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第71話 1日目の夜

「たく、遅いなぁ……シバのことだし、お隣さんと揉めてなきゃいいけど」


 一方湊音は二人のいちゃつきを知らず部屋で待っている。落ち着くことができず、夜ご飯の準備に取り掛かることにした。


 もともとビーフシチューの予定でシバを泊めることにあたり、普段は一箱は多すぎるので半量である2人前×1.5で作っているが、大食いのシバのことを考えるとそれ以上必要かと考えてしまう湊音。


「まぁ余っても明日の朝も食べればいいか」


 と、一箱まるごと使うことを決めたようだ。


 具材は昼の時に李仁が要領よく切っておいてあったのであとは煮込むだけである。


「ブロッコリーでかさ増しするか」


 ザクザクとブロッコリーを切って皿によけておき、シチュー鍋に具材と水を加えて煮込む。


 と、その時にスマホに着信があった。湊音はエプロンで手を拭いて着信に出る。美守からだった。


「おう、美守。今日もお疲れ」


『うん。今日は李仁さんも来てくれたね。あのさ、ちょっと今いい?』


「いいぞ、どした」


『……あのね』


 最近美守は新しい父親のことを気遣ってか美守と会う回数を減らしているが、電話をするようになった。


 内容はたわいもない話で、学校での出来事や剣道のこと。

 湊音はシチューの火加減を見ながら話を聞いてやる。高校教師をやってたこともあり、聞くのは得意である。


 前よりも美守の話の仕方がうまくなったと心なしか感じるようだ。

 20分ほど話した後、ちょうどシチューも弱火にした。


「じゃあそろそろ」


『……うん』


 すこし名残惜しそうに美守はうなずく。



「また気軽に電話しろ。あとさ」


『なぁに』


「シバ……先生のこと、どう思う?」


 ふと湊音は聞いてみた。


『ん? かっこいいと思う! 好きだよ。どうして聞いたの?』


 即答で帰ってきてびっくりする湊音。子供に人気なのは本当のようである。


「いや、聞いただけ」


 と、バイバイと言って電話を切った。


「にしても二人、本当に遅すぎる……」


 シチューの煮込み時間で気を紛らわそうとしたが美守からの電話が救いだった。


 すると二人が帰ってきた後が玄関先からした。先に台所に来たのは李仁だった。


 彼は袋を持っていた。中からビール、おつまみ、刺身を出してきた。


「シバが奢ってくれた。家に居させてもらうわけだしって」


 しかしそのシバは台所に来ない。


「シバ、トイレだって」


 湊音は李仁からビールを受け取る。その時だった。


「ミナくん、どうした?」


 湊音は李仁を見て少し固まってたが、そう言われてハッとして笑顔になった。


「ううん、洋風に刺身って大丈夫?」


「いいんじゃない? あいつが食べたいって言うから」


「だよねー」


 と冷蔵庫に刺身を入れる。


 湊音は一瞬李仁の服から感じとった匂い……。シバの吸っているタバコと、シバの香水。


「……」



 晩御飯をたらふく食べて3人は満足げ。しかしやたらと湊音は出来るだけ李仁の横にピッタリくっついている気もしないが……。


 片付けも終わりソファーでテレビを見ながらくつろぐ。タバコに火をつけそうになったシバに李仁は


「室内はダメよ」


「そうだった。ベランダ行く」


「ベランダもダメ。禁止になったから」


「まじかよー、また下まで吸いに行くの?」


 めんどくさくなったのかシバはだらんとソファーに腰掛ける。


「さっき車出した時にタバコ吸ってたんだ」


 湊音がそういうと、シバと李仁はドキッとした。


「ほら図星。それに李仁も吸ったんでしょ」


 李仁に詰め寄る湊音。タジタジである。シャツは変えたのだがまだ匂いが残ってたのかと少し自分の体の匂いを嗅ぐ李仁。


「よくわかったわね……ごめん」


 湊音は少し膨れた顔をする。


「シバのタバコの匂いと、香水の匂いがした」


 そういうとさらに李仁とシバは焦る。


「……何度も嗅いだ匂いだからわかるんだもん」


「そう……シバ香水強いから一緒にいるだけでもね……」


「ふぅん」


 李仁は取り繕いながらも湊音にボディタッチをして誤魔化している。足の裏、足の指、脚、太もも……次第にいちゃつきに変わっていく。


「ほんとお前ら仲良いな。別にいいぞ、そこでやってもいいんだぞ」


「……」


 シバの茶化しに湊音は顔を赤らめる。二人は深い関係にあったのに目の前で他の男に抱かれることをするのかと思ったのか湊音は困惑している。


「まぁ風呂入ってもう寝る。疲れた」


 と、シバはソファーから立った。スマホを取り出してメールを確認するがいい顔をしない。


「まだ次の宿見つからんでさぁ、一日目から揉め事起きて嫌な雰囲気にしたくねぇからなー」


 と、笑いながら浴室に向かっていった。


「なによ、李仁に手を出しくせに」


「……」


「わかるんだから、服にシバの香水がつくぐらいそばにいたってこと。慌てて時間稼ぎで近くの酒屋でお酒とか買って誤魔化したんでしょ」


「……御名答、ごめんなさい。でもキスしかしてないから」


 李仁はすぐ堪忍して謝罪した。湊音は李仁に唇を突き出した。


 やれやれと李仁はキスをして二人は抱き合う。夕方まで李仁が嫉妬して抱きしめ絡み合ってたのに今度は湊音が嫉妬している。


「寝室でしましょうよ」


「……」


「んふっ……ミナく……」


 李仁の声を塞ぐように湊音は舌を絡ませる。ぐるん、と大きく舌を口内で回して舌を引き離す。


「晩御飯のシチューでもうシバの味は消えている……」


「当たり前よ」


「その舌でシバの舌を……」


 湊音は鼻息が荒くなっている。


「もぉ、だーめ。シバが見てるから」


 二人の目線はあっという間にシャワー浴びてきたシバの方へ。李仁は湊音から離れる。


「もっとゆっくり入ってきなさいよ」


「ええやろ、男は上から水かぶってボディーソープ全身丸洗い、それでシャワー浴びる、それでオッケー」


「ありえない」


「そんなありえないことをしてる男にお前らは抱かれたんだぞ? ハハッ」


 笑えない状況だがシバは笑ってリビングを仕切ってできた側室の個室に入っていった、と思ったら顔をのぞかせた。


「ココ鍵ついてないようだな、おやすみ」


 そのシバの言葉は何か含んだかのような言い方である。


「ミナくん、お風呂入りましょ」


「……うん。僕は隅々まで洗ってあげる」


「もぉ」



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