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第70話 アタシのあたふたソロ配信

「みなさん、こんクロー! あなたのお耳の浮気相手のクロナだ!」


:クロ様、こんクロ~!

:今日もクロ様、素敵なお声に耳が癒やされます!

:クロ様、復活されて良かった!


「リスナーちゃん、心配かけてごめんね。アタシはもう大丈夫だから」


 今回、配信を休んで体調管理の大切を思い知った。

 アタシが1日配信を休んだけで、こんなに心配してくれるリスナーちゃんがいる。

 配信以外何もしてないアタシを心配してくれる人がいるって嬉しいな。

 こんな温かいリスナーちゃんたちに心配かけていたと考えると、アタシは自分の考えの甘さを痛感する。


 最近、バイトもクビになって配信だけで頑張るって誓ってから登録者100万人を達成するために走り続けた。どんなに疲れていても「アタシには配信しかない」、「ここで止まればリスナーちゃんが離れてしまう」。そんな不安があって止まることが出来なかった。


 でも、結局風邪を引いて配信が出来なくて止まるしかなかった。

 無理して配信しなくちゃって焦ったけど、ましろがクオリティの低い配信はリスナーちゃんを裏切ると止めてくれて休むことが出来た。


 アタシを止めてくれたましろにも感謝しなくちゃな。


:クロちゃん、こんクロ~!

:あれ? クロちゃんしかいないの?

:ましろんは?


「今日は、ましろは休みだ。なんか、喉を痛めたみたいで」


 軽く冗談っぽく言ったけど、正直心配だ。

 ましろにアタシの風邪を移しちゃったじゃないかって。

 アイツ、アタシにつきっきりで看病してくれたみたいだからな。


 いけない。配信に集中しないと!

 またリスナーちゃんたちを心配させてしまう。

 アタシは気持ちを切り替えて配信に臨む。


:ましろん、いないなら帰ろうかな

:俺も!

:クロちゃん、じゃあね!


「おいおい、帰るのかよ! いいのか? 今日はアタシがましろに、どんな看病してくれたか話そうと思ったのに」


:それは知りたい!

:詳しく!

:ましろんはどんなコスで看病してくれたの!?


 お前ら、本当に現金な奴らだな。ましろの話題になると手のひらを返したように配信に残りやがった。別にアタシのリスナーちゃんだけでも良かったけど、今回のましろの頑張りはアイツのリスナーにも伝えたい。お前たちが推しているましろがアタシのためにどれだけ頑張ってくれたのか。


「しょうがないな。そんなに聞きたいなら、教えてやるよ」


:前振りはいいから、はよ教えて!

:ましろんはナースコスしてくれたの?

:ましろからの「あ~ん」は?


 お前ら、どんな看病想像しているんだ?

 そんな美少女ゲームみたいな展開あるわけないだろ。


「ましろは普通の私服だったよ。そういえば、あ~んはしてくれたな」


:ナースコスじゃない!?

:復帰したら、ましろにナースコスをレクチャーしなくては!

:ちょっと待て! クロちゃん、あ~んしてもらったのか!?


 ましろを崇拝するリスナーたちの嫉妬の炎がコメント欄に溢れかえっている。

 やば、コメント欄が荒れ始めた。


「お前ら、落ち着け! これ以上コメント欄を荒らすなら、もう話さないぞ」


:それは困る

:黙るから続きをプリーズ

:クロちゃん、はよ!


 はいはい、わかったよ。

 アタシは、ましろがしてくれた看病の続きを話し始める。

 まずは、ましろが苦手な家事を一生懸命にやろうとしてくれたことから話そう。

 風邪が治ってから洗面所に行ってみると、洗濯機の周りにグチャグチャ置かれた洗濯洗剤の数々を見つけた。多分、洗濯しようとしてくれたけど、どの洗剤を使えばよかったのか分からなくて断念したのかなって推測できた。ましろが洗剤と柔軟剤を右から左と見て、あたふたしている顔が容易に想像できた。


 ましろには悪いけど、ちょっと可愛いなって思ってしまった。


:ましろん、可愛すぎ!

:洗濯なんてクロちゃんに任せればいいの

:クロちゃん、なんでやってあげないんだよ


「いや、アタシが病人だったんだよ!」


:一生懸命なましろちゃん、可愛いですね

:ましろちゃん、がんばって偉いね

:アタシも洗濯苦手だから、ましろちゃんの気持ち分かります!


 リスナーちゃんたちも盛り上がり始めている。

 じゃあ、このまま続きを話そう。

 それからアタシのために作ってくれたお粥に塩と砂糖を入れ間違えていた。料理ができない女の子キャラみたいな典型的なミスをするなんて。味見した時点でおかしいなって気づかなかったのかな? 


 もしかして、アイツ。アタシが甘党だから「センパイはしょっぱいよりも甘い方が好きかもしれない」ってオリジナルアレンジのつもりで砂糖を入れたのか?


 砂糖を入れることを思いついた時のましろの自信満々の顔が頭を過って、思わず笑ってしまった。


:ましろちゃん、可愛い

:ましろちゃん、頑張りましたね!

:わたしもお粥に砂糖入れてみようかな


「いや、りすなーちゃん、悪いことは言わない。おすすめしないぞ! お粥は塩だろ!」


:ましろんの天然エピソード助かる!

:俺は、ましろの手作りなら何でも食うぞ!

