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第42話 違和、可不可

 しかし、あれだな。

 ちょっと変わったとこに行ってみようと思って、女がカッコいい世界を想像してテレポートしたら、まさか女が全員鬼みたいなとこについてしまうとは。



 今回は、スーラ君への慰労も兼ねて観光感覚で非ファンタジー的なほのぼの系を目指して来たわけだが、右を向いても左を向いても俺より背が高い女ばっかり。


 誰もかれも、女とくれば目算二メートル越え。

 下手すりゃ三メートル近い女もいる。


 やっと見つけた小柄ときたら、ランドセルを背負った小学生。それでも、男子高校生くらいはあったぜ。

 それでいて角を二本も生やして、それでいて体の色も白黒赤青と豊富だ。


 いや、ま。俺も嫌いじゃないけど。


 しかし、他にも妙な感じがした。適当なコンビニに入ってみたら、月に一度のメンズデーだった。

 それだけなら不思議でもないが、本棚のグラビア雑誌に男性アイドルの割合が多い。思いっきり偏ってる。


 男性向けの写真集は一部だけで、謳い文句も人気イケジョ俳優の日常とか日本語で書いてある。

 表紙に写ってる女優だって女子校の王子様的な、もしくはヅカっぽいイケメン女子。

 そういう需要も確かに理解は出来る。

 ただ俺のいた故郷だと、それは割りとアングラ需要だった気がする。


 一体何がどうなっているのか?


 極めつけと言ってはなんだが、いつもの感じで店員のお嬢さんに口説き文句を言っていた時の事。


「いやしかしお美しい。その長いまつげも憂いを秘めた切れ長の瞳も、それでいて貴女の温かみを表現するほのかなチークも。首の痛みなど気にならず、いつまでも見上げる事が出来ます」


「へ! ひゃ、そ、そそそその……」


「ええ。わかっております。私の愛は、そうですね。月夜に照らされる雪原の如く静謐せいひつでありましょう」


「あ、あう」


「しかし、私もまた一人の男。その美しさを前に言葉の一つも掛けないなどと、そのような失礼な事は出来ません。どうです? 夜にネオンの海でも見下ろしながらお食事でも?」


「ば、ばばば……! バイトがぁ、ありますから! あ、その……」


「これは失敬。私とした事が、つまらない悩みを貴女に与えてしまった。では、またどこか、この愛が再びの縁を繋いでくれると信じて」


「あり、がとう、ございましたぁ……」


 ガムだけ買って、颯爽と出てきたわけだが。


 しかしあのお嬢さんの顔。お嬢さんでいいよな? 見た目俺と変わらないくらいだろう、きっと。

 案の定、背は俺より三十センチ程高かったけど。女を見上げる経験なんて無かったけど、なかなか新鮮だなぁ。


 それよりもだ。あんなに可憐なのに、まるで今まで男と口を聞いた事すら無いような狼狽えっぷり。

 男子校出身の大学生が、初めて女の色気に酔って浮かれるのに近いかも。


 あんな美人なのに、今まで放って置かれたってこと? うっそー。

 周りの男共は何考えてんだ? 草食系だって飛びつくレベルだぜ?

 世ん中どうなってんのか、わっかんねえなあ。


 そんな風に首を傾げながら、街中をぶらりと歩き回る事にした。




 それから暫く歩き回って、いろいろわかった事がある。


 まず、女が全体的にデカくて明らかに男より力がありそうなのはわかってはいたが、多分価値観もかなり違うみたいだ。

 例えば、道端でこんな場面に遭遇した。


「ねぇ、そこのお姉さん」


「ん? 私の事?」


「そうそう。今日さ、ヒマしてるなら、ちょっと付き合ってくれないかなー?」


「別に良いけど……。私なんかでいいの?」


「もちろん! お姉さんみたいな綺麗な人と一緒ならどこでも楽しいし!」


「もう、口が上手いんだから。いいわ、行きましょっか。どこに行くの?」


「カラオケだよ。さぁ行こうよ、おねーさん♪」


 そう言うと高校生くらいの少年が、女の腕を絡め取り、ほっぺたなんか擦り寄せて一緒に歩き出した。

 やられた女も、鼻の下が伸ばしていた。


 俺は今まで生きてきてこんな光景を見たことがねえ。


 そりゃ坊主の方は小綺麗にして、顔立ちも俺ほどじゃないがそこそこ良い。

 とはいえだ、制服着崩して胸元を開けさせた小僧に大人の女が落ちるなんて、俺の理解には無い。


 まるで、適当な男を引っ掛けて金と腹を浮かせる遊び人の女子高生だぜ。

 え、えんこう? ここじゃ男の方が小悪魔になれるって事か? 何てこったい。


 そいつを踏まえて街中のアベック共を観察していた所、どうにも女の方がリードしてる感じがした。

 大体、男が引っ掛けたら、女は頬染めて嬉しそうだ。


 おいおい、それでいいのか?

 こっちじゃママが若いツバメと遊ぶって事なのか?

 いや、流石にそれは物の見方が偏ってるな。


 色々あれこれと踏まえて考えた結果、やっぱりこの世界は男と女の価値観が逆転してるんじゃなかろうか。

 俺のいた二つの故郷では男は女に惚れさせる側だった。

 そして、その逆だとしたら、女は男に惚れられる為に必死になるはずだ。


 この世界は女の方が強すぎる。見た目から明らかにそうだ。

 皆様方筋肉が主張しておられる。全員がそうじゃないけど、多分筋肉が付きやすい体質なんじゃないか?

 迂闊にハグなんてされようもんなら、背骨もバキィッと逝きそうだ。


 筋肉娘か……。でも、中々悪くない、よなぁ。

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