「い っ た あ あ あ い な あ あ あ あ あ に い い い が あ あ あ あ ……?」
何かを見つけてアタシたちに知らせようとしたバッグ。だけど突然、様子がおかしくなっている。
喋る速度や動きが、非常に遅い。処理落ちにしてはいきなりすぎる……
「バッグはん!? どうしたああああああんやああああ あ あ あ あ ……」
キャンピングカーの運転席にいたデリボクも、同じように動作がゆっくりになった。
バッグの様子を見ようとして、運転席の窓から落ちる。その落ちるところだけは普通の速度……ガンと地面に顔を撃ってから、立ち上がろうとする動きは、ナマケモノのような動作だ。
「バッグ、デリボク、なにがあっ――」
その瞬間、アタシの周辺で異変が起きる。
バッグとデリボクの動作が元通りのスピードになった。
だけど、代わりに……
風に揺れる周囲の葉が、不自然なほど早いスピードで揺れだした。
今度は、周りが早送りに、なっているように。
バッグ、デリボク、そしてアタシを置いて、周りの時が疾走していく。
いや……これはまるで……
まわりじゃ、なくて、アタ シ た ち が ……
「ッ!」
瞬間、アタシは誰かに押され、そのまま空へと連れられるッ!
直前にアタシの前の奥にいたのは……茂みから銃口を突きつける人影。
バッグが警告しようとしてた人影が、アタシに向けて発砲しようとしていたんだッ!!
下に森が見える位置まで上ったころには、周りの異変も収まっていた。
風も正確な速度へと、戻っている。
「サンキューッ! シャヴァルドッ!!」
飛行能力で助けてくれたシャヴァルドに、アタシは感謝の言葉を投げた。
シャヴァルドが助けてくれなかったら、本当に危なかっ……
「……?」
なんだか、シャヴァルドも様子がおかしい。
さっきのバッグやデリボクとは違うけど……
震えてる。
まるで、なにかを恐れているかのように。
そのシャヴァルドの足を見れば……
蒸気を噴射させていた右足が、ない。
アタシの代わりに、弾丸がシャヴァルドに当たったことで……右足が破壊されたんだ。
落下するその体を、少しでも保とうとシャヴァルドは踏ん張り飛行を続ける。
だけど足の噴射口がなくなったことでバランスが取れていない……!
アタシを掴むために離すことができないから、その両腕も使えない……!
ダアァンッ
「あッ」
銃声とともに、シャヴァルドの左腕が宙を舞ったと思えば……ッ!
「――っっっっっっあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
シャヴァルドの左腕から零れ落ちたアタシは、森の中へと落ちていく――ッッッ!!!
「ッ!」
ザザザと葉がこすれる音とともに、アタシは木の枝を掴むッ!!
……地面を見下ろし、アタシの疑似人格は
危なかった。あの高さから落ちたら、地面に叩きつけられてパーツの大部分は破損していたところだった。
後ろを見れば、岩壁がそびえ立っている。
バッグたちがいた場所よりも、下の方に落ちてしまったようだ。上に戻るのも迂回しないと厳しそうだな。
バッグとデリボクも様子がおかしかったけど、大丈夫かな……
「う、うううぅ……」
すると、どこからかすすり泣くような声が聞こえてきた。
その方向を見てみると……
「! シャヴァルド!?」
胴体着陸したような姿勢で地面にうつぶせになっているシャヴァルドに向かって、アタシは走る。
「シャヴァルド、しっかりしろ!」
「うう……うううぅ……」
……シャヴァルド、もしかして泣いてる?
改めてシャヴァルドの体を見ると、右足と左腕がなくなっていて、断面から火花を散らしていた。
やっぱりこのダメージは深刻なのか……アタシたちAIに生き物のような痛覚はないけど、損傷した時の情報は電子頭脳に送られる。それを嫌な感覚と認識する疑似人格の性格もあるから、それで泣きはじめたのか……?
「シャヴァルド、アタシが連れて行ってやるよ。バッグならその手足直せるはずだからな」
アタシはシャヴァルドをおんぶして安心させてやる。それでもシャヴァルドは「うぅ……」とうめいていた。さっきよりはほんの少しだけ落ち着いた感じだけど。
「だいじょうぶだって! バッグは自分の腕も修理できるからな! シャヴァルドの体もあっという間に直しちまうぜ!」
「ち……ちがうの……」
ん? とアタシはシャヴァルドの顔を見る。
シャヴァルドはアタシの背中でぷるぷると震えて下を見ている。
まるで空から目を逸らしているように……
「低いところ……怖いの……」
「……え?」
……えっと、もしかして??
「シャヴァルドって、低いところが怖い……“低所恐怖症”?」
アタシが尋ねるとシャヴァルドはノイズまみれの
「やっぱ……なんか昔にトラウマでもあった……?」
「生理的に……無理……」
……
そ、そういえばシャヴァルドってキャンピングカーの屋根に乗ってたりコテージでも頑なに部屋へ入ろうとしなかったよな……
「……シャヴァルドが今まで高いところから降りようとしなかったのって」
「怖いからに決まってるよおおおおおおおおおおおお!!!」
ピイイイイイーーーーーーーーーーッ!!! と、電子音まじりのギャン泣きに、アタシは「お、おーよしよし」と揺さぶってあやす。ちょっと聴き方がストレート過ぎたかな……
「今バッグたちのところについたらすぐに修理してもらうから、そこまでの辛抱だ。な?」
「うううう……ううううううううう……」
するとシャヴァルドは、ヨジヨジと片手と片足で器用に上りはじめた。
「ちょ、そこアタシの頭! 取れるッ! ちょっとでも高いところに上ろうとするのはいいけど頭取れちゃうって!」
「うー……ううー……」
最初の謎めいた雰囲気が吹っ飛ぶギャップに戸惑いつつも、アタシはシャヴァルドを背負って森の中を歩き始めた。