「みんな、今日は集まってくれてありがとね」
「こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます」
「……ありがとね」
「せんせ〜、ありがと〜」
「サンキュー」
私の言葉に生徒……いや、元生徒達が挨拶を返してくれる。
みんな社会人なのだが、それぞれ自分の高校時代の制服を着ている。
なぜ、そんなバラバラな高校の卒業生達が私の家に集まっているのか……それは、私が塾をやっていて彼らがそこの生徒だったからである。
学校も学年もバラバラだったけど、みんなかわいい生徒達だ。
ちなみに何か呪いにでもかかっているのかと不安になるほど、みんな小柄で中学生の時から見た目が変わっていないような気がする。
「みんな、年度初めの忙しい時期にわざわざごめんね。でも、せっかくだからワイワイしよう」
「はい、楽しみましょう」
「賑やかなの、苦手なんだけど……このメンバーならいいか」
「わ〜い、いっぱいおいし〜もの食べる〜」
「おれもお菓子は食うぜ」
とりあえず、一人ひとり飲みたいジュースを選んでもらって紙コップに注いであげる。
フランツは注いでもらう立場に躊躇していたが、私が注いであげたいと説得する。
それぞれジュースを手に持ったところで軽く乾杯を行い、それぞれ好きなお菓子を食べながら雑談する。
「フランツとレイは大学生だよね? 大学生活は順調?」
「僕はもうすぐ卒業ですけれど、教育実習ももう終わりました」
「オレはまだ入ったばかりだから、必修授業に追われている感じかな」
フランツはそこそこ勉強のできる地元の教育大学、レイは誰もが知っている名門国立大学の学生だ。
この塾の子達はあまり裕福な家庭の子ではないため、二人とも国公立大学に入学できて良かった。
フランツは中学生の頃からコツコツと勉強を頑張っていたし、レイも自分の能力の高さにあぐらをかかず、しっかりと勉強を頑張っていた。
努力家なフランツが学校の先生になると堅物先生になりそうだが、他の子達の姿を見ているので多様性はよくわかっていると思う。
レイに関しては私よりも頭がいいので途中から教えられることはなかったのだけど、家庭がしんどいので居場所のような形で利用してくれていた。
「おいらはお仕事、頑張ってるよ〜」
リカードが近づいてきて、そう告げる。
リカードは高校を卒業した後、地元の児童養護施設の職員になった。
「こども達、かわいいんだよ〜」
塾生だった頃と変わらない愛嬌のある笑顔でそう告げる。
「おれも仕事、頑張ってるぞ」
今度はダイが近づいてきて、そう告げる。
勉強が苦手で何度も欠点を取っていたダイだが、私やフランツのサポートでなんとか高校は卒業し、今は土木系の仕事をしている。
元々力も体力もある子なので、きつい仕事だけど頑張ってやっているようだ。
「今日はこのままお泊り会したいな〜」
「リカード、先生の迷惑だぞ」
「お前だって泊まりたいくせに」
「……オレも泊まりたいな」
リカードの言葉に、みんなが反応する。
「私としては、お泊り会は大賛成だよ」
「先生がそうおっしゃるなら!」
「……ありがと」
「やった〜。枕投げしよ〜」
「よし! 負けねーぞ」
みんなのテンションが一気に塾生だった頃に戻る。
もはや一種の家族感がある彼らと、これからも仲良くやっていきたいものである。