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第74話 寄り道

 いちゃつきもほどほどにしてランチを食べながら二人はディナーを考える。

 李仁は元々料理が得意でバーで働いていた頃は休みの日でも試作品をたくさん作り湊音は食べさせられていた。


 湊音は元々スイーツ作りが好きであったため李仁と料理を作っていくうちに手際が良くなっていった。

 休みの日にこうやって献立を考えるのが二人の趣味でもある。

 ましてや今回はいつもよりも多い人数分であり、明里の息子たちはまだ小学生と幼稚園児の男の子。

 上の子が偏食気味、下の子が牛乳アレルギーというのもあってあれこれ悩んだ。


 そして決めたら二人はランチを食べ終えて片付けをしながら作業に取り掛かる。


「デザートのゼリーのカップこれでいいかなー」


「ちょうどいいのあったわね。あ、明里からメールきてて、晩御飯嬉しいって」


「よかったー、じゃあ足りない分は李仁買ってきて」


「りょうかーい!」


 李仁はメモを持って近くのモールまで買い出しに行く。


「この三連休どうなるかと思ったけどまぁ楽しめそうね」


 李仁は普段三連休は取れないのだが、順番に社員同士で回していた。

 また最近李仁の体調が良くないと察した恵山が気を利かせて早めに変えてくれたという。


 李仁は手際良く買い物をし、食品売り場から出るが休みの日でも気になってしまうのがモールにある本屋である。


「休みだけど気になっちゃう……」


 エメラルド書房。李仁が20代の頃、ホストやゲイバーで働いていた頃に、店長からとにかく本を読めと言われて手っ取り早いのは図書館か本屋だと思った李仁はたまたま通りかかったここの本屋で働くことを決めたようだ。


 本屋のレジには店長と、麻衣の姿。彼女が李仁の休みの間、近隣の店舗を回っていたようだ。


「おう、李仁。来るのは久しぶりだな」


「そうねぇー。ずっと電話だけだったしねぇ」


「たまには来いよ、なぁ」


 店長はそう言いながらも手元は作業をしている器用な人である。


 もう彼も60近く。長年ここで店長をしているがこの本屋が入っているモール自体取り壊しになる。

 麻衣と店長は閉店の際のイベントを考えていたようだ。


「最後はわたしも店頭で働きたいって要望をだしてるからいやでも毎日顔合わしますよ、店長ぅ」


 李仁は色々気持ちがよぎるが、店長は平然としてるし、李仁もその場が暗くなるのが嫌でにこにこっとするが、ハッとした。麻衣がボーゼンと李仁のことを見ている。


 実の所本部では、女言葉や仕草を派手に使うことはしてなかったが、つい昔働いていた現場だったせいもあって本性が出てしまったようである。

 李仁は少し咳払いし、少し黙った。麻衣はそんな様子を見て笑う。


「部長、なんか可愛い」


「そ、そう?」


 店長も手つきは変わらずにこにこしてる。


「あ、いっけない……もうそろそろ帰らないと」


「おう、またな」


「麻衣ちゃんもよろしくね」


 麻衣は頷いた。


 李仁は慌てて家路に向かう。


「あー、部下に恥ずかしいところ見せちゃったわ……まぁこれからもこれで通そうかしら」





…………


「また寄り道してたでしょ」

 台所はいい匂いが漂う。李仁はごめんごめんと言いながらも「また」という言い方に少しヒヤッとしている。

 すでにある材料で進めるだけ進めている湊音。こういう時間配分を考えるのが好きなのが彼である。欠点としてはその時間配分が崩れると混乱してしまうがそこからは李仁の出番で応用していき次々と作っていく。


 夕方に次々と出来上がる。ピザ、サラダ、唐揚げ、焼きそば、ビーフシチュー、カップケーキ、キッシュ……。子供も食べられるものも多い。シバに関してはジャンキーだからなんでもよし、明里はヘルシー思考ということでサラダも二種類、唐揚げは胸肉。


「シバ、今から向かうわ……あら、子供達寝ちゃったの?」

 李仁がシバに電話している。湊音は保冷バックに食べ物を詰め込む。


「子供達寝てるんだって」

「シバが相手していたら子供たちもヘトヘトでしょー」

「どっちが遊ばれてるのやら」

「たしかに。じゃあいくよー」


 二人は車に食べ物を積んでシバの元に向かう。


 20分ほどかかるのだが、その道中。


「ねぇ、お店の経営って大変だよね?」

 湊音がいきなりそう切り出す。

「なに、いきなり。大変よー」

「だよね……」

「なによいいなり。何か店でもやるつもり?」

 湊音はうーんと言いながら口籠っている。


「シゲさんだって跡継ぎがいないからあそこのテーラー閉めるって言ってたし、いつもいく喫茶店も四苦八苦、今はなんとかなってるけど……うちの本屋もモールのところもそうだけど今まで何店舗も潰れた。ほんと大変よ」

「だよね」

「で、ミナくんは何のお店やりたかったのかしら」


 湊音はモジモジしながら

「料理屋さん」

 と答えると、李仁はホォーとうなずく。きっと今日の料理を作って運ぶことで思い付いたんだろう、と気づいた。


「例えばシゲさんのテーラーの場所、駅から少し遠いけどいい場所にある割には家賃も程よい。面積は狭いからこじんまりとした料理屋さんとしていいかもね」

「僕はこじんまりでいい。あと考えてるのは子ども食堂とか……剣道部の子供たちもさ、親さんが働く人たちが増えててさ、昼ごはんを剣道場の隣の児童館で食べてるんだ。そっから児童館とか図書館とか……。シバを雇えば託児もできるし、僕は高校生までなら勉強を教えてあげられる……」

 李仁は運転しながらも湊音がそこまで考えていたとは思わなかった。


「てかシバの名前出すなんて、まぁ使えるやつは使ってもいいと思うけど」

「ごめん、彼しか思い浮かばなくて」

「ごめんの意味がわからないけど……一人で回していくの?」 

 湊音はまたダンマリとする。


「子ども食堂は発想いいと思うけどさ、平日もやるのか、土日祝日も開けるのか……それに剣道の指導も考えると一人じゃ潰れるわよ」

「……李仁、李仁も、一緒に」

 口籠ってた最大の理由がこれだった。


「わ、わたしも?!」

「うん、二人なら……できるかなって」

「……なるほどぉ」

 李仁もンーと唸りながら考えている。


「たしかにねぇー。書店もいつまで続けられるかしら。20年後……本屋は無くなってるかもね。また料理屋もいいかもね、検討しておくわ」

「……うん」

「でもね、まずは体調を戻してからよ」

「うん、そうだね……」


 そして明里の住むアパートに着いた。

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