基本的な戦法はゴブリンのときと同じ。
だが、敵が一体なので二手に分かれる必要はない。
まず、リカードが鋭い爪と牙を持った毛むくじゃらの魔物に突っ込んでいく。
「この! 今度はコテンパンにしてやるからね!」
まず、魔物を<挑発>してから突っ込んでいく。
今回は一人だけなので両手の短剣で魔物一体を斬り裂く。
攻撃は見事に命中するが、リカードの攻撃力では浅い。
「ガァァァァァ!」
「うわっ……と!」
しかし、先程の<挑発>の効果もあってか、魔物は自分を攻撃してきたリカードに全力で爪を振るう。
リカードは前回のことがあって多少ビビりつつも、すんでのところでその爪を回避する。
「あっぶないな~、もう」
「続けていくよっ、エアリアルスラッシュ」
「グァァァァァッ!」
文句を言うリカードを無視して、続けてレイが少し離れた場所から風の魔法で魔物を斬り裂く。
さすが魔法攻撃だけあって、魔物の全身から血しぶきが飛び散り大きなダメージを与える。
「僕だって、負けてないよ。バッシュ!」
「グゥッ!」
続けてフランツも素早い動きで魔物を斬り裂く。
こちらも物理攻撃とはいえ、しっかりと魔物の身体に傷を残していく。
「ホーリーウェポン」
誰も攻撃を受けていないということもあり、私は攻撃力の高いフランツの武器に聖なる力を込める。
また、いざというときにみんなをフォローできる位置へと移動する。
基本的にはこの繰り返しで、リカードの攻撃、魔物の反撃、レイの風魔法、私の付与魔法と続く。
だが、その均衡が崩れる時が来た。
「ガァァァァァ!」
魔物の鋭い爪が、とうとうリカードの身体へと届く。
「うわあ!」
「させない!」
思わず悲鳴を上げて身を固くするリカードと魔物の間に、素早くフランツが割って入る。
私もフランツの動きに合わせ、フランツの身体にバリアを張る。
それでも魔物の鋭い攻撃はバリアを砕いてフランツの身体を切り裂くが、盾を構えていたフランツはそのダメージを最小限に抑える。
「調子に乗るな!」
「フランツ、すぐに回復するからね。ヒール!」
牽制するようにすぐさまレイが風の魔法を魔物に放つ。
その攻撃は追撃を行おうとしていた魔物の動きを見事に封じる。
また、切り裂かれたフランツの腕や肩は私の放ったヒールによって全快する。
その後も一進一退の攻防が続く。
基本的にはダメージを最小限に抑えながら魔物へ確実にダメージを与えていっていた。
だが、徐々にこちらの精神力も減っており、魔物の生命力が尽きるのが先か、こちらの精神力が尽きて防ぎきれなくなるのが先かといった戦いであった。
「ギガァァァァァ!」
「ひっ!」
「なっ!」
そんな中、突如魔物の<咆哮>が洞窟内に響く。
かなりのダメージを与えたはずなので、いわゆる『第二段階』に入ったのかもしれない。
魔物と刃を交えていたリカードとフランツは、その声で動きが止まってしまう。
そして……。
「うわあぁぁぁっ!」
「ぐああぁぁぁっ!」
<咆哮>を行った後、魔物は続けて身体を回転させてリカードとフランツを斬り裂く。
私は慌てて防御力の低いリカードにプロテクションをかける。だが、バリアを張れなかったフランツはもちろん、リカードもバリアを突き破って全身を切り刻まれてしまう。
「痛い……」
「くっ……」
二人共、ダメージの大きさに膝をついてしまう。
せっかくダメージを蓄積させたというのに、一気にピンチだ。
「エアリアルスラッシュ!」
「グァァァァァッ!」
だが、みんなの心が折れかけたときにレイの鋭い声が響く。
風の刃を受けた魔物は血を撒き散らせながら苦しむ。
そうだ、魔物のほうも生命力が相当減ったからこその逆襲だったのだ。
「タカヒロさん! 僕を回復させてくださいっ」
レイの攻撃に気持ちを奮い立たせたフランツは、私にそう声をかける。
リカードではなく自分を先に回復させろということは、一気に決着をつけるということなのだろう。
チラッとリカードの状態を確認するが、笑顔で親指を立てている。
まだ大丈夫だということなのだろう。
その姿に、私は指示通りにフランツの身体を回復させる。
「ヒール!」
「ガァァァァァ!」
私がフランツを回復させると、魔物も好機を逃すまいとリカードに止めを刺しに襲いかかる。
だが、今度はフランツが間に入ってシールドでしっかりと受け止める。
さらに……。
「これでトドメだ! ギガテンペスト!」
「グァァァァァッ!」
フランツの攻撃は周囲の空気を渦状にしてまとい、一気に魔物の胸を刺し貫く。
圧倒的な破壊力に魔物は大きな断末魔を上げながら後方へとふっ飛ばされる。
そして、二度と動き出すことはなかったのだった。