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第七十八話「当たりクジ」

<美琴視点>


「乗り心地はどうっすか?」

「サイコーだよ、ヒナ姉!」


 私達は敵を追っている。

 ヒナ姉作の反重力スケボーを駆使しているが、想像を絶するほどの移動速度!


 AIが反重力の出力を制御しているとはいえ、身体のバランスを維持する技術が必要。だけど、それを狂歌の『歌』によって補ってくれる。

 歌が私の感覚を最大限まで上げてくれるから、体勢の維持、足による蹴りだしをスムーズに行える。


「鈴鳴チーム、進士チーム。渡した装置について詳細説明するっす。これはスサノオからマスターキーを奪取した後に使う装置っす」


 私は反重力スケボーを駆りながら四角い箱のような装置を取り出し確認した。


「渡した装置に穴が空いてると思うっす。そこにマスターキーを刺せば、こちらに通信が飛ぶっす。そうしたら自分がマスターキーの権限を使って制御システムをハックするっす」

「なるほどねぇ。整理すると、マスターキーを奪ってこの装置に差し込めばミッションコンプリートってことね?」

「その通りっす、帆波さん」


 やることはシンプルで分かりやすい。

 難しいのは相手を倒すこと。


「それにしても、マスターキーって鍵なんでしょ? なんでヒナ姉は鍵の形をあらかじめ知っていたの? 形が合わないと装置に差し込めないでしょ?」

「その装置は鍵穴になってないっす。今は只の穴っすけど、キーを差し込んだ瞬間にナノマシンが穴の中をナノマシンが埋め尽くすっす。こういう仕組みだから、キーがどんな形でも問題ないっす」

「はぁ」


 なんか凄いこと言ってる。

 詳しい仕組みは分からないけれど、とにかくマスターキーをこの穴に差せば何とかなるらしい。


 ――しかし、スサノオはどちらの集団に居るのだろうか?


 ヒナ姉のレーダーでこの島にいる人間は全て感知され、動きを地図上の赤い点で把握することができる。


 私達は二手に分かれ、敵の後を追っているが、


 昴、帆波さんチームは移動速度が速い集団の方。

 私と進士は比較的移動速度が遅い方を追っている。


 マスターキーを持っている者の方が速くこの島を脱出する形で計画を立てることが通常だろう。

 だから、スサノオが居る可能性が高い方は最高戦力の昴と帆波さんに任せている。


 ただ、そう見せかけて速度が遅い方がマスターキーを持っている方であるとする可能性もある。

 私達の前にスサノオが現れるなんて可能性は全然ある。


「美琴。そろそろ敵に追いつくところだね」

「ええ、そうね」


 私達の反重力スケボーは車より速い推進力を実現し、道で無いような舗装されてない山道や岩場を進むこともできた。


「ねえ、ヒナ姉。そういえばちょっと疑問に思ったんだけど、なんで狂歌の歌が聞こえているのに私達の会話がかき消されないの?」

「それは狂歌さんの歌が通信機器じゃなくて、直接美琴達に届けているからっす。狂歌さんは音を操る能力。だから、離れている人に直接歌を届けることができるし、逆に敵とか他の人間には歌が聞こえていないっす」

「マジか。凄すぎでしょ」


 確かに、よくよく考えてみたら当然だ。

 私達の能力がここまで向上させることができるなら、敵に対しても有効だったら意味が無い。

 私達だけに歌を届ける必要がある。


「美琴。目の前の4階建ての建物を超えることができれば、もっと速く追いつくこいとができる。どうする?」


 私達が進む道に、暗闇の中ぼんやりと姿を見せる、白い四階建ての建物が出現した。

 ヒナ姉のマップ上では、この建物の裏に赤い点の集合体が示されている。


 ――ならば、この障害を飛び越えよう!


「あそこに丁度良い感じにジャンプ台として利用できそうな屋根があるよね。あれ利用しようか」

「わかった」


 私達はスケボーで付近の一階建ての民家の屋根の上に飛び乗った。

 そして強く屋根を蹴る。


 屋根上の坂道を滑走し――そして大ジャンプ。


 もちろん私はスケボーに乗ったことがない。スノボーも。

 だけど、AIによる補助と狂歌の歌声で感覚が研ぎ澄まされている。

 自然と身体が最適解を導き出す。


(はああああああああああああああああああ!)


 心の中で雄叫びを上げながら空を飛ぶ。

 そして建物の壁飛び移り、スケボーの板を向けて、足で壁を蹴る。


 ――もう一度ジャンプ。


 なんとか建物の屋上に着地した。

 そして、恐る恐る屋上の縁(へり)から顔を出し、敵の姿を確認する。


 そして、私は深くため息をついた。


「こちら昴。悪い知らせがある。こちら側には――」

「こちら美琴。こちらは良い知らせがある」


 昴の話を遮り、私は言葉を重ねた。


「今から、私と進士の二人でスサノオのクソ野郎をぶっ飛ばす」


 私達はスサノオを引いた。

 もう、覚悟するしかない。


 ――あの時の借りを返すんだ。


「美琴」

「進士」


 私達は一度、お互いに手を繋ぎ、強く握った。

 決意を固めた私達を、潮風がそよいで撫でた。


 温かい。

 繋いだ手を通して進士の熱が伝わってくる。

 この、彼の存在を感じる感覚がどれだけ私の力になってくれるか。


 ――もう、怖くない!


「行くぞ!」

「ええ!」


 私達は屋上を飛び出し、スサノオの頭上から急襲した。

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