:例え、マズくても……


「お前ら、すげえな。確かに味はあれだったけど、アタシはましろが一生懸命がんばってくれた気持ちが嬉しかった。それだけでお腹がいっぱいだったよ」


:クロ様、素敵な考え!

:私も彼氏に言われたい!

:クロ様、惚れ直しました!


「あ、ありがとう?」


 アタシは当たり前のことを言っただけなのに、リスナーちゃんが賞賛してくれている。

 変なことを言ったつもりじゃないのにな。


:クロちゃん、全国の男を敵に回したよ!

:キミみたいなイケメン対応をされると俺たちが困るよ!

:俺たちもしないといけないじゃないか!


「はぁ? 何を言っているんだ? これくらい普通だろ?」


:クロ様、普通じゃないですよ!

:その気遣いが出来ない男がほとんどです

:クロ様のイケメン戦闘力が高いのです!


「イケメン戦闘力! アタシは誰とも戦う気はないぞ!」


:クロ様が本気で受け取っちゃった!

:クロ様、可愛い!

:イケメンと可愛いが一気に押し寄せる!


「う~ん? よく分からないけど、アタシは変じゃないってことでいいのか?」


:はい!

:クロ様は、そのままでいてください!

:@ハイエナ クロちゃん、また女の子をメロメロにしているぞ!


「ハイエナさんまで! アタシ、何も変なこと言ってないぞ!」


:テンパるクロちゃん、可愛いかも……

:こやつ、裏切る気か!

:ましろんに密告しなくては!


「おいおい、みんな! これ以上アタシを困らせるな! ただでさえ、ましろがいないソロ配信でテンパっているのに」


 やっぱり、ましろがいないと上手く回せない。アイツがボケて、アタシがツッコむスタイル配信がテンポ良く、リスナーちゃんが聞きやすい。このままじゃ、アタシがテンパったままのグダグダ配信になっちまう。


:クロちゃん、配信がグダッているよ

:おい、それは言わない約束だろ

:やっぱり、ましろんがいないとな


「う、うるさい! お前ら好き勝手言いやがって! あぁ、ましろの奴、アタシに体調管理に気をつけろって言って休みやがって……」 


 最近、ましろはずっと一人で部屋にこもって何かの収録をしていた。

 どうせ、個人サイトで販売しているエロボイスの収録だろ。

 ましろの貴重な収入源かもしれないけど、しろ×クロちゃんねるに穴を開けるまでやらなきゃいけないのか?


 あれだけ体調管理に気をつけろって言っていた張本人が喉を痛めるなんて。


:ましろんの苦労も知らないで!

:おい、やめろ!

:ましろの計画が……!


 うん? 

 アタシがポロッと言ったましろへの文句を引き金にコメント欄が荒れ出した。

 ましろの計画? アイツ、アタシに黙って何かやっていたのか?


「おい、お前ら。なんか知っているな? 正直に言え!」


:ましろんと約束したんだ! 絶対に言わない

:いくら金をつまれても話さない

:お前、フラグ立てすぎだ


 ましろがアタシに隠れて何かをやっている?

 もしかして、急に登録者が増えたことと関係あるのか?


「いいから教えろ!」


:ましろん、ごめん

:これも、ましろんのためだから

:……


「ましろ……ウソだよな?」


***


「センパイ、おはよう。ごめんね、もう喉の調子が良くなったから、今日から配信に参加できるよ」


「ましろ、これ本当か?」


 アタシはガラホで撮った写真をましろに見せた。それは昨日の配信で知った事実が書かれたリスナーからのコメントだ。ましろが自分の限定ボイスをエサにリスナーに頼んでチャンネル登録者を増やしている。

 1日で5万人の登録者が増えたのは、このやり方の影響ってことだ。

 その証拠写真を見ても、ましろは一切表情を変えなかった。

 それは本当って意味で捉えていいのか?


「なんだ、バレちゃったか」


 裏工作がバレても、ましろは悪びれることなく薄ら笑いを浮かべている。

 何がおかしいんだよ。お前、自分が何をやったのか分かっているのか?


「ましろ、どうしてこんなことをした?」


「どうしてって、チャンネル登録者を増やすためだよ」


「こんな卑怯な手を使ってまで登録者を増やしたいのか?」


「卑怯? ボクはリスナーさんと協力して……」


「卑怯だろ! リスナーにエサを差し出して。配信者なら、配信内容で勝負しなきゃいけないだろ!?」


「センパイ……何言っているの?」


 ましろ? そこにはアタシの知らないましろがいた。

 いつもヘラヘラしているましろではなく、冷静に状況を分析している現場責任者みたいな顔つきになっている。「現実が見えていないのはセンパイだよ」って言いたそう目で見るな。

「センパイ、約束の半年まであと2ヶ月なんだよ。正攻法で増やすのには限界だよ」


 ましろの言い分もわかる。あと2ヶ月、配信をやるだけで100万人にするなんて無謀かもしれない。だけど、アタシはこんな卑怯な手を使ってまで登録者を増やすやり方を受け入れられない。何が1番嫌なのかって言えば、アタシに黙って卑怯な手に染めたことだ。


 お前はアタシと同じように実力で上を目指しているって信じていた。

 上手くいった時も、ダメな時も一緒に悩みながら試行錯誤して配信がんばってきたじゃないか。それなのに無理だと分かったら、こんな卑怯な手を使うなんて。


 もう、お前はアタシと同じ方向に進んでいないんだな。


「もう、お前と一緒にやれない……」


 どうしていいか分からなくなって現実から目を背けるように、アタシは自分の部屋に逃げ込んだ。


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