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第66話 アタシだけで生きていく!?

「みなさん、こんまし~! あなたのお耳の恋人ましろです!」


:ましろん、こんまし~!

:今日も、ましろんのボイスは最高!

:このために生きている!


「みなさん、こんクロ! あなたのお耳の浮気相手クロナだ」


:クロ様、こんクロ!

:このイケボが聞けて幸せ!

:今日の嫌なことも全部忘れられます!


「みなさん、ありがとう! 今日は前回のハロウィンイベントの続きを話そうかなって思っていたけど、配信内容を変更します」


:どんな内容だろ?

:もしかして、ましろんのエロボイス特集か!?

:それは神回!


 悪いな、ましろのリスナーたち。お前たちが期待する配信内容とは全然違う。

 こんな空気の中で、こんな話をしていいのか?

 アタシの中で迷いが生まれてしまう。


 ふと、ましろの方を見ると、「センパイ、大丈夫だよ!」と、ましろが目で訴えているように見えた。ありがとう、ましろ。アタシの想いを伝えさせてもらうよ。


「リスナーさん、そんなエッチな企画はここでやらないよ~。どうしてもって言うなら、”ましろんべーす”でやるから来てね」


:神企画確定!

:企画詳細をはよ!

:わくわくが止まらないぜ!


「だから、この後の配信もちゃんと聞いてね。約束だよ!」


:ましろん、了解!

:ましろん、ちゃんと聞くぜ

:ましろん、指切りしたからな


「今日の配信はボクらの活動にとって大事なお話です。センパイから、みなさんに伝えたいことがあるので聞いてください」


:ましろんがマジトーンだ。

:これはちゃんと聞かねば

:正座して待機。


 ましろの一言で、コメント欄に不安が過らせてしまった。

 みんな、悪いなこんな空気にさせちまって。


:クロ様から大事なお知らせ!?

:良い話ですよね!?

:ドキドキが……。


 リスナーちゃん、ごめんな。

 こんな話をされたら、不安になるよな。

 だけど、アタシの想いを聞いてくれ。


「アタシ、クロナは……配信者1本で活動します!」


:クロちゃんが配信者1本宣言!?

:予想外だ!

:号外! 号外!


 ましろのリスナーたちが思った以上のリアクションがコメント欄を埋め尽くしている。

 コイツらが、ましろのネタ以外で盛り上がったところを初めて見た。


:クロ様、配信者1本でやられるんですね

:おめでとうございます!

:ただ、うれしい反面。心配です。


 リスナーちゃん、ありがとう。

 でも、複雑な気持ちだよな。

 自分の推しが配信者1本でやるのは応援しがいがある。

 だけど、アタシみたいに配信だけで生きているいけるほど、実力がない人間がやるって言ったら、止めなくちゃって気持ちにもなる。


「みんな、ありがとう。アタシのことを心配してくれて。実は最近、バイトをクビになった。新しいバイトを探そうとも考えたよ。でも、アタシは配信者としてトップになりたい! そのためには逃げ道を作っちゃいけないんだ。」


:クロちゃん、早まるな!

:キミには、まだ早い!

:ましろんくらいの人気がないと無理だ!


「リスナーさんの心配もわかるよ。でも、ボクは賛成だよ。正直、センパイはボクより人気はないよ」


:ましろんストレート炸裂!

:事実だけど、きついぞ!

:ましろん、クロちゃんに現実を教えてあげて!


「ましろ、お前……」


「今はね。でも、センパイはボクを超える配信者になるって信じている」


「ましろ……」


:ありがとう、ましろちゃん!

:クロ様のポテンシャルを信じているのね

:わたしもクロ様を信じてます!


「だから、バイトなんてしているヒマないでしょ。ボクを超えたいなら、配信だけがんばりな」


:ましろん、神のお言葉!

:だけど、ましろん、それは無謀じゃない?

:クロちゃんの爆死が頭を過る!


「みんな、心配してくれてありがとう! こんなバカなアタシを応援してくれ! もう夢から逃げたくない!」


:クロ様、応援します! ¥10000

:クロ様、がんばれ!  ¥5000

:これからも応援します!


「みんな……」


:クロちゃんの男気に ¥10000

:ましろんを泣かせるなよ! ¥10000

:クロちゃんの男気に乾杯 ¥10000


 ましろのリスナーまでアタシにスパチャを送ってくれた。

 お前らまでアタシを応援してくれるのか?

 ましろが「やったじゃん、センパイ」って応援するように笑顔を向けた。


「ありがとう……」


:クロ様、泣かないで!

:私たちまで泣いてしまいます

:@ハイエナ クロちゃん、応援ファンアート送るね!


「ハイエナさん!」


 コメント欄には、アタシが演説台に立って「配信者1本でやります!」と高らかに宣言するイラストが送られていた。


「センパイ、もう逃げられないよ!」


「あぁ、いいんだ」


「ということなので、みなさん、センパイの想いをSNSに思いっきり拡散してね!」


:了解! クロちゃんの男気を拡散!

:ましろんからお願いなら仕方ない!

:”記憶にございません”される前に切り抜け!


 ましろはアタシの逃げ道を塞ぐようにリスナーに指示を送った。

 いじめっ子のような目で「センパイ、逃げられないよ」とアタシに訴えてくる。


 ましろ、ありがとう。これでアタシの逃げ道はなくなった。

 今のアタシに、もう逃げ道はいらない。アタシに必要なものは夢へを叶えるための勇気だけ。


***


 配信が終わった、片付け中。

 ましろはマイクを外しながら、ちらっとアタシの顔を見る。


「センパイ、なんかニヤけてない?」


「いや……これで逃げ道がなくなったなって思ってさ」


「逃げ道?」


「バイトって、ある意味”保険”だった。忙しいからできない。疲れたからって言い訳して、心のどこかで本気になれきれてなかった気がする」


「センパイって本当に真面目ちゃんだね。そんな人間なんて世の中たくさんいるんだから、気にしちゃダメだよ」


「そうか……」


 ましろはそう言ってくれるけど、アタシの心の中にそんな甘えがあったと思っている。

 だからこそ、この選択が正しかったのか、まだ不安はある。

 貯金もほとんどないアタシがバイトもしないで配信だけやっていてもいいのか?


「センパイ、まだ不安だって顔に書いてあるよ」


 ましろにお見通しか。はぁ、リスナーちゃんの前で啖呵を切ったのに、こんな弱気でどうするんだよ。


「心配しないで。ボクがセンパイをサポートするから」


 ましろは子供のように無邪気な笑顔を見せる。

 や、やめろ。急に優しくされたら……活動に集中できないだろ。


「あ、ありがとうな」


「どういたしまして……本当は恋人としてサポートしたいんだけどね」


「ん? 何か言ったか?」


「なーんでもない! それより、早く登録者100万人達成しなきゃ!」


「そうだな! ましろ、絶対に登録者100万人達成するぞ!」


 アタシは、配信者として生きる。

 登録者100万人を目指して、全力で走りきってやる!

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