「僕達、おんなじ誕生日なんだね」
幼稚園の入園式で、この言葉をきっかけに、
片や、
それ故、
それから2人は、小・中と同じ学校に通い、高校も無事に卒業を迎え、晴れて社会人となったわけである。
これを機に、2人は家を出て1人暮らしをしようと思い立った。
だが、先立つものがない為、暫くアパートの一室をシェアしようと決め、今に至る。
さて、部屋をシェアしてから半月が経った8月。
お互いお盆休みに入ったということもあり、顔を会わせる機会が多くなったある日の午後。
昼食の準備をしていた
「プリンが食べたい」
と、真剣な表情で訴えた。
「何?」
「だから、プリンが食べたい!」
「そんな物、冷蔵庫にはない!」
「え-っ、何で?」
「スーパー特製プリンが売り切れていたから」
「残っていた物があったら、それを買ってくればいいじゃん!」
“また始まった”と内心で呆れながら、不貞腐れて下を向く
しかし、ここで負けたらずっと
想空は自分に言い聞かせ
「お前、この前買ってやった残り物のプリンを、気に食わなくいからって、オレの目の前でゴミ箱に捨てただろう?
食料と
と、目を吊り上げて言い放つ。
「それは……悪かったと思ってる……」
プリン大好き人間にとって今の言葉は、きつかったかもしれない。
しかし、気持ちを踏みにじられた身にとっては、ちゃんと伝えないといけない言葉である。
そうしなければ、これから先2人で生活出来ない日が、確実に訪れることが目に見えていた。
“謝っても許さない”という強い意識で、
「普段でさえ、お前の我儘を聞いてやってるんだから、今日ぐらい我慢しろ!」
と、思わずそう言い放つ。
だが、何も反応がないことに不思議に思った
そこには、涙ぐんだ
その姿は、
このまま放っておけば、更に声を上げて泣いてしまう姿が、容易に想像出来る。
この鬱陶しさをどうにかしなくてはと考えた
「仕方ないな、プリン作ってやるから涙拭け」
溜め息混じりにそう言いながら、近くにあったポケットティッシュを手に取り、
それから
3日前に買ったはずの牛乳が、何処を探しても見つからなかったからだ。
「なぁ、牛乳」
「……ごめん、昨日僕が飲んじゃった」
“夜中に喉が乾いちゃったからつい”と、申し訳なさそうに説明する
それから、無言で
「牛乳がないと、プリンが作れないことは、知っているよな?」
と、まるで幼児に訊ねるかのように、瞳を覗き込んで言った。
この態度が、
この威圧を何とかしなければ、暫く家に帰れないかもしれないと、
「ぼ、僕が今からスーパーにでも行って牛乳を買ってくるから、怒りを治めてくれると嬉しいな……なんて……」
漸く意を決して、仲直りの提案条件を伝えた
目の前の想空ソラの瞳は、まだ吊り上がっているようにも見えて、これ以上は言葉を出せないでいた。
そんな
そうしなければ、一晩中泣きつかれ、大変な目に遭うからだ。
「……スーパーに行かなくても、大丈夫だから」
最近流行りの宅配というやつだ。
電話を切り、不安な
「この辺を片付けながら待っていようぜ」
と、何処か澄ました顔で指示を出した。
こんな時はきっと“あとは成るように成るさ”という言葉が、
宅配業者が着く間、
お互いの会社での出来事から、今なら言える秘密にしていた事まで、時に笑い、時に泣きながら会話を楽しむ二人。
今までの険悪な空気が、嘘のように消えていく部屋に、宅配業者が訪ねてきたのは、三十分程経った頃のことだった。
そこから二人は協力し合い、一つのプリンを完成させる。
そのプリンは、コンビニ等で売っているものの二倍はあろうかという大きさで、焦げ茶色のカラメルソースの香ばしい匂いが、疲れ果てた二人の食欲を誘っていた。
「さっ、食べようぜ」
「うん!」
すると、
「うーん、美味しい!」
「そりゃそうさ、オレが心を込めて作ったプリンだからな」
「ずるい!僕だって頑張ったよ!!」
「そうだった」
怒りで少々赤く染まった頬を膨らました
それから暫くの間二人は無言で食べ続け、プリンはあっという間にお皿から姿を消した。
“美味しかったね”と、満足そうな表情で訊ねる
天井に思いを馳せた顔を向け、何やら考えているようだ。
突然黙ってしまった
「
と、今にも泣きそうな声で、ずっと胸の中に隠していた思いを伝える。
「……考えておく」
「何だよ、人が折角」
「僕だって選ぶ権利はあるよ」
二人は再び小さな喧嘩を繰り広げながら、台所へと向かう。
その光景は、これからの二人の未来を暗示させるかのような、幸せに満ちた姿だった。
お仕舞い