<美琴視点>
「ドローンの制御権を奪うには、制御装置とマスターキーが必要だ」
「なるほど……で、制御装置ってまさか……」
「ああ」
狂歌は私の考えを察して肯定した。
「そこの穴だらけの機械だな」
「……」
キーボードや画面に何発も銃弾が撃ち込まれている。
「テロ計画の邪魔をされないように画面と入力装置を破壊したんだろう。だが、もちろん制御装置本体は無事だ」
「でも、操作はできないんでしょう?」
「なに言ってんだオメー?」
狂歌は目線を移動させた。
その先にはヒナ姉がいた。
「そういうことか!」
「ああ。本体が無事ならヒナが居ればなんとかなる。ヒナが操作できるように作業を行う。だから、制御装置とハッキングに関しては問題無い」
「ということは、マスターキーを何とかすれば良いわけね?」
「ああ。マスターキーはスサノオが持っているがな」
私は唾をゴクリと飲み込んだ。
「つまり、スサノオを戦い、マスターキーを奪う必用があるわけね」
「ああ。その通りだ。だが、問題は奴らが二手に分かれたということだ。オメーがかけているメガネの画面を見てみろ」
「本当だ! 集団が二手に分かれて移動している……このどちらかがスサノオ達の可能性があるわけか」
私が見ている画面では、赤い点の集団が二つの固まりが表示されており、蟻の集団のようにゾロゾロと移動をしている。
「それにしても……本当にピヨちゃん? その情報収集力も凄いね。昔から頭だけは良かったのに」
「頭だけってなんだよ。まあ、狂歌は音を操る異能を持っている。だから、誰よりも耳が良いのさ。この島に入った時からクソ共の会話は全て聞こえていた」
「異能の力も手にしたんだね。良かった良かった」
「ちょ、バカ! 痛いから抱き着くな」
頭だけは良かった?
正直、昴と狂歌が戦ってもどちらが勝つか分からない。
そのくらい狂歌は強いのに。
もし、本当に昔は昴達より弱かったとしたならば、どうやってこんなに強くなったのだろうか?
「もしかして、この移動速度が速い方がスサノオですか?」
「恐らくな。狂歌の耳にもそう聞こえる。だけど、マスターキーはテロ計画の根本を支える重要なキーアイテムだ。現代技術からして、音の分析なんて容易い。狂歌の耳以上に音波分析ができる機械も珍しくないから対策をしているはずだ」
「そうですか……でも、少しでも可能性が高いのであれば、俺がこの集団を追います」
「いや、スサノオには昴達が戦ってもらう。オメーらが戦っても勝てると思うが、昴達の方が余裕でボコせる」
「……そうですか」
進士は悔しそうな表情を浮かべた。
「オイオイ、まだスサノオがその集団だとは確定していねーよ。オメーらに任せる集団にスサノオが居る可能性だってある。だから気を抜くな」
「はい!」
「じゃあ、ボク達が追う敵がスサノオじゃなかった場合は、その人達を逮捕して情報を博吐かせればいいんだね?」
「そうしてくれ。スサノオと別れた集団は、山上っつー国会議員秘書をやってるクソ売国奴を中心としたクソ野郎共だ。進士達も同様に、こいつらと出くわしたら情報を吐かせろ」
やるべきことが明確になってきた。
しかし、気になることが一つあった。
「ねえ、赤い点の移動速そうだけど車に乗ってるの?」
「そうだな。車移動している」
「じゃあ、どうやって追いつくの? 車より速く移動しないと追いつけないじゃん!」
「それはコイツを使うです!」
ヒナ姉がリュックから黒くて四角い箱を取り出した。
そして地面に置いてスイッチを押すと、瞬時にスケートボードのような形へと変形した。
「これってスケボー? でも、車輪ついてないよね」
「これは反重力で動くっす。美琴達も似た装備扱ってたでしょ」
「反重力スケート?」
「そのスケボー版っす」
ヒナ姉の操作により、反重力スケボーが宙に浮いた。
「これってさ……タイムマシンを装備した車が出てくる映画に出てきた奴……みたいなものだよね?」
「そうっす。バック・トュー・ザ・フュー……」
「そう! そのシリーズの二作目ね!」
まさか、夢のようなあのアイテムを扱うことになるとは。
「この反重力スケボーは車より速いスピード出せるし、うまく乗りこなせば道なき道も余裕で踏破できるっす!」
「乗ったことも無いのに上手く操縦しろって、相当な無茶言うよね……」
「AIサポートもあるから問題ないっす。てか、乗りこなせ」
「……はい」
自分の技術を信用しろ、と言わんばかりの圧をヒナ姉から感じた。
「もちろん、ヒナの装備だけじゃない。今回は狂歌が力を使う。だから、オメーらの異能の力もフルで使えるだろ。もちろん、美琴もハーブ無しで力を使える」
「え? どういうこと?」
「そろそろ出発しないと本当に間に合わなくなる。あとは身体で感じて何とか対応してみせろ」
狂歌はギターとスピーカーを展開した。
さらに、口元にマイクも出現した。
恐らく、反重力の力なのだろう。
スピーカーもマイクも宙に浮いている。
「畏み申す。我はアメノウズメ」
狂歌の声に呼応し、狂歌の周りを浮く機材から赤く光り出した。
「一曲、舞わせて頂きます」
その瞬間、狂歌の演奏が始まった。
美しいギターの音色がかき鳴らされ、その音に負けない程の美しい歌声が狂歌から発せられた。
「綺麗……って、うぅ……!」
綺麗な旋律に心が奪われたと思った瞬間、私の身体に異変が生じた。
感覚が研ぎ澄まされていく。
力が湧いてくる。
「狂歌の本職はサポーターなんだよ。この音色を聴いている仲間全員の能力を底上げする。これが今回の狂歌の役割だ」
あんなに強いのにサポーターって、どんなチートキャラなんだよあなたは……。
本当に味方で良かったと思った。