った。



はじめは子供が走り、次に親がバトンを受け取って走るというスタイル。


ほとんどお父さんで構成された選手たちの争いは、毎年かなり白熱したものになるらしい。



「しおーん!パパはここだぞーッ!」


さすがに革靴は蔵馬のスニーカーに履き替え、嶽丸は大きく両手を振って応援しながら、息子からのバトンを受け取った。



…風が巻き起こる…


ビューッて音がするほど、一瞬で私の前を走り去る嶽丸。


「パパーっっ!頑張ってーっ!」


双子ならではの掛け声のハーモニーを耳にして、振り返って手を振る余裕…!


他のお父さんたちを大きく引き離して、嶽丸は堂々の1位を獲得した。



「いやー…運動不足かなぁ、足つりそうになった!」


私の肩に両手を置いて、アキレス腱を伸ばしながら言う嶽丸。


「うそっ!ジムに行って運動してるのに!」


嶽丸は前髪をかきあげながら笑う。


「それは、美亜のために腹筋と胸筋を鍛えてるからだよ」


「え?私のため?」


「そ!割れた腹筋好きだろ?」


もー…と言いながら、その通りなのでさらに頬に熱が集まるのがわかる。




「…休日出勤したから、俺、明日は休みだ」



素早く腰を抱かれたから、その言葉の意味は伝わった。


私も、たまには子供たちに遠慮しないで嶽丸に甘えたい…


「うん…いっぱいイチャイチャしよ?」


「もちろん…今ちょっとだけキスしていい?」


「ダメー…」


熱が集まった頬に口づけ、手の甲に口づける嶽丸の頬に、私からもキス。


そんな私たちを、子供たちが呆けた顔で見ているなんて気づかなかった。




そろそろ、3人目が欲しいかも…。








「私のポチくんと俺のタマ」


 2025.4.22 完



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