ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・プードル、ミニチュア・シュナウザーがあるのだから、ミニチュア・アフリカ象があってもいいじゃないか。ぼくはそう考えて、長年の歳月を経て、ようやく“ミニチュアイオン発生装置”の開発に成功したのだ。
この装置さえあれば、どんなに大きな生き物だとしても、あっという間に掌サイズにすることが可能なのである。
実のところ象はそもそも、『動物愛護管理法』で特定動物に指定されているため、個人での飼育が禁止されている。しかし、ぼくはこの装置のおかげで、県知事の飼育許可を取り付けることに成功したのだった。
「どうぞ、これが“手乗りアフリカ象”です」
県議会のモニター画面に、ぼくの掌に乗った象が映し出されると、県議会の連中が全員メロメロになってしまった。とくに女性議員などは、キュンとなってしまい、その場で失神してしまったほどである。こんなに可愛い象を見たら、誰だって飼わずにはいられなくなってしまうのが当たり前なのだから。
「ピャオーン」と象が鳴く。
「おお、どうしたどうした。パオ君お腹がすいたのかな」
ぼくは左手に、パオ君を乗せて、小さく刻んだバナナを食べさせてあげる。手乗りアフリカ象のパオ君は、長い鼻を左右に揺らせて大喜びするのであった。
※※※※※※
数日後、家の外がやけに騒々しい。カーテンを開けて窓からのぞくと、遠くに観光バスが何台も停車しており、ガイドらしき女性が大勢の人にむかって説明をしているのが目に入った。
そうか、パオ君を見物に来た人達だな。もはやこの郊外の我が家は観光名所のコースに組み込まれているのにちがいない。ぼくはパオ君を掌にのせて、ドアを開けてニッコリと笑った。
「どうぞ、これが手乗りアフリカ象のパオ君です!」
「きゃあ。すご~い!」悲鳴が上がった。
どういうことだろう。見物人も、バスもみんなオモチャのようにミニサイズではないか。
「みなさん。あれが今話題の巨人でございます」
ぼくは気がついた。周りがミニチュアなのではない。単にぼくとぼくを取り巻く環境が巨大化していただけだったのである。