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第35話 クロナちゃんは可愛い女の子!

「あぁ、どうしよう!……なんで、あんなことを聞いたんだ!?」


 アタシは海の帰り、部屋に戻ってベッドの上で転げ回っていた。 自分の可笑しな行動が理解できない。

 なんで、ましろの女の好みを訊いたんだ!?

 アイツがどんなタイプの女が好きでもアタシに関係ないのに。

 どうして気になったんだろう。

 アイツがアタシより胸のデカい女の水着姿を見ているからかな。

 あれはムカついた。胸がないアタシへの嫌みかって思った!

 そりゃ、アタシは背は高いのに胸が小さい色気も可愛げもない女だ。


「あぁ! 何を考えているんだ、アタシは!」


 しかも、アイツに「どっちって言って欲しい」と訊かれた時、怖くてそれ以上聞けなかった。

 もし、ましろが「おっぱいの大きな子がいい」って言われたら……別にいいじゃねぇか! アイツの好みにアタシがイチャモンつけるのは間違っているだろ!


 最近のアタシは何かがおかしい! よく分からないモヤモヤがぐるぐるして、頭の中がぐちゃぐちゃだ! それにアイツが胸デカ女を見ていたとき、心がモヤモヤした。

 これは親心……みたいなものだ。アイツには、ちゃんとした恋愛をして欲しい。見た目じゃなくて中身で選んで欲しい。母親的な目線ってやつ……。


「じゃないよな……」


 色々言い訳を並べてみるも、どれもしっくりこない。

 確かめたい。言葉にできないこの気持ちの正体を。アタシはクローゼットに隠してある紙袋を取り出して着替え始める。


 着替え終えたアタシは、ガラホを手に取った。メッセージアプリを立ち上げて、ましろに「話があるからリビングに来て」と送る。

 アタシのメッセージに気付いたましろが自分のドアを開ける音が聞こえる。そのまま、アタシの部屋のドアをノックする。


「センパイ、どうしたの?」


「入るな! アタシがそっちに行く。ましろ、目をつぶれ!」


「へぇ?」


「いいから! 目をつぶってソファに座ってろ!」


「わかった」


 ドア越しに、ましろがポカンとした顔が容易に想像できた。

 アタシも自分で何を言っているのか、訳が分からない。

 でも、確かめたいんだ。

 ドアからリビングを覗き込むと、ましろがちゃんと目をつぶってソファに座っている。よし、大丈夫だな。アタシは足音を立てないように気をつけながら、リビングに向かう。

 ましろの目の前に立つと、一気に緊張感が襲い始める。

 どうしよう。 やっぱ、やめようかな。いや、ここまで来たんだ。

 覚悟を決めたアタシは、ゆっくり息を吸い込んで「いいぞ」と、ましろに目を開けるように指示する。


 ましろがゆっくり目を開けると、リアクションに困った顔を浮かべている。そうだよな。いきなり、アタシがビキニ姿で現れたらそのリアクションになるよな。

 このビキニは、ましろと海に行こうと約束してから、こっそり買った。 本当は可愛い水着をしたかったけど、どれも似合わなかった。

 だから、シンプルな黒のビキニを選んだ。買ってから、胸の小さいアタシのビキニ姿は可哀想な女にしか見えなかった。

 それに、ましろが絶対に「センパイ、ギャグなの?」ってツッコミを入れると予想が出来た。そう思って、あの日は着れなかった。

 でも、あの日、ましろが胸デカ女の水着を見ていたことがムカついて……気付いたら、こんなことをやっちまってた。


「センパイ……」


 やば、めっちゃハズい。絶対、ましろに頭がおかしくなって思われている。


「わ、悪い……忘れろ!」


「凄い似合っている」


 え? ましろ、本気で言っているのか?

 ウソでいい。その一言がアタシを救ってくれた気がする。


「……ありがとう」


 ましろ、悪いな。アタシを傷つけないようにウソをついてくれて。

 お前って意外と気が利くな。出来た後輩を持ってアタシは幸せ者だよ。

「でも、センパイが海で水着を着なくてよかった」


「はぁ!? お前……」


「だって、水着姿のセンパイをボクが独り占めできるんだから」


「バ、バカ!」


 アタシは恥ずかしくなって自分の部屋に逃げ込んだ。

 めっちゃ、ハズ!

 死にたい。なんで、ましろに水着姿なんて見せたんだよ。

 なんで、アイツに女を意識させるような……。


「あれ? アタシ……ましろのことを……」


 胸が苦しい。心臓の鼓動がめちゃくちゃ速くなっている。

 これは水着になった恥ずかしさ? それとも……。


「いや、ありえない!」


 そっちは絶対にない……って言い切れない。

 結局、アタシのモヤモヤは解決出来なかった。

 その代わりに余計な黒歴史を増やしちまった。


***


 リビングに残されたボクは、ソファから立ち上がれなかった。

 センパイが水着になってくれた。


 嬉しい。

 普段、メンズファッションで隠されている、センパイの女の子の部分が、今日はちゃんと見れた。


 最初はボクをからかってるのかと思った。

 でも、あの初々しいリアクション……あれは、ウソじゃない。本当に照れていたんだ。


「ボクは幸せ者だ」


 センパイの可愛い水着姿を独占できたなんて。

 あの姿を見れたのは、世界中でボクだけ。神様なんて信じてなかったけど、今日ばかりは信じるしかない。


「神様、ありがとう」


 ボクに女の子のセンパイを見せてくれて。あんな姿を見たら、益々諦めなられないよ。

 あの計画。チャンネル登録者100万人達成。その先にある……あの”お願い”。


「センパイ……あの”お願い”が実現する日も遠くないかもね」


 ボクはセンパイに届かないことを祈りながら、そっと呟いた。

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