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出戻り聖女はもう泣かない
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BLファンタジーBL
2024年12月26日
公開日
2.6万字
連載中
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 他のサイトにも掲載しています。

第1話 ゆめうつつ

 夢を見る。

 毎日じゃないけど、経験した時間の順番じゃなくて、とびとびだけど。

 けどまあ、割と毎日毎夜。


 夢のほとんどは、記憶。

 ホントにあった、かつての、おれの記憶。


 おれが来生 寿太郎きすぎ じゅたろうだった頃の夢で、おれは令和の日本の片隅に住んでいた。

 ごくごく普通の中学生で、何の変哲もない暮らしで、毎日が退屈で、幸せだった。

 両親がいて、ばあちゃんがいて、兄ちゃんがいた。

 親戚や近所の人たちは普通に優しかった。


「お天道様は見てらっしゃるからね」


 それが、ばあちゃんの口癖。

 おれの家は田舎の集落の寺だったので、『お釈迦様』ならとってもよくわかる。

 だけど、何故かばあちゃんは『お天道様』って言っていた。

 とうちゃんはばあちゃんがそう言うといつも、苦笑いしながら、「でもまあ、間違ってないから」って言ってた。

 大事なのは「いつかの自分が、自分のことを恥ずかしいと思わないこと」なんだって。

 実家の寺は兄ちゃんが継ぐって決まっていて、次男坊のおれは将来を考えなさいって言われ始めた頃だった。


 当たり前の暮らしは、急に途切れる。

 おれはそこから突然、切り離された。

 覚えているのは、大きな黒い影と切り裂かれた痛み。


 そしてどういったわけかおれは、令和の日本じゃない、この世界にいた。

 いつの間にかおれを囲んでいたたくさんの大人たちに、召喚されて連れて来られたのだと、教わった。

 その頃の夢は盛りだくさんすぎて、目が覚めたら疲れてはてていることが多い。

 おれを呼び出したのはこの国の王宮の人たちで、おれは生まれもってきっちりしっかり男だったのに、何故か、女の身体になっていた。

 訳が分からない。

 その上、傷をいやしたり気持ち悪いもやもやを消したりできるなんて、不思議な力を持っていた。

 おれは『聖女』と呼ばれて、その力を使って言われるままに仕事をした。

 だって他にどうしようもなかったから。

 慇懃無礼に大事にされて生活の面倒を見てもらっているけど、逆らったら、全く何もわからないこの世界に放り出されちゃうって、そう感じた。

 知らない大人たちが、おれを利用していると思っていた。

 寂しくて不安でどうしようもなかった。

 そんな中で、おれを好きだと言ってくれた人がいたんだ。

 イルス。

 気持ちの隙間にしみこむように、好きだ愛してるなんて言われて、守られて、優しくされてみ?

 ほだされちゃうだろ。

 元は男だったとしても中身が違う訳じゃない、その心根を持つお前が好きだって、そう言ってくれたんだ。

 その言葉を信じた。

 身も心も、求められるままに差し出した。

 男だよって思ったけど、おれをあげるからイルスを頂戴って、考えた。

 身不相応だと思いながらも、プロポーズに頷いた。

 ホントに身分不相応だよ。

 だって、イルスは王子だったから。

 結婚したら『聖女』の仕事で支える以上に、おれにできることでイルスを支えたいって思った。

 だけど叶わなかった。

 誰の犯行かは分からないけど、今の後宮にいる姫たちの中の関係者が、犯人なんだと思う。



 おれは突然元の世界に戻されてしまったんだ。





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