「ねえきみ」
ぼくがいつものようにニワトリに餌をあげていると、ひとりの男が声を掛けてきた。
「なにかご用でしょうか?」
「そのニワトリを10ドルで売ってもらえないだろうか」
「10ドルですって!とんでもない、うちにはこのニワトリ1羽しかいないんだ。とても手放すことなどできないね」
ぼくはその男が人一倍いい身なりをしていることに気がついた。きっとお金持ちに違いない。
「わたしの名前はロビンソン。なんでも噂では、そのニワトリは金の卵を産むそうじゃないか」男はポケットに手をつっこんで札束を取り出した。「さっきのは冗談さ。1万5千ドルでどうだろう。譲ってくれないか」
「1万5千ドルだって!?」
ぼくは考えた。このニワトリが産む金の卵は取引所なら10ドルで売れる。ニワトリの寿命がだいたい4年だとして、最大でもあと1万4千ドルを稼いで終わり。ならば1万5千ドルで売れたなら千ドル儲かるじゃないか。
「どうしても欲しいのなら考えてもいいけど・・・・・・」
「ありがとう。これで決まりだ」
男は札束を強引にぼくに手渡すと、ニワトリを抱きかかえた。
「うちの家内がどうしても金の卵を産むニワトリを飼ってみたいというのでね」
「ひとつ言っておきますが、金の卵は『ゴードン取引所』で現金化できますから」
「ありがとう」
ぼくは手を振ってロビンソン氏を見送った。
※※※※※※
数日後、ロビンソン氏がぼくを訪ねてきた。
「やあロビンソンさん。どうかなさいましたか?」
「ニワトリが最初は金の卵を産んでいたのだが、最近になって全く産まなくなってしまったのだ」
「ああ、それでしたら餌に金粉を適量混ぜて食べさせるといいですよ」
「金粉か。それはどこで手に入るのかね?」
「ゴードン取引所ですね」
「ありがとう」
ロビンソン氏は手を振って帰って行った。
※※※※※※
翌日ゴードン取引所のヘンリーが訪ねてきた。
「やあトーマス元気かい?昨日ロビンソンさんが金粉を買って行ったよ。きみもうまくやったもんだね」
「そうですか」
「これは、次のニワトリだ。もちろん無料サービスだ。また頑張って稼いでくれよ」
「ヘンリー。そうやってまたぼくに金粉を買わせる気だな」
「金の卵はうちで買い取るからいいじゃないか」
「あんたのところで金粉を買って金の卵にして売っても、結局ぼくの取り分はニワトリと言うより