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53.修学旅行(3/6)



……それからもボクたちは、ひたすらにこの道頓堀を満喫した。


グレコの看板の前で、みんなと共にポーズを取ったり、今度は串カツを食べたり、あらゆる路地を巡って写真を撮ったり。


時間を忘れて楽しむ、というのは、まさにこのことだろうとボクは思う。雪のように、一瞬で二時間が溶けてしまった。


「やばやば!集合時間遅れるー!」


「うえっぷ。も、もう“私”、走れない……」


「さっぽんがんばれー!後少しだよー!」


駅まで全速力で走って、吐きかけたことすらも、きっと後から振り返ったら、いい思い出になるのだろう。


その後は、他の生徒や先生たちと合流し、全員で金閣寺などの「いかにも修学旅行で観る場所」というところを廻った。


それらが終わると、ボクたちは宿に向かい、大きな和室で食事を済ませた。


お米にお味噌汁、卵焼き、焼きサバにお新香といったTHE 和食の晩御飯だった。


(お、大人数で食べるの、なんか緊張するな……)


先生から見られているのもあって、その場はとても静かだった。カチャカチャと食器の音だけが聞こえていた。


「わーーー!お風呂おっきーー!!」


その反動からか、お風呂場ではみんなはしゃいでいた。


大きな浴槽がどんっと構えてあって、数十人は余裕で入るだろうという大きさだった。身体の洗い場もザッと10箇所以上あって、まさに大浴場という名前に負けない広さだった。


入れる時間は20分で、それが2~3班ごとに入れ替わるルールだった。


「早速湯船に突入だー!ザブーン!」


「こら千夏!かけ湯もしないで入るのはマナー違反だよ!」


千夏さんの奇行を諌める西川さん。もうこれまでに、何度展開されたか分からないお約束のようなやり取りだった。


「ふふふ、千夏さんは本当に元気ですね」


二階堂さんはお嬢様のように、口に手を当てて優雅に微笑んでいた。


「ん?あら?どうしたんですか?二人とも」


ふと、二階堂さんはボクと小岩瀬さんに目を向けて、不思議そうな眼差しを送っていた。


その理由は分かっている。ボクも小岩瀬さんも、身体にバスタオルを巻いたまま、一向に脱衣場から動こうとしないからだ。


「い、いやあ、そのぉ……」


「う、うるさいな!こっち見んなって!美緒!」


ボクも小岩瀬さんも、もじもじしながらその場を動けなかった。


それは、あまりにもみんなのスタイルがいいから。


千夏さんは、胸も大きくてお尻も魅力的で、本当に女の子みんなが憧れるスタイルだった。本当はグラビアアイドルですと言われても、ボクは驚きもしないだろう。


西川さんも、運動部ならではのきゅっと引き締まった健康的な体型で、無駄が贅肉が一切ない。そして二階堂さんも、すらっと絵画のように綺麗な立ち振舞いで、言葉にし難い妖艶さがあった。


(それに比べてボクの身体は……。とほほ……)


胸もなければ、妖艶さもない。ガリガリに痩せ細った不健康な身体……。こんなの、みんなの前に晒すのが恥ずかしすぎる。


「ううう、みんな、スタイル良すぎだっての……!」


小岩瀬さんも顔を赤くしながら、ぶつぶつとそうぼやいていた。


以前、身長が小さいことを気にしている発言をしていたから、彼女もボクと同じように、体型にコンプレックスがあるのだろう。


「えー?どうしたのー?さっぽんもるうも早く入りなよー!」


「もしかして、二人ともあれの日かな?」


西川さんが心配そうに、ボクと小岩瀬さんを見つめついた。「あれの日」というのは、生理のことだった。


「あ、いや、全然そういう訳じゃないんだけど……。あの、恥ずかしく、て」


「恥ずかしい?」


「その、み、みんな、スタイルが凄くよくって、ボクなんかのだらしない身体は、見られるの恥ずかしくって……」


「えー!?そんなこと気にしてたのー!?もー!さっぽんってば可愛いなー!」


千夏さんは声を弾ませて、ボクの背後からバックハグをした。


彼女の豊満な胸が、背中にどっしりと当たっていた。


「え?待って待って、もしかしてるうも理由一緒?」


「うっ!」


小岩瀬さんは眉間にしわを寄せて、唇をつんと尖らせながら、小さく頷いた。


「もーーー!二人とも可愛いなーーー!よし!二人まとめてぎゅーーー!」


「わわっ!?」


「ちょ、止めてよ千夏!子ども扱いすんな!」


「早くお風呂上がってさ、みんなで部屋行こーよ!んで、恋バナしよ恋バナ!」


「!」


ボクが千夏さんの方を見ると、彼女はニッと笑ってウインクをした。


「………………」


「さーて!髪の毛洗おーっと!」


千夏さんはボクたち二人を離して、スキップしながら洗い場へと向かっていった。


「黒影さん、小岩瀬さん」


西川さんはボクたちへ手を振って、「どうしても難しかったら、遅くなってもいいからね」とフォローを入れてくれて、二階堂さんとともに洗い場へ向かった。


「「………………」」


ボクたちはとうとう、意を決して……身体を包んでいたバスタオルを剥いだ。


すると、どうしてもお互いに気になるもので、小岩瀬さんとボクは、同じタイミングで顔を見合わせた。


「……こ、小岩瀬さん。あの、全然恥ずかしくないと思いますよ。肌がとっても綺麗で、むしろ羨ましいくらいです」


「く、黒影こそ、なんで恥ずかしがってたのさ。しゅっとしてて大人っぽいし、こっちこそ羨ましいんだけど」


「………………」


「………………」


「……ふ、ふふ。お互い、無い物ねだり、ですね」


「………………」


「お風呂、行きましょうか」


「……うん」


こうしてボクたち二人も、お風呂場へと足を踏み出した。


慣れてくると、だんだん気にしなくなるもので、最後の方はみんなで湯船に浸かりながら、談笑することもできた。


(お風呂から上がったら、いよいよ恋バナか……)


お互いに好きな人を発表するという、千夏さんとの約束。それがいよいよ果たされる時がきた。


(言うのも楽しみだし、聞くのも楽しみだな……)


いつの間にかボクは口許が緩んでいて、「ふふふ」と小さな笑い声が漏れていた。


11月26日、午後20時15分のことだった。








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